友に語りかけるとある男性

 なあ、クリスマスに来るなとか言わないでくれよな。

 今日なら誰ともかち合わないかなって思ってだったんだ。

 


 ここは地元の霊園。

 目の前にあるのは、あいつが眠る墓。

 俺は線香を立てた後、手を合わせて祈った。


 あの時はありがとな。

 ほら、高校一年の夏休みの終わり頃だよ。

 俺は宿題が殆ど終わってなくて、今からじゃ間に合いそうもなかった。

 写させてもらうにしても友達には頼めなかったんだ。

 親同士付き合いがあるやつばかりで、バレる可能性が高かったから。

 もしそうなったら部活辞めさせられてしまう……勉強と両立させる約束だったから。

 それで殆ど付き合いのないお前に電話して頼んで写させてもらったんだよ。

 おかげで辞めずに済んで、その後も続けられたよ。


 なあ、お前は誰の頼みでも断らずに引き受けてくれてたな。

 ほんとありがとな……皆も今頃感謝してるよ。

 俺もだけどな。お前のおかげで、今はさ……。


「さてと、今日はいい酒持ってきたんだ。飲んでくれよな」

 持ってきた瓶の蓋を開け、墓石にかけてまた手を合わせた時だった。


「おや、誰かいるな?」

「うわあっ!?」

 振り返ってみるとそこにいたのは、俺達と同年代くらいかなって感じの男と女だった。

「あなた、びっくりさせちゃダメでしょ。ああすみません」

 女性の方が頭を下げて言った。

 どうやら二人は夫婦みたいだな、と。

「い、いえ。あの、こちらのご家族の方ですか?」

「いえ、私達はここにいる人にお世話になった者なんですよ」

「あ、そうでしたか……あれ?」

 こんな人達いたっけ?

 こんくらいの美男美女なら記憶に残りそうだが。

「ああ。私あの時体を悪くしていたんでね、出れなかったんですよ」

 奥さんが察して言ってくれた。

 そういうことか。


「彼には学生の頃世話になったんです。当番を代わってもらったり、弁当持ってこなくて腹減らしてた時に飯分けてもらったりとか……」

「私はいじめられてた時があったんですが、彼がこの人と一緒に助けてくれたんです。それと……私達の仲をね」


 なんだよおい、まだそんな話があったのかよ。

 てかお前たぶん彼女いなかっただろ? それでもかよ。

 ほんとお前はいいヤツ過ぎだよ……ん?


 気がつくと奥さんがじっと俺の顔を見ていた。

「あの、俺の顔になんかついてます?」

「いえ。違ってたらすみませんが……もしかしてプロ球団のモウギュウスの三宅選手ですか?」

「え、俺の事知ってるんですか?」

 俺は下位指名で入団したし、元々そんなに有名じゃない。

 関係者以外だとせいぜい一部の相当なファンが知ってるかなってくらいだ。

「ええ。私実はモウギュウスのファンなんです。だから選手もコーチもスタッフさんも全員覚えてるんです」 

 この人は相当な方だったようだ。


「あ、あの、サインくれませんか!」

 うわ顔が近い、旦那さんが怒るぞ。

 って色紙もなんもねえんだが。


「そうだ、これに書いてもらっていいですか?」

 旦那さんが持っていた袋から二つの箱とペンを取り出して言った。

「え、ええいいですよ。けどそれ、大事なものなんじゃ?」

 綺麗にラッピングされてるしな。

「はい。結婚記念日の祝いにと買ったものです」

「いや、それだったらまずいでしょ」

「いいえ、それこそ何物にも代えがたい記念ですよ!」

 だから奥さん、顔を近づけるな!


「ま、まあ俺のでよければ……」

 俺は旦那さんがラッピングを取った後、箱にサインした。 

「ああ、こんな機会が訪れるだなんて……うううう」

 そんなに泣くほど喜んでくれるなんて……ようし、来年も頑張るぞ。


「っと、俺もう行かなきゃ。では失礼します」

「ええ、ありがとうございました」


 


 このまま帰ろうかと思ったが、クリスマス気分だけでも味わいたいなあと思って繁華街に寄ってみた。


 しばらく歩いた後、暗くなってきたしそろそろ帰ろうかと思った時だった。

「……え?」

 少し離れたところにいたのはあいつによく似た、いやあいつだった。

 よく見るとえらく可愛い女の子が側にいる。

 そんなバカなと思って近づこうとしたら、あっという間にいなくなった。

 

 幻だったのだろうか?

 いや、もしかすると生まれ変わった?

 ……そんな訳ないけど、そうだったらいいなあ。

 

「なあ、彼女と幸せにな」

 俺は上を向いて呟いた。 

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