カカオの生産は深刻な人権侵害であるから即時にチョコレートの販売を停止し金も払わずに受け取る奴は無期懲役だとこの日だけ主張する自称人権活動家、賠償金を請求しに行く



新たな街が見えて来た。


これまで見て来た街よりも鮮やかで雑多な広がっている街。

機能性、守りを重視した実用的な城の様な街並みではなく、所謂普通の街並み。

城壁などは存在するが、物々しさや無骨さは感じない。城壁の外にも街並みは広がっており、平和な街であるという事が分かる。


アルベーム王国の新首都はそんな街であった。

新たな首都だと言うが、商業ギルドのお偉いさん達の話では一から造った訳ではなく元からあった巨大な街を、勇者軍に王都を売りつけ手に入れた莫大な資金で更に開発し発展させたらしく、百年近く経った今では元王都よりも数倍大きい。

事前情報に違わぬ規模だ。


これは賠償金が期待できる。

交渉次第では十桁だっていけるかも知れない。

大富豪一直線だ。

たっぷり絞り取るとしよう。


一気に踏み込んで大ジャンプ。

城門の前辺りに着地する。


「なっ、何だ!?」

「全員離れろ!」

「この禍々しい気配、まさか魔族か!?」


着地の衝撃で石畳が砕け、砂埃を巻き上げてしまった為に騒ぎになってしまった。

砂埃が止むと、こちらに槍を向け、弓を向ける守衛達。ドスンと鉄格子が降ろされ城門も閉ざされた。

まあ、視界が復活すればすぐに誤解は解けるだろう。


「王太子殿下!?」

「殿下は近衛騎士団長達を引き連れ王都に向かった筈! 何故御一人で気絶した状態でご帰還を!?」

「まさか、近衛騎士団長が敗れ殿下は人質に!?」


何故か誤解は深まった……。


仕方が無いから自分の口から誤解を解くとしよう。


「おい、勘違いするな。武器を下ろせ。俺はこいつの身柄と引き換えに賠償金を請求しに来ただけだ」

「何が勘違いだ! 王太子殿下を人質にしているではないか!」


あれ? 確かにあながち誤解でも無かったかも知れない。

いやいや、身代金と賠償金では全く別物だ。特に世間体が。誤解を解かねば風評被害が生じてしまう。


「人質では無い。こいつが俺の城を壊したから逃げない様に身柄を確保しているだけだ。賠償金を渡せば解放してやるからさっさと責任者を呼んで来い。呼ばないなら道を開けろ」


冷静に俺は真実を述べる。


「何故王太子殿下は気絶している! 護衛の方々はどうした!」

「近衛騎士団長は王国最強! それ程の方が守る殿下を連れ去るなど、人間にはあり得ない!」

「そもそも殿下を傷付け、首都にやって来るなど、国に正面から喧嘩を売る行為! 人間ならば決してしない! 欺けると思うな魔族!」


訳の分からない事を叫ぶ守衛達。

金持ちのボンボンでも人のものを盗もうとしたりしたら逮捕されるなり、良くて示談になるのが当たり前。

暴力を振るってもそれは同じで、どこかしらのお世話にならなければ殴り返されてトントン。

なのにこいつ等、本気で言っているのか?


やはり、この国は丸ごとヤバいのかも知れない。


しかし、そもそも会話が通じないのは困った。

強引に突破するしかないか。


「兎も角、どけ。下っ端に用はない」


無視して進もうとするが、槍が下がる気配はない。

だがこちらにはマスターキー並みのアイテムが手の内にある。


向けられた槍に首根っこを掴んだチンピラ王子を近付ける。


「なにっ!?」

「くそっ!」

「離せっ!」


チンピラ王子近くの槍は下がり、後ろや横の槍は咄嗟に伸びてくる。

だが、そちらにも高速チンピラ王子シールド。


「うわっ!」

「なにっ!」

「やめろっ!」


ブスッ、ザクリ。

ちょっと掠ってしまった。


「痛がっ!?」


おっ、俺の高速移動で情けなく気絶していたチンピラ王子の目が覚めた。

結果オーライというヤツか。


「おいっ、お前の口から説明しろ」

「助けてくれぇーーー!!! コイツを倒せぇーーー!!! 褒美は幾らでもくれてやるうぅーーー!!! 助けろぉーーー!!!」


結果オーライじゃ無かった……。


やっぱり強行突破しよう。


構わず進む。


「ぶっ刺さるぞ! 命が惜しいなら道を開けろ!」


何も気にせず普通の速度で歩き始めた俺に、守衛達は転ぶように道を開けてゆく。


「門が閉まったままだぞ! 開けないならこれでこじ開ける!」

「ひぎぃあああっっーー!!!」


チンピラ王子の足を掴んでの素振り。

汚い涙と鼻水が遠心力で周囲に飛び、ジェットコースターさながらの悲鳴が響き渡る。


「開けろぉぉーーー!!! 通せぇーーー!!!」


絶叫王子の命令もあり、城門は閉まった時と対象的に恐る恐るといった様子でゆっくりと開かれる。

開いた先には城門前よりも多くの兵士達。既に百人はいるが、続々と集まり続けている。


だが、そんな数もチンピラ王子型通行証の前では無意味。

槍を構えても下がるしか無い。

まあ、効果がなくとも槍を向けられた賠償は後でしっかりしてもらうがな。


しかし、誰もが引き下がる訳ではなかった。

死角から音もなく高速で飛来する矢、別の死角より音もなく忍び寄る殺手。

普通の人質立て篭もり犯…、じゃなくて普通の王太子の命を握る極一般的な紳士ならこれで殺られていたかも知れないが、俺は女性の死角に忍び寄る事を研究し尽くしたプロ。風呂や更衣室のプロにとってこの程度、隠れている内の範疇に入らない。


一切慌てる事もなく冷静に首根っこを掴み盾を前に出す。


ドスッ! ブシュッ!


「痛ギャァァァァっっーーーーー!!」

「王子っ!?」

「殿下っ!?」


やはり、練度も低い。

弓を放って来た奴は百歩譲って止める事が出来なかったかも知れないが、暗殺者的な奴は攻撃を中止する事は当然として、矢を払うのが本来なら当然。

色々とこの国、終わっている。ちゃんと金、有るよな?

無かったら取り敢えず身包みを剥ごう。


練度が低い暗殺者の首を掴む。


「がぁっ! この瘴気、間違いない! 貴様、やはり魔族、それも上級魔族か!?」


あまりに練度が低い事が露呈したため、こちらの脅威度を盛ろうとする暗殺者。

思考回路も終わっているようだ。

ただ、顔色は本当に悪くなって逝くし、真に迫っていて無駄に演技力は高い。能力の無駄遣いにも程がある。


俺のどこに魔族要素があるのだか。

どんなに演技が上手くとも無理があり過ぎる。


「やはりこれは濃密な瘴気!」

「上級魔族だったのか!?」

「ウルゲン様がそう言うのなら間違いない!」

「住民の避難を急げ! 避難は新兵に任せて戦力はこちらに集中させろ!」


嘘だろ……。

まさかの、無理がある嘘に全員が騙された。

この国、義務教育とか無いのか?

ヤバい国だとは思っていたが、ヤバ過ぎる。


さっさと賠償金を回収してこんなところ去ろう。

女神様がいつ戻って来るのかも分からないし、早く帰るに越した事は無い。



「”グレートインパクト“!」


早く帰ろうと決意したところで、これまでとは比べ物にならない程の攻撃が飛んで来た。

大型トラックが矢になったかのような重さと威力が込められた一撃。

流石に王太シールドでは盾が駄目になってしまうので、ヒョイと掴んで止める。


「相手は上級魔族! 生半可な攻撃は通じない! 総員全力でかかれ! 止められなければ街が、この国が壊滅する!」


……壊滅しねーよ。


義務教育も受けていない見かけは大人、頭脳は子供な兵士達は王太シールドが損傷するのも覚悟で俺に挑む事を決めたらしい。

本当にどういう思考回路をしていたらこんな事になるのだか。


俺の方がチンピラ王子を守っているじゃねぇか。

姫を助けるヒーローはよくいるが、王子を助けるヒーロー? 

探せばいそうだが、少なくともメジャーではない。

モテ行動になるのか? まあ、やるだけやってみるか。


ちょうど、カッチョいい黄金髑髏から良い感じの紫のオーラが出ているし。

おっ、俺の意思に呼応したのか紫オーラの量が増えた。


隠しきれない俺の偉大さに、気圧された近くの兵士なんかは自然と跪きたい気分になるようで、崩れ落ちるように片膝立ちになる。

畏れまで抱いているようで一瞬で青ざめ心做しか窶れてまでいた。

通り過ぎた頃には膝立ちも出来ずに完全に崩れ落ちる兵士達も多い。


何故か、攻撃も激しくなってゆくが。


まあ、それだけ姫ならずの王子守り抜きプレーが出来る訳でもある。

プラスに考えるとしよう。


それにしても、本当にチンピラ王子の安否を考えない様な攻撃が増えて来た。

それだけ俺がコイツを守り切るという信頼が有るからか?

敵にまで信頼されてしまう自分の魅力が恐ろしい。


信頼に応えてチンピラ王子は無傷で返してやろう。

尚、もうちょっと鉄錆の香りがする赤色の塗料が塗られているが、これは初期の段階からなのでノーカンだ。


「止めろぉーー!! 私を誰だと思っているぅ!! 偉大なるアルベーム王国の王太子てあるぞぉーー!! 貴様等ぁーー!! この私に傷付けた者は死刑に処す!! 一族郎党も死罪だぁーー!! 見目麗しい女のみを我が性奴として残し、後は皆殺しだぁーー!!」

「殿下、立派なご覚悟で。よもや、国を滅ぼす上級魔族を倒すために、自ら犠牲になるとは!」

「殿下の有志は忘れません!」

「貴様等ぁーーー!!」


無傷で守ろうとしていたが、思いの外王太シールドに対しての殺意が高い。

処刑するとか叫ぶから、証拠隠滅のために亡き者としたいようだ。ボロ雑巾になっても構わないと言えば構わないのだが、それでは俺のヒーロー指数が下がってしまう。

何より身代金…、じゃなくて賠償金が少なくなる。


面倒でもチンピラ王子は守らなければ。


「この国だけでは無い!! 私に手を出せば我が妻達の実家も敵に回す事になる!! アルベーム王国、バルラド王国、グレッヒェリ評議国、トリュー公国、テトラルーデン、他にも婚約者の実家も含めれば八国、逃げ切れると思うなぁ!!」


……妻と婚約者を合わせて八人、いや、少なくとも八人だと?

前言撤回、コイツを無傷で帰す訳にはいかない。


「痛ぃぃぃぎぃぃやぁぁーーーーー!!! ふべらっおべらっるべらっ!!! あだうだおだまえだっっ!!!」


これまで盾の癖に攻撃が当たらないようにしてやっていたが、全てが当たるように、盾を使うように動かした。

簡単には殺さな…、じゃなくて身代金…、じゃなくてヒーローとして強めに回復魔法をかけているから死んではいない。

そして、攻撃が止まることも無かった。何としても始末したいようだ。一瞬で終わらせようとは何とも甘い事で。


ただ、こんな風に一部利害が一致しても、何故か俺に向けられた攻撃はそのままだ。

誠に遺憾である。

ある種、こんなクズハーレム野郎と同じ扱いをされている訳なのだから、遺憾であるとしか言い様がない。


まあ、中身以外にも実力もヤバい連中なので、特に妨害のレベルが上がること無く王城らしい場所まで辿り着いた。


「お〜い! 大人しく開けろ!」

「あ、あげろぉーー!! わだじをだずげろぉーー!! ざもなくばじげいだぁーーー!!」


返答の代わりに飛んてくるのは雨のような矢に魔法。


「あぶらべっちゃっっ!! どおんがづぅでんぷらがらあげぇぇーーー!!」


まあ、王太シールドがあれば量など関係なく、やはり妨害レベルとしては対して変わらない。

変わっているのは王太シールドだけだ。

肉盾王子は回復魔法の効かない服が全て弾け飛び無様な事になっている。

ハーレム状態なのに人種差別か俺のよりビッグだが、的が大きい為にその分色々とぶち当たっているので今回だけは許してやろう。


「ふぁーぶらっんんんっっ!!」


閉ざされた城門は王太子バットで殴り飛ばし、歩行速度を一切落すこと無く進み続ける。

この王太子、チンピラクズ野郎だが俺の手にかかれば攻防一体の便利アイテムだ。


「アルベームさ〜ん!? いるんでしょう!? 早く出て来なよ!? 息子が出した損害、親が払うのが筋だよねぇ!? こっちは迷惑してるんですよぉ!? 手荒な事は、したくないんだよねぇ!!」


道を探すのは面倒なので、行く手の障害物を粉砕しながらチンピラ王子の父親、王様に語り掛ける。


「あ、悪質な借金取りか、きざま……」


王太子バットの影響化さらに頭が悪くなったらしいチンピラが何か言っている。

どう考えてもチンピラはお前だからな?


「いないなら、勝手に差し押さえちゃうよぉ!? 良いのかなぁ!? 良いって事だよねぇ!!」


遂に王城本体の扉の前までやって来たが、未だ返答はない。

王城の扉をヤクザキックで吹き飛ばす。

マジでどこに居るんだ?


そうだ、こっちにはチンピラ王子がいるんだからそれを使わなくては。


「おい! オメェ等! コイツの命が惜しくは無いのか!? オメェ等の大切なガキが傷付いても良いのかぁ!? 良いんだったら泣き叫ぶ声を聞かせてやんよぉ!! てめぇ等がコイツを傷付けたんだからな!!」

「あ、悪党め、もうわだじはズタボロだ……」


それもそうか。

もうさっきから騒音被害を垂れ流していたな。

それに、本当にこの国の連中がチンピラ王子をズタボロにしているし。


しかし、それでも出てこないとは薄情な。

この国は、人の心すら無いのか?


だが、幾つもの扉を蹴り破る事で標的は見つかった。


王冠を被ったメタボなオッサン。

色々と如何にもなのがいた。


さて、手間賃も含めてしっかりとお支払いいただこう。


しかし、始めに金を取られたのは俺だった。


俺が動く前に首にかけた黄金髑髏が消え、何故か盗人王の首に俺の黄金髑髏があった。


……どうやら、相当俺に喧嘩を売りたいらしい。

言い値でチップもたっぷりと付けて買い占めてやろう。


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