とある少女のクリスマス

 今日はクリスマス。

 お兄ちゃんとお出かけしてたんだけど……。


 お兄ちゃん、どこ行ったの?

 ひとりぼっちはやだよ。

 せっかくお兄ちゃんに会えたのに。

 ずっと一緒にいるって言ったのに。


 あっちこっち探したけど、お兄ちゃんは見つからない。

 うう、お腹すいたよう。


「お嬢さん、どうかしたのかい?」

 え?

 振り返るとお兄ちゃんよりもっと年上のお兄さんとお姉さんがいた。


「え、えと、お兄、いえ兄を探してたの、です」

 もう十四歳だもん、ちゃんと言わないとだよね。


「そうだったのね。じゃあ私達も一緒に探すわ」

 お姉さんが優しく言ってくれた。

「いいの、ですか?」

「いいのよ。それでお兄さんはどんな人?」

「えっと」

 わたしはお兄ちゃんの名前と特徴を言った。


「そういえばさっきあのお店で見かけた人、そんな感じの人だったな?」

「そうね。あれをじっと見ていたわね」


「あの、それどこ、です?」

「あっちだよ。さ、一緒に行こうか」

「うん」

 ぐううううう。


 あ……ううう、お腹鳴っちゃった。


「あらあら。そうだわ、あれ一緒に食べましょ」

 お姉さんがクレープ屋さんを指さして言った。

「でもわたし、お金持ってないです」

「いいよ、俺が出すから」

「でも」

「あのね、私達実は注文の仕方がわからないの。だから教えてくれるお礼という事でね」

 お姉さんがそんな事を言った。

 へえ、分からない人もいるんだ。

 よーし、それならいいよね。




 お兄さんに買ってもらったクレープを食べながらそのお店に行く途中だった。

 お兄ちゃんが向こうから走ってきた。


「こらかえで、どこ行ってたんだよ。離れるなって言っただろ」

「お兄ちゃんこそわたし放ったらかしてたくせに……ううう」

 わたしは嘘泣きしてやった。


「ぐ……ごめん、いいもの見つけたから……。あれ、それどうした?」

 お兄ちゃんがクレープを見て言った。

「ああすみません。それは私達がお世話になったお礼なんです」

 お兄さんが頭を下げて言った。

「そうでしたか。いやうちの妹がご迷惑を」

「いえいえ、そんな」


「あの、この子さっき気になる事を言ってたのですが……またひとりぼっちって?」

 お姉さんがお兄ちゃんに聞いた。


「わたしね、小学生の頃はひとりぼっちだったの」

「え?」

「ちょ、おい楓?」

 お兄ちゃんがわたしの肩を掴んで言った。

「いいでしょ。このお兄さんとお姉さん、なんか話しやすいの」

「え? ……あ、あのすみません。もしお時間があるなら妹の話を聞いてもらえますか?」


「ええ。私達でよければ」

「そうそう、無理に敬語使わなくていいからね」


「え、えへへ……じゃあ」


 あのね、わたしが小学生の頃、ママがずっと家にいなくてひとりぼっちだったの。

 わたしいつもお腹すいてて、病気になっちゃって……いつの間にか病院にいたの。

 そこでママは事故で亡くなったって、パパも見つからないって言われたの。

 病気が治った後で施設に行ってお友達が出来ても寂しかった。

 ずっとずっと寂しかった。いくら食べてもお腹いっぱいにならなかった。


 けど、お兄ちゃんが迎えに来てくれた。

 パパは残念ながらもう亡くなったって言われたけど、お兄ちゃんがいる。

 もう寂しくないんだ、お腹すかないんだって思ったら嬉しくて泣いちゃった。

 

 だからまたひとりぼっちは怖かったの……。



「そうだったのね……あの、もしかしてご両親は離婚なさったから?」

 お姉さんが聞いた。

「ええ。父が楓の母親と不倫して」

「え?」

「……僕の母は心労で倒れ、そのまま」

 お兄ちゃん、泣いてる。


「すみません、思い出させて」

「いえ。そして数年後、父が僕の所に来て土下座して言ったんです。『すまなかった』と。それと『勝手な願いとは分かっているが、楓を頼む』って……」


「それでですか。しかしお父さん、楓ちゃんとは暮らしていなかったようですが」

「楓の母親は浮気グセが酷くて、父とはすぐ別れたそうです。父は長い間楓の事を探していて、やっと見つけたときにはもう末期癌だったそうです……」

「そうでしたか……」

「ええ。正直何言ってるんだと思いましたが、楓と会った時に恨みは消えましたよ。こんな可愛い妹を残してくれたんだから」

 そう言ってわたしの頭を撫でてくれた。

 えへへ。

 


「そうだ、それもしかして」

 お姉さんがお兄ちゃんが持ってる袋を見て言った。

「ええ。サプライズのつもりでしたが……はい、クリスマスプレゼント」

 その袋をわたしに渡してくれた。

「ありがとー! ねえ、開けていい?」

「それは家に帰ってからな」

「うん!」


「ふふ。さてと、私達はこれで」

「楓ちゃん、お兄さんと仲良くね」

「うん。あ、デートの邪魔してごめんなさい」

「いやいやいいんだよ。君と会えてよかったよ」

「ええ。それでは」

 お兄さんとお姉さんは手を繋いで歩いていった。


「なんだろな。あの人達ってなんというか、全てを包み込んでくれるような雰囲気だったな……」

「お兄ちゃん、そろそろお家帰ろ。今日は皆でクリスマスパーティーするんだし」

「そうだな。さ」

「うん」

 わたしもお兄ちゃんと手を繋いで家に帰った。


 今日はクリスマス。

 皆でお腹いっぱいになるんだ。

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