if編

if 由衣が不倫をしていない世界線

「達也……。ダメだって事は分かってるけどお願い聞いてもらっても良いかな?」


 由衣は申し訳なさそうに仕事終わりの達也に頼み事をしたいと話を切り出した。


「内容によるけど……そのお願いって何?」


「もっとイチャイチャする時間が欲しい……。段々仕事が忙しくなってきてるのは分かるんだけどもっと二人の間にある愛を育みたいというか……。達也が遠くに行っちゃう様でなんていうか、寂しい」


 達也は少し考え込んでから何か納得したかの様に顔を上げて由衣に近づく。


「言葉にして俺に伝えてくれて嬉しい。由衣がそんなに寂しいと感じているとは思ってなかった」


 達也は由衣に抱き着き、由衣の後ろ髪を乱れない程度にそっと撫でる。


「子どもが出来た時の為に仕事量を増やしていたつもりだったけど。それ以前に由衣と仲が悪くなったら嫌だしね。由衣の事はずっと大好きだから由衣との時間を作れるように色々考えてみるよ。」


 由衣は達也に抱き着かれたまま自分の為に時間を作るようにすると言われたことで嬉しくなり達也を目一杯感じるように達也のもたれ掛かるように身を預けた。




 ◇◇◇


「由衣、コレさ、めっちゃ時間かかるんだけどこのまま食事を続けるつもりか?」


 由衣の為の時間を作ると達也が言った週の週末。由衣は達也と食べさせ合いをしながら食事をしていた。


「達也があーんしてくれるの嬉しいから。はい達也、あーん」


 達也の膝の上に座る由衣がスプーンを達也の口元に運ぶ。


「百歩譲って食べさせ合いは分かる。膝の上に座るってのも分かる。でも両方を同時にする必要はあるのか? 由衣も食べさせづらいだろ?」


「確かに達也の口に入れる瞬間はしっかり見れてないけど。達也を肌で感じられるから良いの!」


 何とか食事を終えた後、一緒に洗い物をすることになった二人だったがまたしても達也は時間の掛かる作業を由衣に提案される。


「あのさ、分担した方が早く終わると思うんだけど」


「ダメ。一緒に洗うの」


 達也は由衣を後ろからハグする形で立たされ、由衣の手を掴んで洗い物を洗わされる。由衣の手で洗い物を洗っているが力を加えているのは全て達也である。


「まじでコップ洗いにくいんだけど」


 由衣は手を達也に操作されながら洗い物をスポンジで擦る。そこに由衣の力は一切加わっていない。

 しっかり洗うには達也が由衣の手を力を込めて握らなければならない。


 そう、洗い物の綺麗さと由衣との密着度が比例して上がるようになるというわけである。


 食器を洗っている間由衣は力を入れなくて良かった為、自身の手が達也に握られて終始デレデレだった。




 ◇◇◇


「達也。今日は土曜日だよ! 明後日まで仕事無いよね?」


「うん、明日は丸一日予定ないな」


「達也の事もっとそばで感じたい。布切れ一枚あいだに無いくらいそばで」


 由衣はそう言うと服を脱ぎながら達也に迫る。


「ねぇ、ベッド行こ?」


 隠すところが隠されていない状態で抱き着かきながら上目遣いで誘ってくる由衣に耐え切れず、達也は由衣の事をお姫様抱っこした。


「絶対に今日は寝かさないから。良い?」


 寝かさないと言われて由衣は逆に胸が高鳴った。



 ベッドに由衣をそっと寝かせた達也は服を脱ぎ、由衣に覆いかぶさるようにベッドに倒れ込む。


「ヤバい。無い……」


 既に臨戦態勢の二人にはもう一度服を着る気はなかった。


「達也……私ね自分の子の授業参観に行った時に若い奥さんですねって言われたい。だから……」


 由衣が言わんとすることの意味が分かった達也は由衣が話し終える前に動き始めた。


「達也、大好き。一生離れないから。絶対に達也の事だけ考える。頑張って家族を増やそうね!」




 ◇◇◇


「せんぱ~い。今日も早く帰っちゃうんですか?」


「いやぁ、自分の娘が嫁に似て可愛すぎるんだよ」


「そう、ですか……。良いですね。幸せそうで……」


「じゃあ、お先に失礼」


 達也がニコニコして嬉しそうにオフィスを去っていく姿をゆかりはため息をつきながら眺める。


「はぁ……。先輩の奥さん良いなぁ。あんなに優しくて仕事も出来て声も顔も性格も良い旦那さん。先輩以外に居ないよ、そんな人。」


「あれあれ? どしたどした」


 達也の出て行ったドアを眺めるゆかりの元に一人の女性が近づく。


「松本先輩。わたし、叶わない恋しちゃいました。出逢った時から結末が決まっていた失恋物語です」


「元気出して。……そうだ! 愚痴相手にでもなれば? 奥さんって結構なんでもできちゃうタイプなんですかって自慢させるように質問してポロッとこういう所直して欲しいなとか徐々に愚痴を増やさせていくの。それで自分の方が魅力があると気付かせれば……」


「先輩はそんなトラップには引っかかりませんよ。第一かなり大きな欠点がなければ愚痴をこぼさないと思います。それにあの先輩の奥さんですよ? きっと完璧でしっかりとした人に決まってます」


「かぁ……あのハイスペックで更に性格まで良いと来たか……。もうこの際私が寝取って――」


「寝取りはダメです。絶対に! 奥さんに似て可愛い娘なんて言うんですから先輩も奥さんにべた惚れみたいですし」


「しっかりした奥さん、か」




 ◇◇◇


「ただいま!」


「おかえりなさい!!」


 元気よく家に帰って来た達也を由衣はエプロンを付けたまま出迎えた。


「由美にもただいま」


 由衣が抱いていた娘の由美に達也は顔を近づけて、ただいまと言う。


「由美はもうご飯食べた?」


「うん。食べさせちゃった。写真は撮ってるけど」


「まぁそりゃそうだよね~明日は休日だから……」


 明かに落ち込む達也。達也は由美がご飯をパクパク食べる所を見るのが好きで、間近で見る為にどうしても食べさせたがる。


「ね、ねぇ達也。私はまだ食べてないよ。だから、その……ばぶぅ」


 由衣は顔を赤らめながらどこからか取り出したおしゃぶりを口に装着する。

 第三者から見れば明らかに痛いやつだと思われるかもしれないが達也はそうは思わなかった。


「俺の為に……」


 達也は夕食を食べられるようにスーツから着替えたり色々支度を終わらせると由衣を自身の膝の上に乗せてご飯を食べさせる。


「おしゃぶり取るよぉ」


「あうあう……」


 おしゃぶりを外した時、由衣の心はもう幼児になっていた。


「由美と一緒で由衣はまだおしゃぶり卒業できないんでちゅか? はい、口開けて。あーん」


 美味しそうに食べる由衣を見て嬉しそうに笑みを浮かべる達也。達也にあーんして貰えて嬉しい由衣。


「パパ、大好き!」


「俺も大好きだよ。俺のお嫁さん」




 ◇◇◇


 達也が育児に積極的になった結果……。

 数年後


「パパ、大好き! わたしがおっきくなったら結婚しようね!」


「あ、また私の旦那様を口説いて……。もう結婚してるもんね。ね、達也」


 由美と由衣が達也をめぐる争いをしていた。




 ――――――――――

 これにて『結婚記念日に会社から帰ると妻は玄関で土下座をしていた。』は完結いたしました。

 更新がバラバラになりつつもここまで見て下さりありがとうございました!

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結婚記念日に会社から帰ると妻は玄関で土下座をしていた。 夏穂志 @kaga_natuho

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