第21話 はる、ひさしぶり


 はる、ひさしぶり。

 また親戚の農家のお米送ります。

 体調、良くなったり、悪くなったりなんやな。でもちゃんと仕事行って、えらい。先生ももう年やけど、なんとか頑張ってます。はるも、無理せず。



はる、ひさしぶり。

今年のお米はちょっと出来が悪いそうです。ごめんね。

 そのままのはるでいいよ。体気をつけてね。


 はる、ひさしぶり。

 ちゃんと通院してえらいやん。

 この間、はるがくれたイラスト、見返していました。いまの子どもたちにも、はるだったら、どうしてほしかったかな? って思うことがあるよ。

 じゃ、体気をつけてね。



 はる、ひさしぶり。

 風邪大丈夫?

 ちょっとやけど、食料送ります。

 もう何年も会えていないけど、また会えたらいいね。じゃあね。


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 あの日から届くようになった秋子先生からのちいさな手紙は、雪子さんが渡してくれるのだけど、ぜんぜん“私”宛ではないようで、楽しみにしていただけに、気持ちが崖の下のそのまた下まで落ち込んでしまっている。

 けれどなぜかこれはいったいどういうことなのか、雪子さんに聞くことはできなかった。

 いくら“私”宛と感じられなかったとはいえ、これは秋子先生とのこの世界での数少ない秘密だと思ったから。

 それでも一つだけ聞いたことがあった。

 それは、秋子先生へ、返事を書きたいということ。

 でも、それを聞いた雪子さんは明らかに気まずそうな顔をしてつばを飲み込んだ。

「同じことをなんども伝えたことがあるし、もういい加減慣れればいいんだけど。向こうには、返事を届けることはできないの」

「そうなんですか」

「でも、書いてみたら? それはきっと無駄じゃないから」

「けど、送れないんでしょ」

「けど、無駄じゃないよ、きっと」

 ああいえばこういう状態になっていた私と雪子さんだったけど、せっかくじゆうちょうもあるんだし、それに時間はたっぷりあるし、そういうわけで届くことのない手紙を、書き始めることにしたのだった。


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秋子先生ひさしぶり。

まず、お米ってなんですか。笑ってしまったよ。

それにイラストってなんですか。親戚の農家ってなんですか。この間、マラソン大会の新聞を見たよ。あの長距離走のとちゅうで私くるしくなって、いまわけのわからないところにいます。なのに、先生から届くのは更にわけのわからない手紙だし、もうわけわからないの最大ってかんじやで。

 それに私喘息でぜったいに三十位以内に入ったなんてうそやと思う。あの新聞はうそ新聞。

 やのに、なっちゃんがそれより先にゴールしたこと、ちょっとヤキモチやいた。

 まだまだ書きたいことあるのに、もうすぐお風呂の時間。お風呂には百円玉おばあちゃんって人がいて、おもしろいで。先生もいっしょに入りたいな。また書きます。  はるより



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