とある夫婦が展望広場で、そして。

 クリスマスの夜。

 とある山頂近くにある展望広場で、一組の男女がそこから見える夜景を眺めながら話していた。


「ふう、楽しかったわね」

「ああ、俺もだよ。お前といろんな所に行っていろんな人に会ってな」

「こんな素敵なものまで手に入れられてほんと幸せだったわ」

「ああ。ところであの野球選手の人、ちょっと勘違いさせてしまったな」

「仕方ないでしょ。本当の事言ったって信じられないでしょうし」

「だろうな。俺達が世話になったのは彼の友人のだからなあ」


 その後しばらく二人は、何も言わずに夜景を眺めていた。


「こんなに変わったんだなあ、この国も」

「ええ……あれからいろいろあったわよ。そして今も」

「ああ。海の向こうでは戦争が……敵味方関係なく流した血と涙は、無駄だったのかと考える事もある」

「いいえ、充分伝わってますよ。だからいつかは、ね」

「そうだな……」


「ありがとな。俺がからずっと一人で息子を育ててくれて、ずっと孫達を、ひ孫達を見守ってくれて」

「あなたもから見守ってたんでしょ」

「まあそうだが、何も出来なかったからなあ」


「……ふう、少し前でよかったわ。もし昨日か今日だったら」

「だな。折角のクリスマスをってなっただろな」

「ええ。しかしなぜこんなふうに出来たのかしら?」

「それはたぶん、お前へのクリスマスプレゼントだろうな」

「あなたにとってもでしょ」

「ああ。そんなもの貰えるとは思ってなかったよ」


 話しているうちに、雪がちらついてきた。

 それは輝いているようにも見える。




「お、雪かよ。ホワイトクリスマスってか……なあ、そっちはどうなんだ?」




「あ、雪だー!」

「こら、はしゃいでると転ぶわよ」

「大丈夫、もう子供じゃないんだからー、ってうわああっ!」

「あーあ……もう」




「お兄ちゃん、外見て! 雪だよー!」

「お、明日は積もるかな?」

「もし積もったら雪だるま作ろうねー」

「ああ、そうだな」




「雪か……閉店までいちまったよ」

「ねえ、今度はいつ会えそう?」

「……なあ、もしよければ初詣、一緒に行かねえか?」

「え、うん!」




 カーン……

 カーン……


 どこからともなく鐘の音が聞こえる。


「さてと、そろそろ行くか……長い間お疲れ様」

「ありがとう、あなた……」




 そこにはもう、二人の姿は無かった。

 ただ、一枚のカードが落ちていた。

 それにはこう書かれていた。


「メリー・クリスマス」

 と。



 終

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聖誕祭にあったそれぞれの物語 仁志隆生 @ryuseienbu

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