第41話 乱入からの出場!?

 俺は高柳さんに連れられて、会場中央に設置されているそそり立つ壁へと向かって行く。

 高柳さんがマイクを持ってそそり立つ壁のセットの上がると、意気揚々と話し始める。


「さぁ全国のサスケファンの皆様。今日はスペシャルゲストに来ていただきました。前回大会初出場でサードステージ進出の立役者。佐野慶悟君です!」


 自己紹介を受けて、俺が手を上げながら軽くお辞儀をすると、会場からどよめきと歓声が沸き上がる。


 おぉ……これだよこれ! 

 俺が望んでいた世界は……!


 ここに来場している人たちは、サスケを熟知しているファンか、将来出場を切望している者たちばかり。


 つまり俺にとっては、圧倒的ホーム。

 この会場において、南央の影も霞んでしまうほどに、俺は超有名人となれる唯一の場所なのである。


「それでは、佐野君に一言いただきましょう」


 すると、高柳さんがいきなりマイクを手渡してきて、ファンへ一言挨拶をするよう目配せしてくる。

 いきなりマイクを手渡され、俺は何を話せばいいのか分からずあたふたしてしまう。

 辺りを見渡せば、スマホを手に、写真を撮ったり動画を撮影したりする人でごった返している。

 俺は緊張しつつも、一つ息を吐いてから、会場に訪れている人たちに向かって声を上げた。


「初めまして、前回サードステージまで進みました、忍高校二年の佐野慶悟です」


 自己紹介をすると、周りの人たちからパチパチと盛大な拍手が送られる。

 あぁ……この拍手全部が自分に向けられていると思うと、自然と高揚感が高まってきてしまう。


「ここに来場しているということは、一度はテレビなどでサスケを見たことがある方たちだと思うので、これからサスケ出場を目指している人も、いつも番組を楽しみにしている人にも、夢と希望を届けられるよう、完全制覇という目標に向かって頑張っていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします」


 まだ次回大会の出場が確約されたわけでもないのに、大見得を切ってしまった。

 しかし、ファンサービスとしては最高の言葉だったらしく、先ほどよりもさらに大きな歓声と拍手が送られる。


「頑張れよ!」

「よっ、最強高校生!」


 お客さんからの声援も飛んできて、俺もつい顔がにやけてしまう。


「それでは早速、佐野君には今から、そそり立つ壁とクリフハンガーを実際に実演してもらいます! 準備の程はいいかな、佐野君」

「はい、いつでも行けます」


 そう言って、俺は身につけていたジャンパーを脱ぎ捨てた。

 もちろんこうなることも想定済みだったので、下はスポーツウェア姿で準備万全。


「それでは行きましょう!」


 高柳さんの掛け声とともに、俺は一つ息をついて、目の前にそびえたつ壁を見つめた。

 そして、軽くジャンプしてステップを踏んでから、一気に加速して足を踏み込み、角度九十度の壁に挑んでいく。

 視線をまっすぐにして、手を大きく振って壁を駆け上がっていき、最後に思い切りジャンプするように足を踏み込んで顔を上に上げて、手を大きく突き出した。

 指先は、そそり立つ壁の頂上に見事届き、掴むことに成功する。

 刹那、会場からは大きなどよめきと拍手が沸き起こった。


 俺はそのまま、そそり立つ壁の上へと登り切り、頂上で立ち上がり、両手を上げて、下にいるお客さんに手を振ってみせる。

 こちらを見上げてくる観客は、拍手したり、手を振ってきてくれたりしてくれた。

 辺りに集まるお客さんの中に、南央たちの姿もあり、こちらへ他のお客さんと同様に手を振って来てくれている。



 あぁ……やっぱりここは、俺にとっての天国だ。

 注目を一身に浴びているという快感に浸っていると……。


「ちょっと、一般の方は危ないので登らないで」


 焦るディレクターの高柳さんの声が聞こえてくる。

 そそり立つ壁の下を見れば、なんと壇上に上がりこんでくる乱入者が一人。


「南央⁉」


 いきなり乱入してきたのは、まさかの南央だった。

 南央は高柳さんの言いつけを守ることなくそそり立つ壁の下に立つと、俺を見上げながら満面の笑みを浮かべてくる。


「慶悟―! 今からすぐにそっち行くからね」

「はっ……?」


 すると、南央はその場で腕まくりをして一つ息を吐いたかと思うと、勢いよく助走をつけて、そそり立つ壁に挑み始めたのだ。

 南央は、長い手足を存分に生かしたストライドで、思い切り蹴り込んで手を伸ばす。


 ガシッ!

 南央の手は、そそり立つ壁の頂上部分を軽々掴むことに成功する。

 刹那、会場から、先ほどよりも大きな歓声とどよめきが沸き起こった。

 南央は見事に、そそり立つ壁を初見一発でクリアしてみせたのである。


「すげぇぞあの女の子! 難攻不落のそそり立つ壁をいとも簡単にクリアしちまった」

「見たかよ⁉ すっげぇ!」


 下で南央のパフォーマンスを眺めていた観客が、ざわざわと騒めきだす。

 頂上へ登りきると、南央は俺の肩に手を回して、下で観戦している観客に向かって笑顔を振りまいた。


「皆さん、次の大会、必ずこの佐野慶悟がサスケ完全制覇してみせますので、応援よろしくお願いします!」


 南央がそう言うと、観客から今日一番の盛大な拍手が沸き起こる。


「頑張れよ!」

「期待してるぞ!」

「隣の女の子に負けるんじゃねぇぞ!」


 と、観客からの激励の言葉が次々に飛んでくる。

 俺が何度もぺこりとお辞儀をしながら、ファンの人へお礼の気持ちを伝えた。

 南央はもっと俺のことを応援して欲しかったから、いてもたってもいられなくて、そそり立つ壁を登ってきたのだろう。

 きっと、悪意はまるでなく、善意の気持ちで登ってきたのだろう。

 けれど申し訳ないけど南央、お前のパフォーマンスのせいで、俺の活躍が陰っちゃったんだわ。

 むしろ注目されているのは南央の方なのではないかと思うほどに、軽々とクリアしてみせた南央との実力差に、改めて悔しい思いをするのであった。


 そそり立つ壁から降りて、俺は開口一番に高柳さんに深々と頭を下げる。


「申し訳ありません高柳さん。南央が余計な真似をしてしまって」

「いや、構わないよ。会場のお客さんも随分と盛り上がっていたからね」


 そう言って、高柳さんはけらけらと盛大に笑い声を上げていた。


「それにしても君……凄い身体能力だね」

「ありがとうございます! 普段から部活で鍛えてるので!」

「あれっ……そう言えば君、どこかで見たことがあるような気が……」


 高柳さんが記憶を辿るように、目を細めて南央のことを凝視する。


「ほら、あれですよ。高校生にして日本代表合宿に選ばれた、バスケット界のプリンセスって言われた」


 俺が南央が話題になった出来事を説明すると、高柳さんははっと目を見開いた。


「あぁ! そういえばそうだ! 確か、ウィンターカップで圧倒的パフォーマンスを見せて、将来日本を背負っていく逸材になるって言われてたあの!」

「いやいや、私なんてまだまだですから」


 謙遜した様子で南央が手を横に振る。


「そうか……佐野君と同じ高校なのか」

「えぇ、まあ自分と南央は、小さい頃からの幼馴染でして」

「ほうそうなのか! へぇー、そりゃたまげた!」


 感心した様子で頷く高柳さん。

 すると、何かひらめいたといった様子で、高柳さんがポンっと手を叩いた。


「そうだ! もしよかったら南央さんも、次回のサスケに出場してみないかい? 君なら日本人女性初のサードステージ進出も夢じゃないと思うんだよ!」


 高柳さんの言い放った一言は、俺に衝撃を与える一言だった。


「えぇ⁉ いいんですか⁉」


 しかも、南央も結構乗り気の様子。

 俺が唯一活躍できる場を、南央に侵略されようとしていた。


 このままでは、南央よりも結果が残せず、完膚なきまでに完敗を喫してしまう未来が頭によぎった。

 やはり、気を抜くとすぐに俺を脅威に陥れようとしてくるのが、古村南央という存在。

 俺にとって、人生最大の危機が訪れようとしていた。


 こうして、俺と幼馴染の白熱した熱いバトルは、第二ラウンドへと突入しようとしているのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

幼馴染に絶対勝てないラブコメ!~目標達成して浮かれていたら、幼馴染が日本一のスポーツ美少女になってしまいました。負けたはずの俺に甘えてきてくれるので、見合う男になるため、死ぬ気で努力することにした~ さばりん @c_sabarin

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ