第18話
「……ごめんなさい」
仕事で疲れていたとしてもシラフの達也に力では及ばなかった。
由衣は襲おうとした所で両肩を抑えられて我に返った。
「いや、俺も自分がどんな格好だったのかをしっかり考えて出てくるべきだった」
達也はお風呂の中で由衣と一緒に入っていた事を思い出してしまった。そのせいで感覚が昔に戻ってあんな格好でお風呂から出て来てしまった。
「朝の見送られる時、久々に2人きりだったからかな……」
「え?」
「なんでもない。それよりお風呂、俺が最後だったか?」
達也は首を振り、さっきの発言を忘れるよう言い、それから由衣がお風呂に入ったかどうかを聞いた。
「まだ行ってないよ。でもシャワーだけで大丈夫だから」
「そっか。ごめん。お湯流しちゃって……」
会話が途切れてしまったので由衣はご飯があると言い達也を椅子に座らせる。
「私は……お風呂行くね。もしお風呂から上がってくるまでに食べ終わっていたら洗い物は流しに置いてくれたらいいから」
「由衣、ありがとう」
達也は由衣がお風呂に向かってから食事を始める。
「これ美味しい……。由衣、料理の腕前上がったのか。……一生自分達に尽くさせるってのはやっぱりおかしいよな」
達也が一人でブツブツ言っている所に寝た筈のゆかりが二階から降りてくる。
「ごめんゆかり、起こしちゃった?」
「違うの。あんまり寝つけなくて、それでもしかしたら、帰って来てるかなって降りて来たの」
「そっか、ただいま」
「おかえり!」
ゆかりはいつも自分が座っている席に腰を下ろすと口を開いた。
「今日は疲れた?」
「まぁまぁかな」
「そっか。フフッ」
ゆかりが突然微かに笑ったので達也は何故笑ったのかを尋ねた。
「新婚さんみたいだなって思ってね」
「確かに」
しばし沈黙が流れ、達也は思い出したかのようにゆかりに相談する。
「そう言えば明日……いや今日って由衣の誕生日だった気がする」
時計を見て十二時が回っているのを確認してゆかりに今日が由衣の誕生日になった事を話す。
「え、そうなの?! 祝ってあげないとだよね」
「一つ相談なんだけどさ、プレゼントと一緒にもう自由だって伝えてみようかなって思うんだけど……。由衣の免罪符を良い事に家事を押し付けてたなって気がして……」
「うん、苦労を押し付けてたかも……。由衣さん、もう不倫なんてしなさそうだし自由になって貰った方がいいかも」
達也はゆかりの発言にコクリと頷き、決まりだなと言って食器を流しの所に置いた。
「俺、今日会社の帰りに何か買って帰るよ。それで三人で話し合おう。もちろん仕事は早めに切り上げて帰ってくるよ」
「わかった。待ってるね」
由衣の居ないリビングで話が進んだ。
……それを由衣が聞いているとも知らずに。
◇◇◇
シャワーを浴びるだけだったのですぐにお風呂から上がった由衣。
「私、ひどい事しちゃった? 何かやらかしてしまった? 確かに達也に襲おうとした。でも結果的に何もなかった……達也が抑制してくれたからだけど」
由衣は部分的にしか二人の会話を聞けなかったので自身の解釈で会話を繋げてしまった。その結果、自由にするという名目で家から追い出されるという解釈をしてしまった。
「嫌だ。いやいやいやいや……。折角、ゆかりさんとも仲良くなって来たと思ってたのに。達也から離れるのも嫌。こうなったら……」
ある事を決意した由衣は脱衣所の扉を開けて二人の元へ向かった。
「あの! 誕生日プレゼントはこの家で家事をしても良いという権利が良いです。私、もう一人で生きていけない気がして……。だから一緒に暮らさせて下さい」
まさか本人が聞いていると思っていなかった二人はポカンとしてしまう。
「でも、縛ってる気がして……」
「正直に出て行きたいって言っても良いんだよ? 申し訳なくなるくらい尽くしてもらったから」
「私は自分の意思でこの家で家事をしています。なので出て行きたいなんて思っていません。達也の事ももう襲おうとしませんから……」
「襲う?」
ゆかりが由衣を睨むように見つめる。
「あれは風呂上がりであんな格好をしてた俺にも非があるから」
「まぁわたしも襲った人だから何も言う資格は無いんだけどね。ただもう赤ちゃんもいる夫婦の夫に襲いかかるってのはどうかとは思うかな。わたしは離婚してから襲ったわけだし。まぁそういう問題では無いと思うけど」
「はい。二度としません。なので家に置いて下さい」
達也とゆかりは互いに見合い一つの結論を出した。
「「わかった」」
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