第43話 外伝-1 千夏と梓
「ありがとう。助かったわ」
千夏がお礼を言いながら立ち上がると、女子生徒は首を傾げる。
「どうしたの?」
「いえ、何故、占われずに帰られるのかと疑問に思いまして」
「私のこと占いたいの?」
「お望みでしたら」
「じゃあ、悪いけど遠慮させてもらうね」
「どうしてですか?」
女子生徒が首を傾げたままわからない。と言わんばかりの態度に思わず千夏はプッと吹き出す。
「だって、そのタロットカード思いのままなんだよね。それって占いって言うよりペテンに近いと思うよ」
千夏が言うと女子生徒は目を大きく見開いてカードを持っていない右手で口を隠す。
「どうして、そんなこと言うんです? 私の占いをペテンって言うなんて酷すぎます」
「口元が嗤っているのが隠せてないって」
「あらあら、
女子生徒はカードのシャッフルを始める。
「カードをシャッフルしていると気持ちが落ち着くんですよ。世の中の聞きたくないけれども聞いてしまう雑念とかが少しずつかき消されていって、真実が見えてくるような気がするんです」
「捏造された真実が?」
「さあ。どうでしょう。どんなカードが出たとしても私の言うことは同じですから。それに真実なんて誰もよく分かっていないものじゃないんですか。所詮、いくつかの情報というパズルから集めたガラクタのようなものなんですよ。それを私は提供しているだけ」
千夏は腕を組む。
「重藤さんの言うことはよく分からないけど、助かったのは事実だからそのことには感謝してる」
「私のことはオシゲとお呼びください」
千夏がペコリと頭を下げると、女子生徒はタロットカードを置いた。
「オシゲ?」
「重藤なのでオシゲ」
「下の名前は?」
「梓ですが?」
「じゃあ、梓で」
千夏が言うと女子生徒は少しだけ頬を膨らませる。
「それならば私も千波さんのことを千夏って呼ぶけどよろしいでしょうか」
「いいよ」
千夏は自分ができる限りのめいいっぱいの笑顔を見せる。意図的ではあるけれども、本当に嬉しさが伝わるように見せつける。
「いい笑顔すぎますね。これだから同性に恨まれるんですよ」
「今日はサービスだって。いつもはこんな笑顔は見せたりしないよ」
「なら、私は約得でしょうか」
「お礼だからね」
千夏が女子生徒に背を向けると呼び止められる。
「まだ、何か?」
「ご飯でも一緒に食べませんか?」
「もう、食べ終わったって」
「何故かここにカップラーメンが二つとポットに波々のお湯が入っています。ああ、失敗してしまいました。両方ともにお湯を注いでしまいそうです」
「そんな事しないでも……」
千夏が言いかけた瞬間に、お腹がグウと音を鳴らす。
「ちなみに、私の情報では千夏は毎日、お昼を食べていないということが分かっています」
「梓、あんた、何処まで知ってるのよ」
「学校内のことなら大抵のことは」
「で、私に何をやらせたいの?」
「情報の収集には時間とお金がかかるのです。それを手伝ってとは言いません。ただ、占い部に在籍していただいて昼食を一緒に食べていただけるだけで十分です」
「それ、私しかメリットないじゃない」
「いえ、お客さんが期待できますので十分にペイします」
「マスコット的な役割を期待してるの? 無駄だと思うよ」
「大丈夫です。人寄せパンダとして活躍いただけると分析済みですから」
「なにそれ、酷い話」
「世界ってどうしてこう醜いのでしょうね」
女子生徒が千夏が見せたのと同じくらい飛び切りの笑顔を見せたので、千夏はわざとらしくため息をついてから割り箸を要求した。
「毎日、カップラーメンじゃないなら」
「契約成立ですね」
女子生徒の伸ばしてきた手を千夏は握り返した。
クラスの美少女が住む神社で働くことになった僕は何故か巫女服を着ることになりました。 夏空蝉丸 @2525beam
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