クリスマス中止!? カセットテープに秘められた罠!!

kayako

閃光の夜



『なお、このメッセージは5秒後、自動的に消滅する』



 昔のスパイ映画の有名な文句である。

 カセットテープにより主人公に指令が届けられた直後、この文句と共にテープはレコーダーなどの媒体と共に爆発し、消滅する。



 カセットテープ自体が希少となってしまった現在であるが、今、俺の手元には大量のテープ、そして同数のラジカセがあった。

 そしてこれらのテープは、あの映画の文句を実現する、恐ろしい機能を秘めている。

 この日――クリスマスイヴの為に一年かけて、着々と準備してきたものだ。

 火薬よりも、テープとラジカセを揃える方が至難の業だったが、執念と根性で何とかした。

 40過ぎてろくに友人もおらず独身リーマンの俺には幸か不幸か、金を使うべき相手はいない。貯蓄は有り余っている。



 雪の降るイヴの日。

 街を出歩くのは、大勢のカップル。

 手を繋ぎ合い、腕を取り合い、プレゼント交換に湧き、物陰でそっと抱き合う男女の群れの中を、俺は独り、肩をすぼめながらひっそりと通過する。

 そして街路樹の陰、ベンチの裏側、噴水のそば。カップルが寄り付きそうなありとあらゆる場所にそっと、テープを仕込んだラジカセを置いていく。

 盛大な祭りになるだろう――俺はほくそ笑んだ。



 全ての仕込みを終え、俺はビルの屋上から街を見渡した。

 そろそろ時間だ。


『なお、このメッセージは5秒後、自動的に消滅する』


 街のあちこちに仕掛けたラジカセから一斉に、例の文句が流れ。

 ――そして。






 轟音が、雪の街を揺るがした。

 同時に――






 雪の夜空に、盛大な花火が次々と打ち上げられた。

 赤、青、緑。色とりどりの閃光と化したカセットテープが、イヴの空を染め上げる。






 え、本当にカップルどもを爆発させたとでも思ったか? 逆だよ、逆。

 街からは、季節外れの突然の花火に湧くカップルたちの歓声が、俺の耳にも響いてきた。

 爆発音に驚き悲鳴を上げる女を、慌てて抱きしめる男。

 そして、花火と分かって笑顔になる二人。そんな光景が目に浮かぶ。

 テープの消滅後に指令を下すのはルール違反かも知れないが、まぁ、いいだろう。



「……幸せになれよ、お前ら」



 そう呟きながら、俺は雪の中、静かにその場から立ち去った。




Fin

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