4 蘇藍龍
顔を伏せたまま、冷や汗が肌から噴き出すのが分かる。
今、自分の目の前にいるのが、顔を伏せた熊掌の
五百年前に、自身を
「良い良い。
「随分と辛い目に合わせてしまってすまなかったねぇ。こんなにかわゆいものを
熊掌は耳に届いたその言葉に全身が粟立つのを止められなかった。月皇は、今、
「――しかし、主等の中に、
「っ……!」
「猊下」
横から璋璞が口を挟む。月皇はちらと璋璞に視線をやると――笑った。
「わかっておるわ。瀛洲の
熊掌の心の臓が底から冷える。――笑うのか、この皇帝は、この場面で。
「冗談はさておいて――麾下に命を
熊掌は拳を握りしめて、月皇の顔を凝視した。それは祖父の幽閉と同じ事を意味するのだと悟った。
じっと、
熊掌が感じていたのは、圧倒的な威圧と畏怖だった。月皇は一切声を荒げる事なく、その全ての言葉を軽やかに
月皇は、微笑みながら視線を向ける事を止めない。
「
紅注す眦が、すっと細められる。
「――お主だろう?
頭から冷や水を浴びせ掛けられた様に、熊掌は完全に硬直した。
「あれもなかなか腹の内を見せぬ仔狗でな。素直でないから、得た知見も全て即座には奏上してこない。毒散らしの術も、何がしかのおりに手札として使おうと取っておいたのであろ。それが、なかなかどうしてかわいらしい事をするじゃないか。お主の助命嘆願に使おうとは。『
そこまで楽しげに口にしていた月皇であったが、突如目元から笑みを消すと、す、と背筋を伸ばした。
「――さて、蘇の子」
低い、低い声音に、ざわりと空気が換わる。
「我が麾下に刃向かったお主の
「――はい」
「しかし、お主が邑の事、
「は――はい」
「今後はお主が
「―――――御意」
熊掌が額を地に着けると、月皇は「ふふ」と笑った。
「あれが
全身にぞわりと怖気が走った。これで意味が分からぬ程、さすがに熊掌も
「あまりお
璋璞が
「俗世の統治に降りたとは言え、神への
つるりと冷たい汗が滴る。諱。己の諱。何度も何度も薄闇の中で悟堂に繰り返し呼ばれた。あの夜の声が、耳の奥に、全身に蘇る。
―――青。
「――
熊掌が答えるや否や、月皇はすっと立ち上がると、
「蘇青、だな」
白い両眼が薄く青く、妖しく光り、熊掌の両眼を射る。
全身を粟立たせるような微笑で、月皇は告げた。
「よし、では青を産みだす色をやろう。東の涯を守るのは龍だ。これより、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます