第14話 珈琲豆と珈琲を淹れる人の出自

トントントン


 ここで、女性事務員がドアをノックした。

「どうぞ」

「失礼いたします。珈琲をお持ちいたしました」

「ありがとうございます」

「ありがとう。じゃあこれ、よろしく」

 女性事務員は飲み干された湯呑を下げ、新たに珈琲を2人前、テーブルに置いた。

「それでは、どうぞごゆっくり」

 彼女はそう言って丁寧にドアを閉め、給湯室へと去っていった。

 今度は、先の湯呑のような蓋はない。

 香りが、室内くまなく充満していく。


 珈琲をすするまでもなく、大宮氏は、その香りだけ嗅いだ段階で疑問を呈した。

「大槻君、この珈琲もこれまた、かなりいいものを使っているのではないか?」

「ええ。インスタントではありません」

 それ以上つつかれることを、大槻氏はすでに覚悟している模様。

「確かにそうだが、それどころではなかろう。豆自体かなり高品質のものではないかと尋ねているのだ」

「ブルーマウンテンではありませんが、特選の豆を、先日購入しましてね」

「このカップも、なかなか品のあるいい品物ではないか」

「はい。これは、移転時に私が選んで購入した来賓用です。さすがに大宮さんのような御方の前で、いつも飲んでいるマグカップで飲むわけにも参りませんから。そうそう、ついでに申しますと、先程の事務員は、短大時代に喫茶店でアルバイトをしておりまして、珈琲を淹れるのも実に上手でして」

「それはまた偶然とはいえ、君にとってはいい人材に恵まれているようで何よりだ。私だって大層な御身分でもないが。しかし、君はたいしたものだ」

「こういう気配りは、若い頃からしっかり意識して、身に着けてきたつもりです」

「その成果は確実に出ておるようで、何よりです」


 彼らは、それぞれ珈琲をブラックのまま、飲んでいる。

 程なく、先程から中断していた話に戻った。

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