第3話 丘の上から見る光景~この景色、百万ドルや否や

 丁度、午前11時前。すでに朝礼などは終わっている。

 園庭では、自分よりはるかに若い保母たちが、幼い子どもらを遊ばせている。


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 大宮氏は、丘の下の景色を見下ろすように眺めた。

 はるか彼方に、児島湾が見える。その手前には、一面の田園地帯が広がっている。

 かつて練兵場があった他にはさしたる建物もなく一面の田畑で埋め尽くされていた津島町の昔の光景が目に浮かぶ。

 あの時は、平地から半田山を望んでいた。しかし今度は、半田山程度の高さの丘の上から下を見下ろすような形になっている。

 東側の山のすそ野を、国鉄赤穂線の電車が走っているのが見える。

 かつてこの地からその方向を見下ろせば、西大寺鉄道の列車が見えたことだろう。

 だが、赤穂線の開通をもってその西大寺鉄道は廃止され、バス路線への転換が果たされている。


 ここで大宮氏は、クルマから持出したよつ葉園のパンフレットを確認した。

 この学区の小学校は徒歩で約30分近く先の山崎小学校。

 数年前、人口増のため倉益小学校と分離したそうである。

 中学校は、その倉田小学校よりさらに自転車で十数分先にあるという藤崎中学校。

 よつ葉園の中学生の子らは、その藤崎中まで自転車通学をしている。

 かなり必死で走っても、20分を切るかどうか。普通に自転車で移動して、30分近くかかるという。

 後にこの学区は藤崎中から分離され、丘のふもとで百間川のそばに海吉中学校が開校したため、中学生らの自転車通学は移転後から約5年間で終わったという。


 確かに、これが夜ともなれば、さぞや素晴らしい夜景が展開するのだろう。

 百万ドルの価値があるとも言われる六甲山から神戸の街や港の夜景を眺めるようにもならないだろうが、これはこれで、風情のある光景にはなろう。

 しかし、その景色は本当に、ここにいる子どもたちを癒し得るのだろうか?


・・・ ・・・ ・・・・・・・


 時間にして数分。

 丘の上からの景色を幾分眺めた大宮氏は、管理棟と思しき建物にむかった。

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