第22話 老保母の複雑な思いを伺って

 大宮氏のよつ葉園滞在時間は小一時間少々。旧知の山上敬子保母とも再会した。


「山上先生、御無沙汰いたしております。大宮哲郎です」

「大宮さん、お久しぶりです。岡山に戻られたので?」

「いえ、まだ函館ですが、数年のうちには、大阪か岡山に戻る予定です」

「私ももうそろそろ定年ですが、働ける限り、この地で子どもたちのお役に立てるよう、頑張って参りたいと思っております」

「そうですか。街中の御自宅からほぼ毎日、原付で通われているそうで。しかも、原付免許も移転に合わせて取得されたと伺いました。正に「五十の手習い」ですね」

「若い頃の、あなたもご存知の独身時代のことを思えば、何ともないですよ」

「それはまたお元気で何よりです。しかしなぜ、自家用車の免許を取得されなかったのですか? どうせこれだけ距離があるなら、クルマで来られた方がよろしいかと。特に雨の日なんかは、そのほうがむしろ安全でしょう」

「もちろんクルマの利用も考えましたが、うちには駐車場のゆとりがありませんからね。なんせ街中で駐車場も安くはないですし、維持費もかかるじゃないですか。それに私、大槻君のようなクルマ好きでもありませんし、ましてあの米河清治君のような鉄道マニアとまで言われるような鉄道好きでもありませんから」


 ここで大槻氏だけでなくかの少年まで引合いに出されていることに、大宮氏は、山上敬子という女性の新世代の男性や少年たちに対する複雑な思いを感じた。


「大槻君や米河君らはともかく、山上さんにとっては、鉄道もそうでしょうけど、クルマもバイクも自転車も、皆等しく生活のための「足」ってことですね」

「そうです。ええ。クルマを買ってまで通勤するのはどうかと。原付でしたらそこまでお金もかかりませんし、何となれば、家業の配達にも使えましょうから」

「いずれにせよ、お元気そうで何よりです。この調子で、いつ頃までお仕事を?」

「そうですね、定年後も、出来れば70歳くらいまでは働きたいですね。週何回かでもいいから、この地の子どもたちのために、何かができればと思っています」


 大宮氏は、さすがに先程の園長室での話を持ち出す気にはなれなかった。

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