第21話 費用対効果の見込めない事業
「スペースの問題もあったってことかな?」
その答えは、必ずしもそれだけが理由ではなかったようである。
大槻園長が、その経緯などについて回答している。
はい。それもあります。
さすがに、こんなところで小学校の高学年以上の子ら向けのプールは無理ですよ。
とりあえず、本格的なプールまで作れる余力はありませんでした。ここはこの程度にしていないと、迷い込んだ幼児に溺れられたらオオゴトになりますから。
実はいっそ、学童用レベルのプールを作って地域に開放することも考えました。
昔津島町でやっていたでしょ、あの公衆浴場のようなパターンでね。
ですが、銭湯ならまだ年中需要も見込めますが、プールとなれば温水プールでもない限り夏場しか稼働させられません。
そうなると、費用対効果はとうてい見込めませんので、さすがにやめました。
わざわざプールに入るために金もとれませんし、ね。
・・・ ・・・ ・・・・・・・
費用対効果
その言葉がこの期に及んで出てくることに、いささか違和感を抱かないわけでもない。ここは営利団体ではなく、何も収益を求める性質の場所でもないのだから。
だが大宮氏はその話には乗らず、そのプールに関して別の話を持ち出してきた。
2年前のプール開きのときの話をかねて米河少年より聞き及んでいた彼は、それをさっそく、大槻園長に対して話のネタに上げてきたのだ。
「ところで、あの米河君はこのプールの話を聞いて、相当呆れていたらしいぞ」
「ええ、彼の叔父さんから聞きました。プール開きの式典のお話ですよね。なんか、罰ゲームをさせられているみたいだと言って呆れていました。同級生の賀来博史君や中崎冬樹君らになだめられて、ようやく怒りの矛先を収めていたようです」
「あの少年が丘の上に来ずに済んだのは、お互い、幸せというものかもしれんな」
「それは、痛感しております」
・・・ ・・・ ・・・・・・・
さらに大槻氏は、給食室、講堂圏集会室、園児の住む3つの「家」たるABC各寮に加え、自らが夫人と2人の息子たちと居住する職員住宅などを紹介して回った。
大宮氏のよつ葉園滞在時間は小一時間少々。旧知の山上敬子保母とも再会した。
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