第6話 夏の終わりのプールの階段


 季節は夏の終わり。まだ終わりたくないみたいに太陽は秋を感じさせなかった。顔が暑いを通り越して痛くて、私は手で覆って歩いた。ピンクのランドセルを背負っている。お気に入りの、お母さんが調子の良かった日に買ってもらった物だった。

 

 昼休み、またなっちゃんと砂場で遊んで、それから今日はぷらぷら歩いて、そして片手にはお互い砂場で見つけたその中ではいっとう輝いているように見えた石をのせている。

「今日はいっぱい取れたなぁ」

 そう言ってなっちゃんはおそるおそるキラキラたちを動かしてみせる。

「はるも、大きいの取れた」

「はるちゃんと一緒に、宝石屋さんできるかもな。大人になったら。宝石屋さんってどうやったらなれるんかな。宝石屋さんってどこから宝石取ってくるんかな」

 なんて言いながらスキップしそうになったなっちゃんは、おっといけない、と背を正してマッチ棒みたいに歩く。


 プールの授業は終わり、汚いままの水には葉っぱや、それからどこからきたのかスコップやTシャツも浮かんでいる。

「あそこ、座ろう」

 となっちゃんは言った。

 なっちゃんが階段の真ん中らへん、私はそのひとつ下の段に座った。

 そしてなっちゃんは、見つけたばかりのそのカケラたちを、つまんで、自分が座っている段のはしっこに置いていった。見えないくらいの粒だったから、もったいないと思ったけれど、でも私たちは目をこらしてまっすぐ見つめたから、階段のすみっこがちらちらと、やさしく、ラメ入りのペンで塗ったように輝いている。

「ここに何個集まればお願い事、叶うやろう」

 なっちゃんは言う。

「うーん。お願い事、どれくらい、大きい?」

「んー、たぶん、かなり、大きい!かも」

「そしたらー、何個やろ?」

「でもはるちゃん、大きいか、小さいか、どうやって『ハンダン』するん?」

 なっちゃんは慣れない言葉を使うとき、そこだけ声が小さくなった。

「うーん。ハンダン。大きいか。小さいか。アリは。小さくて。でも。アリから見えるこの石は、大きいな」

 自分でもなにを言ってるか分からなかったけど、そのハンダンはやっぱりいつまでも解決しそうになかった。

 そんな話をしていたら私はなっちゃんが大人になってきらきらの中に埋もれてしまって、息ができなくなって急いで上へ上へと浮かぼうともがいてるところを思い描く。

「宝石屋さんだってたくさんいるんやから、それ以上ないとあかんかもなぁ」

--ぼんやり想像している私の上でなっちゃんは、いつまでもつぶやき続けているのだった。




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