4 喝破
1 沙璋璞
ぴちょん、と水滴が近くで
その音に誘われたかのように、ふぅ、とゆっくり
虚ろな
――もう何日をこうやって牢に繋がれ過ごしたろうか。
ああ、こうなって少しだけ
それぞれ違う移送車に乗せられ、一月近い行程を経て自分達が引き立てられたのがここだった。移送車から下ろされる直前に頭から布を被せられ、この牢に叩き込まれたから、ここがどこなのかは分かっていない。邑からどれ程離れているのかも想像が付かない。何もかもが分からないまま、今に至っている。
熊掌は、小さな溜息を
瞼の裏に、あの柔和な笑顔が蘇る。
守ると言ってくれた。
耳元で
その人を、その命を、自分はあの海に取り落としてしまったのだ。
すっぽりと包まれたぬくもりを思い出しても、すぐにつるりと
本当ならば、こんな事で心を締めている場合ではないのに。父と自分の双方が同時に不在となっている邑は大丈夫なのか。今どうなっているのか。母上と長鳴は、皆は無事なのか。何よりそこを考えるべきなのに、今の自分はどうだ? 思い浮かぶのは、彼と――
最初の内は、悟堂の生存に対して一縷の望みをかけてあれこれ考えを巡らせ続けた。
もしかしたら、姿が見当たらないのは、ここではない場に捕らえられているからかも知れない。いやもしかしたら、ここにおいて彼は捕らえられる側の立場にはないのかも知れない。
ある日突然、見慣れぬ衣服を纏い、牢の鍵を開けて、「約束したろう」と笑いかけてくるかも知れない。
もう、推測かも妄想かも分からなくなって――考えるのを止めた。
この状況下では、何一つ真実になど辿り着けはしないのだ。
――阿呆だ、俺は。
自嘲の笑いで、喉の奥がくつくつと小さく鳴った。
周囲の状況を探れるのは音と光だけだった。最初の内は幾ばくか
ゆっくりと右隣の壁を見る。その向こう側には、しばらく前まで父が繋がれていた。ある日唐突に兵が数名現れ、熊掌の牢の前を通り過ぎた。右側から荒い言葉と共に金属の軋む音がした。ややあって、鉄格子の向こう側を、鎖に繋がれた父が通り過ぎて行った。ほんの一瞬だけ目が合ったが、その姿は吸い込まれるようにして左側へと流れて消えた。
そうして、本当にそこにいるのは自分一人だけになった。
諦めと痛みに慣れ、確実に意識を取り戻したと実感を得てから、既に数日が過ぎている。溜息なのか吐息なのか分からない物が唇から零れ落ちる。開いた時と同じように、ふぅっと瞼を閉じた。
と、
ぎぎぃ、と重い音が聞こえた。
は、と目を開き、つい、と視線を左に送る。鉄格子の向こうの石床を光の筋が濡らしている。――扉が開いているのだ。
そのまま待っていると、やがて三人の兵が姿を現した。がちゃがちゃと
さすがの熊掌も
真っ先に眼を引いたのは、先頭に立つ一人の男だった。
男は、胸に届く
「――
赤甲冑の男は、低く静かな声で問うた。熊掌が無言のまま頭を垂れると、男は後ろに控えていた兵に「
熊掌が久方ぶりに解放された腕をさすっていると、一人残った白髭鬚の男が眼の前で膝を突いた。思いも寄らない行動に、熊掌は思わずびくりと
その目で熊掌を見詰めたまま、すぅ、と大きく息を吸い込む。
「――本当に、分からぬものだな」
「え」
ぼそりと男が零したその言葉を聞き洩らした熊掌が眼を見開いていると、男は頸を横に振り「
「手荒な真似をした。しかし、貴殿の力が強過ぎてな。こうする事しかできなんだ」
最初は男の話を理解できなかったが、捕縛の直後と到着して後、しばらくの間、自分は随分と暴れたらしい。止むを得ず薬を盛った事を詫びる、と男は続けた。
「我は禁軍右将軍、
「あ、あの……」
久方ぶりに発した声は、かすれて音にならなかった。否、暴れていたというから声を枯らしたのかも知れない。
「あの、父と、それから、他に捕らえた者は、ありませぬか。供の者が、背を、二本の矢で射られて海に落ちたのですが……」
これが、熊掌と右将軍
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