とある花屋の仲良し姉妹

 今日はクリスマス。

 いつもと変わらずお店を開く。 

 プレゼント用のお花やアクセサリーをたくさん用意してたけど、お昼前なのにもう半分以上売れちゃった。

 

 立地条件は正直悪いのに、お客さんがたくさん来てくれる。

 彼女が宣伝しまくってくれたおかげね。


 そう思っていると、その彼女が話しかけてきた。

「店長~、あの人さっきからずっとあれ見てるけど、注意する~?」

 言われてみると二十代くらいの男性がじっと飾ってある楓の葉に見立てたペンダントを見て、財布を広げてはうんうん悩んでた。

「もうちょっと待ってましょ。きっと恋人にでしょうし」

「そだねー。あたし達は全然だけどねー」

「そうねえ……」

 あなたがいつもくっついてくるから、私達がそっちだと言う人もいるのよ。

 とは言えなかった。


「ほええ、立派な花屋だなあ」 

「あら、こんなお店が出来てたんですね」

 見ると一組の若い男女がいた。

 女の人の口ぶりからして、久しぶりにこの辺りに来たってとこかなあ?

 

「あ、いらっしゃいませー、何かお探しですかー?」

 彼女がいつもの調子で声をかけた。

「ええ。今日は結婚記念日なんで、何かないかなあと思いまして」

 男性が笑みを浮かべて言う。

「おお、クリスマスが結婚記念日だなんていいですねー。そうだ店長、あれなんかオススメですよねー」

 彼女がこっちを見て聞いてきた。

「え? ああ、あれね。でも用意するのにちょっと時間が」

「ふふん、こんな事もあろうかとある程度は準備してあったのだ」

 彼女は腰に手をやって得意気に言った。

 もう、用意周到ね。


「ほう、ではそれを見せてくれませんか?」

「はーい。じゃあ少し待ってくださーい」

 そう言って彼女は奥へ駆けていった。


「失礼ですが、お二人はご姉妹ですか?」

 男性がそんな事を聞いてきた。

「いえ違います。けどたまに言われるんですよ、似てないのに」

「いや、雰囲気がそっくりですよ」

「それに店長さんと店員さんってふうに見えませんものね」

 お二人が口々に言う。


「ええ、もう長い付き合いですから」

「ほう、もしよければ聞かせてくれませんか?」

「え、うーん。では」


 私達の出会いは、あの子が小学生で私が高校生の時でした。

 迷子になって泣いてたあの子を慰めて話を聞いてると、うちの母がやってた花屋の常連さんの娘さんだと分かったんです。

 それで家に連れて帰って、連絡を取って迎えに来てもらったんです。


 そこからあの子はお母さんに連れられてよくうちに遊びに来てくれました。

 私もなんか妹ができたみたいで嬉しく思いましたよ。

 けど……花屋の経営が苦しくて店を閉める事になったんです。

 それでちゃんとお別れも言えないまま、私達家族は親戚を頼って遠くへ引っ越したんです。


 その後私はバイトしながら大学まで行き、就職して夢だったフラワーコーディネーターになりました。

 そこで何年か働いていたある年の春、あの子が入社してきたんです。

 最初は気づかなかったけど、あの子は別れる前にあげたペンダントをずっと大事に持っていて、それを見せてくれて気づいたんです。

 そこからまた一緒にいるようになって、今に至ります。


「そうでしたか。けど今は、えとなんだっけ?」

「フラワーコーディネーターでしょ。私もよく知らないけど、こういうお店じゃなかったと思うわ」

 お二人が首を傾げていた。


「ええ。たしかに憧れていた職業だったけど、私が本当にやりたかったのはこうして店先でいろんな人と触れ合って、その人に合ったものを渡す事だったんだって気づいたんです。あの子ともう一度会った時に……」

「それ聞いた時泣きそうになったよー。おねえちゃんがそんなふうに思ってくれただなんてさー。だからあたしも一緒に辞めて着いてきたんだよー」

 いつの間にか彼女が戻ってきてた。

「こら、今は店長でしょ」

「あ、そうだった。ってお客さん、用意出来ましたー」

 彼女は箱に入れてある緑の蔓を模した紐に小さな緑の葉をつけた二つのネックレスをお二人に見せた。 


「これってアイビーっていう植物をイメージしてるんですよー。そして花言葉は『永遠の愛』だから、お二人にぴったりかとー」


「おお、そうなのですか」

「あなた、これにしましょうよ」

「そうだな。あの、いいものをありがとうございます」

 お二人は嬉しそうに言ってくださった。

「いえいえ、じゃあお包みしますねー」

 そう言って彼女はまた奥へと歩いていった。


「あれは彼女が花屋をしている友達から教わったものだそうです。私もこれはいいなと思って店に出したら、あっという間に評判になっちゃって」

「なるほど。私はそういった事に疎いですが、あれは見ただけでいいものだと分かりますよ」

 男性が笑みを浮かべて言った。


 その後お二人は箱を手にして嬉しそうに歩いていった。

 



 そして夕方になり、店を閉めた。

 後片付けも終わったしそろそろ帰ろうかと思った時。

「きゃっ?」

「おねえちゃん。今日はクリスマスだからさー、二人でどっか行こうよー」

 彼女が抱きつきながら言ってきた。

「え、うーん。女二人でってのも」

「いいじゃんどうせ縁がないし。あ、なんならあたしはどう?」

「あのねえ……ま、いいか。よし『妹』よ、行こうか」

「うん、お姉ちゃん!」

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