第15話 否決された早期退職案

「山上先生の件ですけど、私としましては、いい形で後進に道をお譲りいただければそれが一番ではないかと思っております」

「ぼくも同じ立場なら、その方向で動くだろう。ところで君は、これまでにこの問題について、いささか手を打って行こうとしては見られたようだね」


 その話は、手紙で相談がすでに行っていたため、大宮氏は状況を把握済である。


「ええ。そのチャンスがまさに、この度の全面移転でした。山上先生にはこちらへの全面移転を機に退職していただき、その代わり退職金を割増してお支払いしてはどうかと、そのような案を当時園長の東(東航氏・元小学校長でよつ葉園前園長)に提案しました」

「それは確か、こちらに移転が決まった一昨年の年明け頃の話だね」


 大宮氏はそのことを大槻氏から直接聞いたわけではない。

 しかし、そのような行動に出るのがいつ頃かくらいのことは、すぐに分かった。


 ええ、そうです。

 あれは一昨年前、昭和56年1月の年始の職員会議前の週末のことでした。

 私は、その点について園長や他の理事に、理事会でこの議題を図りました。

 しかしながら、このときは東園長はじめ森川元園長につながる数名の理事らから、山上先生の仕事を無理に奪わなくてもいいではないかと言われ、その案は実行に至りませんでした。

 ある理事に至っては、年齢差のギャップをよつ葉園という「家庭」で知ることも、子どもらや若い職員にとっても糧になるのではないかと、そんなことまで言われる始末でして。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 「山上先生の存在が子どもらや若い職員各位にとっての「糧」になるかどうかはともかくとして、いわゆる早期退職を、君は山上さん御本人に正式に提案したのだね」


 移転前の状況の一部始終を聞いた大宮氏は、それを総合してまとめてみせた。


「しかしながら、そこまでには至れませんでした」

「それはしょうがないとしても、なぜ、君はその手法を思いついたのか」

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