第40話 サスケフェスタ
衝撃的なバレンタインが幕を閉じて、迎えた試験休み。
俺は赤坂で行われている『サスケフェスタ』へ足を運んでいた。
「うわぁ……凄いです」
会場に到着するなり、歴代完全制覇者の等身大パネルを前に、蕩けた表情を浮かべる小塚さん。
恍惚な表情はまさに、恋する乙女のようだ。
小塚さんは、グレーのロングチェスターコートを羽織り、中には淡色の青いニットのワンピースを着こなしている。
小柄にもかかわらず、普段より大人っぽさが際立っていた。
「それにしても、こんなイベントまで行われてるなんて、サスケって結構凄いのね」
凜花は少々驚いた様子で、会場内を眺めながら髪をくるくると指で巻いていた。
「何言ってるんだ今さら! サスケは世界百五十か国以上で放送されてる大人気番組なんだぞ!」
俺が凜花に熱弁すると、若干顔を引きつらせてこちらを見据えてくる。
ちょっと鬱陶しかったらしい。
凜花は紺色のダッフルコートに白いマフラーを巻いていて、防寒対策はバッチシ。
ただ、下はフレアスカートに黒のストッキングなので、今すぐにでも温めてあげたい衝動に駆られてしまう。
「うわぁー凄い見て見て! テレビで観たことあるやつ!」
「これ、慶悟は全部クリアしたんっしょ? 流石アーシのダーリン」
「違うってば! canonちゃんのじゃないもん!」
「ちょ、この人の数いるところでcanon呼びやめろ? 普通に身バレすっから」
「あぁ、ごめん。じゃああやねる?」
「アーシ、声優さんじゃないんだから……」
そんな会話を交わしつつ、南央と彩音もサスケフェスタを訪れていた。
先日の凜花とのデートを妨害してきた時のようなバチバチとした空気感はなく、終始和やかな雰囲気が漂っている。
まあ元々、南央が配信者canonのファンだったこともあり、意外に話は合うのかもしれない。
彩音は緑のトップスに黒のチェスターコートを羽織り、下は白のフレアパンツを履きこなしている。
首元には、きらりと光る星型のネックレスも、彼女のおしゃれさをより際立たせていた。
一方の南央は、ノースフェイスのダウンジャケットに、ピンクのジョガーパンツという格好。
今からスポッ○ャにでも遊びに行くのかなと思えるほど、いつでも運動の準備万端ですという服装をしていた。
今日は、試験休みである俺、南央、凜花、小塚さんに加えて、丁度試験日が同じで試験休み中の彩音の五人でサスケフェスタにやってきていた。
凜花から二人きりでと誘われたのだが、後で事情を説明したら、みんなで行こうということになったのだ。
赤坂の会場内には、そそり立つ壁や初期のクリフハンガーが設置されており、一般の人でも体験できるイベントなどが行われている。
「とりあえず、俺は運営テントに行ってくるから、ちょっと待っててくれ」
「はーい!」
俺は、南央たちを入り口付近で待たせて、運営テントへと向かって行く。
番組のディレクターさんへ挨拶をしに行くためだ。
「どうも
運営テント内にいた、番組ディレクターの高柳さんを見つけて、俺は挨拶を交わす。
「おっ! 佐野君じゃないか! 来てくれたのかい?」
「はい、試験休みだったので来ちゃいました」
サスケ番組の総合ディレクターである高柳さんは、サスケの初期から番組制作に携わってきた、いわばサスケ界の裏方のレジェンドである。
「せっかくだし? 周りのお客さんにパフォーマンスしていきな。将来の完全制覇者になる逸材なんだからさ」
「いやいや、自分なんてまだまだですよ。前回大会だって、あそこまで行けたのは色々と幸運が重なっただけですし」
「そんなことないさ。佐野君が努力してきた結果だよ」
「ありがとうございます」
ペコペコと腰を低くしてお辞儀をしているうちに、裏方の一人が高柳さんに「セッティング完了しました」と報告してくる。
「丁度準備できたみたいだから、そそり立つ壁に上がっちゃっいなよ」
「えっ……でも」
「いいから、いいから! これもサスケファンを喜ばせるためのパフォーマンスだと思って」
「……分かりました。そう言うことであるなら……」
高柳さんに押されるがまま、俺は急遽、サスケのそそり立つ壁のパフォーマンスをすることになってしまった。
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