返す相手もいないのに恋人達に贈らせないようチョコレートを買い占めようと企む迷惑客、色々と爆破する



『呆気ないものよ。人類とはこうも脆い。容易く中枢まで辿り着いた』


王冠を被ったメタボリックなオッサン、おそらくこの国の王は虚空を光の無い目で、重なるような本当に口で話しているのか疑わしくなるような声でそう言った。

人から装飾品を盗み取った直後とは思えない。


頭、完全に逝っちゃってるのか?

まあ、まともなら息子を人質に取られて無視する事は無いし、そんな時に人の物を盗んだりしないか。

王まで狂い果てているとは、この国は疑う余地も無く終わっている。


さっさとぶちのめして黄金髑髏ネックレスを取り返し、賠償金を徴収しよう。

こんな狂人に付き合っている暇はない。


もう用済みのチンピラ王子を捨て、ブラックカードの確保に向かう。

すると、急に広大な部屋が暗くなった。


ここに辿り着くまでに城を壊し過ぎて電力系統的なものがズタズタになったのか?


このまま真っ暗になった賠償金の回収が面倒臭くなりそうだ。

まあ、それぐらい暗くなったら壁なり屋根なりをぶち抜いて採光すればいいか。

なんか壊すまでもなくボロボロなのか、俺が立っているところもひび割れて来たし、さっさと用事を済まそう。


そう思ったところで狂王は視線を虚空に向けたまま、話しかけて来た。


『自分が特別な人間、英雄だとても思っていたのか? 貴様がここまで来れたのは我が加護による力。我が力を貸さなければ貴様は他の矮小な人間と変わらない。だが、褒めて遣わそう。ここまで耐えた人間は初めてだ。用が済んだらもう一度使ってやる。感謝するが良い』


なんか言っているが、聞く価値のない狂人の戯言だった。

聞こうと思って損をした。


歩くたびに床が崩れ落ちそうなくらい砕けて逝くが関係ない。

まずは賠償金の前金として王冠をいただこう。


『き、貴様! なぜ動ける!? 我が神威の重圧に人間が耐えられる訳が無い! 英雄と呼ばれる者で有っても瘴気に侵され正気を保てぬ筈! よもや、そこまで力を落としていたと言うことか……。かつては、神々すらも我が神威の前に頭を垂れていたというのに』


急に驚き叫んだかと思ったら、途端に静まった。

言動が狂っているだけでなく、心理的にもかなり不安定らしい。

まあ、狂っているのだからそりゃそうか。


『ならば、今ここで復活するのみ! ――この地の王権を以て命じる 全ての封印を解き放て――!! ――我が身よ 再び我に集え――!!』


王冠の宝玉が太陽の如く光を放つと、続けて地下から同種の光が広がる様に放たれた。

変化はそれで終わらず、光が放たれたのと同じ場所から今度は闇としか言いようの無いナニかが溢れ出す。


そして、闇から更に現れたのは黒き太陽。

漆黒、暗黒と言うものを太陽の様に放射し続ける真逆の太陽。


黒き太陽から黒い触手が伸び、黄金髑髏からも黒い触手が伸びて影が重なるように繋がる。

黒き太陽は闇を深め、やがて黄金髑髏に呑み込まれた。


……人様の黄金髑髏に何してやってくれてるんだ?


相当俺を怒らせたいようだな……。


遂に床が崩落して逝く。

床は粉々、その下も次々と砕け散り粉砕されている。

次に天井も崩落。

視界全てが闇に呑まれている。


だが、どんな悪条件であろうとも、一発殴らなければ気が済まない。

視界が悪かろうと、道が無くなろうとも報復せねば。


『な、何故消滅していない!? 龍も消し去る神威であるぞ!! まさか貴様、名のある神の使徒か!?』


まずは、闇を振払おう。

闇は物理的にも魔法的にも圧力を感じる。

ならば、それらで干渉できる筈。

色々と力を出してみて、最も反発が強い力を全身に身に纏う。

そして、闇を薙ぎ払う。


闇は振払われると共に、煙のように霧散し、まるでそれが幻覚だったかのように青い空が広がる。


…………城の天井も壁も全てが無い。

えっ? そんなに薙ぎ払っちゃった?

賠償金は? 俺の財宝は?


「ゆ、許さん! 余計な事をしやがって!」


取り敢えず、数発殴らなければ気が済まない。


尚も溢れ出る闇が俺を覆おうとするが、薙ぎ払いながら宙の道なき道を征く。

途中から黒い雷が空から撃ち込まれたり、黒い炎が迫りくるが、それも闇を振り払う要領で全て払い退ける。


弾いた雷の破片は街を融解させ、街を消失させて逝く。


「俺が賠償金を徴収する街まで破壊するとは、どこまで俺の金に手を出せば気が済む!」


幸い、最初のお出迎えの影響か避難済で人的被害は無い様だが、肉体労働では得られる賠償金がどこまで減るのか、考えるだけで嫌になる。


兎も角、殴ろう。


『なっ!?』

「ふんっ!」


迫る闇や雷を殴り飛ばしながら、そのまま狂王を殴りつける。


『ガバァァッッ!?』


闇を振り払う力を纏っていた影響か光は狂王にも移り、まるで流星の如く大地に墜ちた。

半壊、いや八割くらい消し飛んでいた城の中心に叩きつけられ、城を全壊に追い込む。


また、俺の賠償金源が…………。


いや、狂っていても相手は王、そしてヤバくてもここは首都。

国と言うのであれば他にも街が、そして財産がどこかしらに有る筈。

狂王をとっちめて資産の在り処を聞き出すとしよう。


城の中心、クレーターに着地すると、そこには気絶した狂王と、触手付きの黒い太陽が存在していた。

俺の黄金髑髏は、何故か黒き太陽の中心に。


『か、確実に、滅ぼしてやる! そして再びこの世界に君臨するのだ!』


何故か、声を発したのは黒き太陽だった。

狂王と同じ声で、逃げる前に三流悪役が言う様な言葉を吐き、案の定逃げ出そうとする。


闇に鎮み消えようとした黒き太陽に迫る。

そして、捕まえる事に成功した。


だが、そこで予想外の事が起きた。



気が付くと、黒煙のような暗い曇天に包まれた場所に居た。


全てに色が無い。いや元はあったのであろうが木々は焼け焦げ煤け、そう出ない草木もまるで全てを抜かれたかのように干乾びている。

黒鉛筆だけでも描けそうな風景だ。


不毛という言葉が、もしくは終焉を迎えた世界という表現すらしっくりくる陰気な場所。


生き物がまるで存在しなさそうな場所であるが、代わりに悪魔みたいな化け物がうじゃうじゃ存在している。

すぐに襲いかかって来そうな化け物共だが、そんな化け物は今、全意識を黒き太陽に向けている。


『『『アヴディヴァーダ!! アヴディヴァーダ!! アヴディヴァーダ!!』』』


その姿は、まるで祈っているかのようだ。


『――我が元に参じよ 我が意に殉ぜよ 我が身に還れ――』

『『『アヴディヴァーダ!! アヴディヴァーダ!! アヴディヴァーダ!!』』』


化け物は黒き太陽と同じような黒い闇を纏うと、一斉に俺に向かって来た。


殺戮を行う為だけに存在しているかのような、全身武器で創られたかのような化け物が迫りくる。

化け物共は自らの肉体をも傷付けるような形態に一切躊躇なく変異していた。

おそらく、特攻。


全身に刃を生やした竜、いや蝙蝠はその全身で牙だらけの口であるかのように翼を閉じ、俺を穿こうとする。

それを避けると勢いで自らの身を穿いているが、一切止まることは無い。

後続の蝙蝠もそこに飛び込み、仲間ごと、そして自分ごと俺を穴だらけにしようと飛び込む。


ミサイルのような、槍のような形態に変異したイカ、イソギンチャク、もしくはラフレシアを混ぜたような化け物も、そんな刃だらけの場所に次々と突っ込んで来る。

仲間を穿き、自らが砕けても解いた槍のような触手で動ける限り俺を穿こうとする。


炎と溶岩で創られた魔人は自らも蒸発する温度で突進、俺の周りにいる化け物ごと自分を燃やす。

ドラゴンような悪魔は口から自分が焼失して逝くにも関わらず熱線を放ち、人型の悪魔は魔術の反動で燃えながらも紫色の巨大火炎球を俺に落とす。

魔剣を持つ鎧武者は魔剣の放つ雷に感電しながら剣を振るい、氷の槍を持つ魔人は魔槍に凍結されながら、剣の森や爆炎の中に飛び込んで逝く。


どれもこれも、自らの死を厭わない、死が前提の特攻。


基本、避けるだけで勝手に化け物は自滅して逝く。

もはや、何がしたいのか分からないくらい簡単に散っている。

もはや逆効果、殺意一点の狂気に染まったそれらは簡単に読める軌道で、寧ろ本当に俺に対し殺意があるのか疑問に思える程に無意味だ。


そう思ったが、その勢いが収まる事は無かった。

よく見れば自滅、もしくは同士討ちした筈の化け物が倒れていない。

ダメージを受けたはずの部分が真っ黒に黒化し、徐々に黒に染まり形を喪いつつも動いている。

延々と俺に攻撃していた。


闇が形を持っているような姿になっても、その攻撃の威力は衰えない。

それどころか、強さを増している気すらする。

加えて、攻撃にもフェイントが入るようになったり、連携するようになるなど、知能を有する動きに変わった。


まるで一つの生き物のように、闇に転じた化け物が襲いかかる。


いや、一つの生き物のようにでは無い。

この気配、黒き太陽と同質のものだ。

これは、化け物は黒化する度に徐々に黒き太陽になっている?


だが、もしそうなら効果的な対処法は既に見つけてある。


闇を振り払ったのと同等の力を込めて黒の化け物を殴りつけると、凄まじい速度で吹き飛び、硬い地面を砕き進みながら止まる前に煙のように消えた。


やはり、弱点も黒き太陽と同じになっているらしい。


それどころか、黒き太陽の触手とかよりも簡単に払える。

力を込めれば、守るだけでも勝手に黒い化け物は消えて逝く。

接触した時点で光に分解されていた。


すると、圧倒的不利を悟ったのか、黒き化け物は黒き太陽の元へと集い、影が重なるように合流し闇を深めてゆく。


『還れ還れ還れ! 我が欠片よ! 集え集え集え! 我が眷属達よ!』


そして、黒き太陽が集えと命じたのに従ったのか、続々と新手の化け物が到着した。


その中には、俺を憤死させに来たのかと見紛う、いや間違えようのない敵も居た。


『遅参、申し訳ありません。貴方様が第一使徒ブグドルドゥ、今馳せ参じました。我が主よ』


それは銀長髪の背の高いイケメン。

背が高いと言うよりも、よく見れば人間よりも一回りも大きい。

漆黒の鎧を身に纏い、額には漆黒の宝冠。


黒い六頭のドラゴンが引く城は日本の城で例えるなら石垣の部分も含めた城館サイズで、全面には大小様々な砲。

周りには多数の魔人。


傍らには――――


「あいつが黒神様とダーリンの手を煩わせる可能生物? 矮小でブサイクだわ」

「ダーリン、早く倒してベッドに戻ろう〜」

「本当、人間ってちんちくりんね。何でこうも醜いのかしら」

「ちんと言えば、アソコもちっちゃ〜い」

「主様の手を煩わせる無でも無い。下等生物ごとに、私の手で!」


美女魔人のハーレム…………。


『控えよ。主の御前であるぞ。失礼いたしました。偉大なる創造神アヴディヴァーダよ。すぐさま排除いたします』


恭しく礼をする銀髪ロン毛ハーレムクソ野郎。

排除するのはこっちだ諸悪の根源め。

テメェの様な顔だけで美女をかっ攫う、しかも複数捕まえるクズがいるせいでこっちに回って来ねぇんだ!


金や権力で複数の美女を侍らすのならまだ良い。

親の金や権力で侍らすのであればごみ処理施設逝きだが、自分で手に入れたものならそこまで問題ではない。

金や権力、それは後天的に誰でも手に入れられるものだからだ。


しかし、外見、ほぼ先天的なこれで美女を持っていくのは決して許されない。

未来永劫地獄の業火で焼かれるべき所業だ。


そもそもイケメンは、普段からちやほやされる分、実物に手を出す時点で有罪である。

許されるのはその外見を活かして、同性に掘られる事のみ。

それならば俺のライバルが二人減り、二人の女性に空きが出来るのだから問題ない。


せめて、二人娶るのならば一人に掘られてプラマイゼロにすべきだ。

それが世のルール。世界のあるべき姿。


複数の美女のみを侍らすコイツは絶対悪確定だ。


俺が、直々に引導を渡してやろう。


持って逝け、冥土への片道切符だ!


「”リア充、爆発しろぉぉぉぉぉーーーーー“!!」


特大の深緑雷が銀髪ロン毛に炸裂する。

そこを中心に群青の特大の爆炎が広がり、曇天を穿き、地変線の彼方、その先までも浄化して逝く。


爆炎が収まった頃には、曇天は欠片も残さず消失し、澄み渡る空が、清浄な大地がただどこまでも拡がっていた。


あっ、賠償金、どうしよ……?


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クリスマス転生~俺のチートは〈リア充爆発〉でした~ ナザイ @nazai

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