聖誕祭にあったそれぞれの物語

仁志隆生

クリぼっちだと呟くとある男性

 今年のクリスマスは日曜日。だから仕事は休み。

 俺は一人で地元の繁華街をブラブラ歩いていた。


 ああ、今年もクリぼっちかあ。

 ツレ共は皆彼女と過ごしてる。

 そうなるよなあ……俺も彼女欲しいなあ……。

 

 ってもう夕方かあ、そろそろ帰るかな。

 ん?


「ほえええ、今はこんなふうになってるんか!」

「ええ。ここいらもだいぶ変わったでしょ」

「ああ、だが昔の面影も少しはあるなあ!」


 なんだあのカップル?

 男の方は超久しぶりにこの辺りに来たって感じだな。

 しかし服装が地味だな。 


「で、どっち行けばいいんだっけ?」

「私も久しぶりだから……というかもう無いかも」

「そうか……もう一度あの店に行きたかったな」


 ああ、もしかすると初デートしたところに行きたかったけど道忘れちまったってか、いや調べろよな。


 ……でも、なんだろ?

 あの二人見てるとなんか田舎のじいちゃんとばあちゃんを思い出すな。

 同い年くらいなのに。

 ……よし。


「あのすみません。ちょっと聞こえちゃったんですが、どこかを探してるんですか?」


「え、ええ。実は妻と結婚する前、初めて二人で行った店を」

「すみません。私もこの人も若い人みたいにスマホとかでって無理だから」

 ありゃ? 若く見えるけどもしかして結構歳いってる?

「そうですか。じゃあ僕が調べますから、お店の名前教えて下さい」

「すみません。……という店なんですが」


「……え?」

 その名前には聞き覚えがありすぎた。

 俺はすぐスマホで検索した写真を見せて聞いた。

「あの、この店ですか?」


「あ、そうです。変わってないなあ」

「よかったですね、まだあって」


「……ここならすぐ近くですから、ご案内しますよ」

「え、いいんですか? 御用があったんじゃ?」

「いえ、特に無いので大丈夫ですよ。さあ行きましょう」




 着いた場所は古ぼけた定食屋。

 なんでも戦前からあるらしく、昔は家族でよくここに来てたなあ。


「おお……」

「あなた、懐かしいわね」

 二人共涙ぐんでるよ。

 なんかこっちまで泣きそうになるわ。


「それじゃ僕はこれで。ごゆっくり」

「ああ、ありがとうございました」

 二人は店に入っていった。


 ふう、いい事したなあ。

 ……さてと、見つかる前に帰るか。

 そう思った時、店から誰かが出てきた。

 げ……。


「あれ、星司君じゃないの?」

 こいつは幼馴染の夕子。

 この定食屋の娘で……俺の初恋の人。

「久しぶりね。高校出てからちっとも会ってなかったから」

 そりゃお前と顔を合わせたくなかったからだよ……。


「っとそうだな。ところで夕子、今日はクリスマスなのに家の手伝いか?」

「そうよ。友達は皆恋人とだし」

「お前はいいのかよ。恋人いるんだろ?」

「は? 生まれてこの方いないわよ」

「なんだと? じゃああの時一緒にいたの誰だよ?」

「あの時って?」

「ほら、高校生の時に」


 あれは高校三年生の時、近所の公園でだった。

 こいつは背が高くスラッとしたイケメンと歩いてた。

 楽しそうに手を組んで。

 それがあってあの時からこいつを避けるようになったんだ。

 

「ああ、思い出したわ。それ高校の友達で、女の子よ」

 夕子がそんな事を……は?

「おい、あれはどっからどう見たって」

「たしかに彼女っていつも男っぽい服着てたからそう見えるわね。だからつい恋愛ごっこしてたのよ。それと今は彼氏いるんだって」

「そ、そうかよ……」

 

 なんだよ、俺の勘違いだったのかよ。

 ……ん、それならまだ?


「ねえ、折角会えたんだからうち寄ってかない? お父さんとお母さんも喜ぶわ」

 夕子が店を指して言う。

「あ、ああそうだな、久しぶりに」

「ええ。今日はクリスマスだから特製チキンカツ定食がおすすめよ」

「てかここはそれが名物だろ。俺も好きだけどさ」

「いいじゃん。……てか逃してたまるか、やっとまた会えたのに」

「は?」

「あ、なんでもないわよ。さ、入った入った」

「うん、じゃあ」


 俺は夕子に手を引かれ、店の中に入った。

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