32 年ぶりの恋

@HATRUKAMI

第1話 32年ぶりに君を見た。

32年後に、こんなふうに君と会えるなんて思いもしなかった。

君はあの時とはちょっと違う。笑うと目尻にいっぱい皺ができる。それを僕はなぜかこんなにも可愛いと思ってしまう。あの頃は、君がちょっと太っただけでもいやだった。僕の自慢の彼女だった君は、いつも綺麗でいてほしかった。「サークルで一番美人の彼女がいる俺」が僕にとっては大事だったんだ。と、今ならわかる。ごめんよ。そして、僕は相変わらず自分勝手だ。だから結婚もできないまま、52歳になっちまった。笑っちゃうよ。それなりに出世したんだぜ。同期が200人もいた中で僕だけだよ、役員になれたのは。ほめてくれよ。それにジムにだって、週に2回も通ってる。お腹がこんなに出てない52歳ってそういないぜ。腕の筋肉だって、いい感じで隆起してる。この腕に身を預けてくれた女は数知れず。おっと、数知れずって言葉がよくないね。悪い悪い。ざっと50人は軽く超えてる。そう、君と別れて32年の間に50人を超えてるんだ。たいしたもんだろう。スーツよりもカジュアルウエアとかが主流らしく、ネクタイなんかも全然売れてないみたいだけど、いやいや、男はスーツをびしっと着こなしてこそ、男よ。ダンディズムってものを忘れちゃあいけない。だから日本はどんどん骨抜きになっていくんだ。どこもかしこも骨抜き野郎ばっかりで気に食わねえ。「自分の意見を言えよ。自分の言葉で発しろよ。自分のスタイルを持てよ!! 」と叫びたくなる毎日さ。SNSなんかをたまに覗くと反吐がでるよ。おまえらそんなにいいねが欲しいのかって。本当に欲しいものはちがうだろ。

 「えっ? 変わってない」だって・・・当たり前だろ。そう簡単に人間は変われないんだよ。そう簡単に人は忘れられないんだよ。

 窮屈なスーツを着てるのは、本当は、だれかが「倫也くんのスーツ姿って、めっちゃかっこいいね」って言ってくれたあのときの沙都子のふにゃってした顔が忘れられないからだよ。悪いか。文句あるかよ。男ってそんなもんだ。32年も変わらずにずっとそうなんだよ。


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