第19話 子育て

 ……無事赤ちゃんは産まれた。

 名前は達也とゆかりからそれぞれ『ゆ』と『也』を取って祐也という名前になった。


 今は達也も育休期間なので家には全員揃っている。

 由衣もあれから時間が経って、すっかり家政婦という形で家に馴染んでいた。


「本当に祐也は可愛いな」


 元は望んで作った子ではないにしても自分に似た子だという事で達也はすっかり親バカになっていた。

 男の子なのにひたすら可愛いという始末である。


 由衣も祐也に触れる事を許されたので抱っこをさせて貰ったりしていた。


「目元が達也にそっくり……」


 優しく腕の中で寝る祐也の頭を優しくそっと撫でながら呟く由衣。

 しかし、祐也が突然泣き出したので由衣は動揺する。赤ん坊を抱くには相応しくないと言われているようで泣きそうになった。


 由衣はゆかりに祐也を渡した。


「お腹すいたのかな?」


もしそうならば……と由衣はホッとする。


「じゃ、じゃあ俺はちょっとオムツの追加を買いに行って来るよ。もう一つくらい買っておいても損はないだろうし、結局必要になるだろうからさ」


「あ、うん。ありがとね!」


「じゃあ私も付いて行こうかな? 荷物持ちとして……」


 由衣は達也に付いていくと言って達也と一緒に家を出て行った。




 ◇◇◇


「達也、今幸せ?」


 家を出てオムツとついでにその他のものも買いにお店へ向かっている時、由衣は達也に尋ねた。


「うん。色々あったけど今は幸せかもしれない。まぁ色々無かった方が幸せだったとは思うけど……。由衣は幸せか?」


「……。本当にごめんなさい。今更許してなんて言わないけど謝らせてほしい」


 達也の発した質問に答える素振りは全く無い。

 由衣は道の真ん中であるにも関わらず膝をつき達也の前でゆっくりと土下座をする。


「ちょっと、こんなところで……」


 今は人はいないがこんな所を見られては絶対におかしいと近所の人たちから思われると思ったのでやめさせる。


「やっぱりこれからはゆかりを第一に考えていくと思う。それでも一緒に暮らしたいって思うなら一緒に暮らそう」


 達也の言葉に顔を曇らせながらも決して嫌な顔をする事なく、何か納得したかのように由衣は頷いた。


「でも、俺たちが仲良くしてる所を見て嫌に思ったり、辛くなったらいつでも出て行って良いからな。それは由衣が決める事だし俺には決める資格は無いからさ」


 由衣は未だ何も発さず只々頷くだけ。


「……ありがと、達也。普通は不倫がわかったら離婚して、慰謝料請求してバイバイなのに達也はずっと私をそばに置いてくれた。一度誓ったのにまた不倫相手と身体を交わらせた。それでも家に置いてくれた」


 また不倫相手と身体を交わらせたと由衣が言った時、達也は一瞬身体を震わせたがそれはすぐに収まった。


「達也、何も言わなくても良いから聞いて欲しい。……ありがとう。それと……今でも大好き」


「うん。ありがとう。気持ちは嬉しい。でも答えは決まってるからさ、由衣も気づいてるだろうから多くは言わないけど……ごめん」


「うん……。買い物、行こっか」




 ◇◇◇


「裕也くんはいつも美味しそうに食べるね~」


 由衣は裕也に離乳食を作り食べさせている。

 祐也が生まれてから一年が経つ頃、ゆかりは仕事に復帰したので由衣が面倒を見る事になっていた。


 ゆかりは祐也の将来を考えて今の内に稼げるだけ稼ごうと考え、祐也が小学校に入るまでは仕事を続けたいので由衣に面倒を見て欲しいとお願いをしていた。


「あ〜む」


 幸い、祐也も由衣に嫌悪感を見せる事はなく、寧ろ好意を持っているかのように言うことを聞く。


「反抗期になったら私も嫌いって言われるのかなぁ」


 子どもの頃の達也に嫌いと言われているようでグサッと少し胸に来るものがある。

 由衣は未だ言語もままならない少年を前にもう未来のことを想像したしまう。


「よし、少ししたらお昼寝をしよっか」


 由衣は祐也の身体を持ち上げソファに座らせる。


「お昼寝に入る前にテレビでも見よっか」


 由衣は英才教育が大事だと考え単語を未だ話せない祐也に教育番組を見せる。

 テレビを見つめる祐也を見て由衣は単語は話せなくても言葉は分かるのだろうかと思った。




 ◇◇◇


 やがて祐也は小学校に入学し、晴れて小学生になった。

 そんな週末のある日。


「祐也! ママ、今日からずっと一緒だよ! 今日からママお仕事無いの。今日はお祝いに一緒にお風呂入ろっか」


 最近、祐也は大人になりたいと言って一人でお風呂に入り始めた。

 そんな祐也に今、ゆかりがお風呂に一緒に入ろうと提案した。


「それなら由衣さんと入りたい」


「「「え?」」」


 達也、由衣、ゆかり全員が何を言っているのか分からなかった。


「僕、由衣さんに身体洗ってもらうの好きなんだ。すごい優しく洗ってくれて……。でも最近はママとばっかり入るようになってね、ママ痛いって言ってもゴシゴシやるの辞めてくれないから……」


 最近まで土日以外、祐也をお風呂に入れていたのは由衣だった。しかし、最近は有給消費などもありゆかりが一緒にお風呂に入る事も増えていた。


「そっか、そういうことか……」


 声に出して安堵したのはゆかりだったが達也も由衣もそれぞれの意味でホッとしたのは間違いなかった。


 息子が由衣を好きになったんじゃないかという不安を持った達也。


「大丈夫! 優しく洗ってあげるから」


 その言葉にわかったと返事をして祐也はゆかりとお風呂に向かった。




◇◇◇


 その日の夜。


「由衣さん。まだ起きてますか?」


 自分の部屋をこっそり出て、由衣の部屋へ訪れた祐也。


「あ、また来ちゃったの? 寝れない?」


 由衣は週に数度、部屋に来るのが当たり前になった祐也と一緒に寝るようになった。


「うん。今日もぎゅーってして寝たい」


 ゆかりがまだ会社で働いていた頃の話。二人で家に居た由衣と祐也はいつものように過ごしていた。しかし、雷が鳴り祐也がひどくビビってしまった事があった。


 そんな祐也を安心させる為、包み込むようにハグをした。祐也はそれが心地よかったのか由衣に時折、包み込むようなハグをして欲しいと言うようになった。


「……二人ともごめん」


 祐也がすっかり眠ってしまった後、由衣は天井に向かって達也とゆかりに謝る。


「こんな風に求めてもらえるの、すごい嬉しいから断れないよ。……達也、『幸せか』って聞いてくれた事あったよね。私、今、凄い幸せかも」


 由衣は今だけだからと達也とゆかりに申し訳なく思いつつも許してと天井に向かって発し、祐也の頭を撫でて眠りについた。




完(本編)




——————————

 終わり方に不満があった場合は申し訳ないです。


 ここまで読んで頂きありがとうございます!

 沢山の方にフォローして頂いたり、評価して頂けて嬉しいです!!


 作品を考えた当初は普通にゆかりが達也と恋人関係になり、イチャイチャして由衣を後悔させるという話でしたが、そう言った作品は溢れているなと思ったのでこういった構成になりました。


 由衣支援の方も多くいらっしゃった?ので

ifルートで不倫していない世界線も書いてみようと考えてます。

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