第44話 外伝ー2 食べ放題デイズ

 この世界にはAとBの二種類がある。使い古された言葉ではあるが使わせてもらう。この世界には、食べ放題の店とそうでない店がある。食べ放題には、寿司だったり、焼き肉だったり、ドリンクバーだって食べ放題の一種のようなものだ。えっ? 二種類じゃない? そもそも言っている意味が解らない? あ、大丈夫。きっと言っている人もわかってないから。


 千波せんば千夏ちなつは、しゃぶしゃぶ食べ放題の店の前を通り過ぎようとして立ち止まる。そして、何か思いついたことがあった。とばかりに来た道を戻り始める。そして、食べ放題の店の前を過ぎたところで立ち止まる。


 千夏はプレッシャーを感じていた。店の中から沢山の視線が自分のことを見つめていることに気づいていた。八月の中旬。時間は、十二時三十七分五十八秒。天候は晴れ。快晴ではなく少しだけ薄い雲が泳いでいる。そのおかげで、直射日光は弱められ気温の上昇は抑えられている。


 それでも暑いものは暑い。この時間はあまりの暑さに、今までよく鳴いていたミンミンゼミも鳴いていない。時折、思い出したかのようにアブラゼミがジージーと鳴いているが、千夏が睨みつけると、液体をピュッと放出しながら飛んでいった。


 ふぅ。と彼女は息を吐く。今月分の生活費は残っている。ボーナスだって片手で数えられるほどの金額は残っている。多少の贅沢をしてもいいんじゃないか。そんな言い訳を考えつつも、色んなことが頭に思い浮かんで決心ができない。


 母親と弟を残して、一人で外食をしてもいいのか。とか、自分一人で贅沢をしてもいいのか。とか、そもそも食べ放題なんて元が取れるのか。とか、考え始めるとどうしても止めることができない。このまま立ち去るべきでは? と思いつつも、このチャンスを逃しては、一生、食べ放題に来れないのではないか? という考えも思い浮かんで、不審者の嫌がらせのように店舗の前の往来をウロウロとしてしまっていたのである。


「何しているの?」


 千夏は背後から声をかけられて振り返る。と、そこにはおさげの女性が立っていた。紺のジーパンに赤いブラウス。右手を腰に当てたスレンダーな体形の持ち主は、千夏の心の奥底を見抜こうかというように大きな眼鏡をくいっと動かすとニコリと笑う。


「お、おしげ……どうしてこんなところに」

「肉を食べに来た以外に何をしに? それより、何をしていたの」

「い、いえ、別に……」

「冷たいじゃない。私に隠し事するなんて」


 おしげが懐から五円玉を取り出すのを見て、千夏ははぁぁ。と大きくため息をついた。

 

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