良い子じゃないの対象には大人も含まれるから伝統に沿ってカップルに粛清をプレゼントすると主張するブラックサンタ、城を手に入れる

 


 両替所の中に入るとまたしても多くの視線を受けた。

 どんなに隠しても、俺の魅力は隠しきれるものではないらしい。

 まあ、知ってたが。


 自然と観衆は俺の魅力のあまりの強さに怖気付いたように後退り、自然と道が空き並ばなくて済みそうだが問題が一つ。


 字が読めん。


 おそらくどの場所が何のための窓口なのか書いてあるのだが、全く持ってどこが何なのか分からない。


 まあ、今やっている取引を見て判断すれば良いか。

 幸い道が空いたと言っても取引中の人や、距離がまだある列前方の人はそのままだ。

 そこを見れば大体分かるだろう。


 何かしらのカードを渡してから金を払い、そしてカードが返却される。

 違う。多分何かの更新手続だ。

 カードを渡して荷物を受け取る。

 これも違う。預けていた荷物の受け取りか郵便物の受け取りか何かだろう。

 カードを渡して金を受け取る。

 これは微妙なラインだ。銀行の業務を行っており、その業務のうちの一つとしてたまたま引き出しただけかも知れない。両替も出来る可能性がある。

 他には麻袋を渡して金を受け取る。

 買い取りのようにも見えるが、並ぶ商人達は全員が同じ様な麻袋を持っている。特定のなにかしか取り扱っていない感じだ。


 おっ、美人なお姉さん発見!

 並ぶ人がおらず、何をやっているか分からないが、きっとあそこだ。そうに違いない。


「こ、こんちには。土地の買い取りですか? 売却ですか?」


 絶望的に両替受付じゃなかった。

 しかし文字が読めずに間違えましたなど間抜けな事はお姉さんの前でなど言えない。


 と言うか、何で両替所で土地の売買なんかやってるんだ? まあ正確には商業ギルドとかいう多分冒険者ギルド的なのが開いているらしいが、それでもまさか土地だとは思わなかった。


 だが、予想外であれここは乗り越えなくてはならない。


「土地を買いに来た」


 選択肢はこれ一択。

 売れる土地なんか所有していないのだから買うしかない。


「あ、ありがとうございます」

「昨日、この街に来たばかりなんだ。まずは相場が知りたい」

「はい、現在この旧王都アルベーム周辺の土地価格は激しく乱高下しています。勇者軍の主力部隊の一つがこの土地にやって来てからこれを商機と捉える方々と、本格的に主戦場になりリスクが高いと考える方々とがおりまして、今日の価格と明日の価格は大きく異なっている可能性が高く、非常にリスクが高くなっております。商業ギルドといたしましても、土地の売買ではなく賃貸契約をおすすめしております」


 そう言って隣の受付を指すお姉さん。

 隣の受付には冷や汗を流すオッサン。


 うん、賃貸契約ではなく買取で決定だ。

 そもそも商売する気はないのだから、リスクも何も無い。初めから無駄な買い物とすら言える。


「リスク無しに大きな利益は得られない。土地を売ってくれ」

「は、はい。畏まりました」


 一瞬、冷や汗を流すお姉さんに、肩が軽くなった様な隣のオッサン。

 この隣接する窓口はお姉さんとオッサンと言う以外にも反応までも真反対らしい。

 どうでもいいが目に入ってしまう。


「参考までに、まずは一番高い土地について教えてくれ」


 買える値段ならここで買って良いところを見せよう。


「最高値はアルベーム城です。範囲は堀から内側になります」


 そう言って地図で範囲を示すお姉さん。


「この街の城、売ってるんだな」

「はい、勇者軍はアルベーム王国からこの街を要塞化する条件として王都丸ごとの買い取りを要求しました。勇者軍は我が商業ギルドからその買取資金を借り受け、その抵当としてアルベーム城を入れました。勇者軍からはアルベーム城は防衛に向いた城ではない為に必要ではなく、売れるようであれば借入金と相殺して欲しいとの要望を受けまして、現在商業ギルドで販売しております」

「で、お値段は?」

「三十億フォンです」


 王都の城だから王城なのだろうが、想像以上に安かった。

 いや、城の相場なんか知らんけど。


 というか、俺、今幾ら持ってるんだ?


 所持金:4,726,650,000フォン


 ……えげつない額持っていた。

 というか、分かるんだ。鑑定? それともアイテムボックスの効果か?


 女神様に吹き飛ばされた先で数え切れない程の害獣を退治してかなりの小銭を拾ったが、相当拾っていたらしい。


「じゃあ、城をくれ」


 流石に三十億は手が出せないと思っていたが、計画変更だ。

 残りの十七億でも女神様のプレゼントを大抵のものは買える。

 なら、ここは城を買って女神様を招いた方がより高い好感度上昇率になるに違いない。

 城を持っている俺は正しく白馬の王子様に等しい存在になる訳だ。


 予想外の事になったが、この窓口に来て俺の感は正しかったと証明された訳だ。


「え、は、はい! あの、まず資産状況は?」

「一括で」


 カウンターの上に金貨を積み上げる。

 アイテムボックスから三十億出そうとしたら、一気に三十億が出て来た。

 アイテムボックスって凄い。

 そして三十億分の金貨の迫力、凄い。


「は、はいぃっ!! 支部長を呼んで参ります!! 暫しお待ちを!!」


 お姉さんは血相を変えて走ってゆく。




「あちらがアルベーム城になります」


 元々の城門を探すという目的はあっと言う間に達成できた。

 馬車で容易に突破し、今俺は街の中心である城の前にいた。


 城の購入後の説明、もしくは遅い内見である。


 勢いで買ってしまったが、その決断を後悔しない立派な城が目の前にあった。

 小高い丘の上に立つその城は、モンサンミッシェルを城にしたような見事な建物だった。色合いはちょっと古臭いが、改装したら見事な城になるだろう。


 受け付けのお姉さんを始めとした商業ギルドの面々の案内で中に入ろうとすると、チンピラの一団に絡まれた。


「これはこれは、商業ギルドの皆さん! アルベーム城は売れましたかな? いい加減諦めて、我らが主に売却することをオススメしますぞ」

「今なら、十万フォンを下賜してやろう」


 人から金を巻き上げようとするチンピラらしい。


「ご心配、ありがとうございます。お陰様でこの度、御成約いたしました」

「何!? この私に嘘を申すか! 三十億フォンだぞ! どこの大商会だ!」

「大商会ではございません。こちらの御方が一括でご購入されました」

「一括だと!? そんな大金を一括で動かすなど、一体何者だ!?」

「お客様の情報を漏らすわけには参りません。お引き取りを」


 チンピラ相手にも丁寧に対応する商業ギルドのお偉いさん。

 本当なら地平線の彼方まで放り投げているところだが、全部対応してくれるのなら任せることにしよう。


「おいっ、買い取った不届き者は前に出よ!」


 ガタイの良いオッサンチンピラが前に出てそう恫喝してくる。


「ですからお引取りを! 方針を変えないようでしたら商業ギルドブラックリストに掲載いたします!」

「何だと!?」


 悔しそうに唇を噛み締めるチンピラ。

 だが、これで終わりにはさせない。

 俺は静止を振り切って前に出た。


 こういうチンピラはこの場で去っても商業ギルドの面々が去った途端に調子に乗るかも知れない。

 なら、今の内に締め上げるのが最も効率的だ。


「この俺がこの城の主だ」

「お前がこの城を買ったのか。ならば命じる。その城を明け渡せ」

「良いだろう。六十億フォンだ」

「舐めているのか!?」

「その不敬、ただで済むと思うなよ!?」


 予想通り逆上し襲いかかって来るチンピラ。

 俺に辿り着く前に商業ギルドの護衛達が立ち塞がるが、俺は一瞬でその前に出た。


「なっ!? お下がりを!」

「我らの後ろに!」


 光る大剣が俺に振り降ろされたが、流石はチンピラ。

 害獣よりも遥かに遅く弱い大剣は素手で掴めた。

 そのまま大剣を握り潰し、続けて飛んで来た炎の槍を掴んで投げ返す。

 そして大剣チンピラの本体は、チンピラ達に守られた位置にいるおそらく一番偉いボスチンピラに投げる。

 ボスチンピラの周りに密集していた奴らごと吹き飛び、堀を越えて城の城壁を凹ませる。


「あーっ!! 俺の城を傷付けやがって!! 許さん!!」


 せっかく綺麗な城で女神様をおもてなししようと思っていたのに!

 どうしてくれよう。

 取り敢えず、賠償金を請求しよう。

 ちょうど商業ギルドの人達もいるし、何かしらの契約でも結んでもらおう。


「「「…………」」」


 しかし、呆然と立ち尽くしている商業ギルドの面々。

 護衛達すら立ち尽くしている。


「あ、あの…」


 やっと回復したのは意外にも受け付けのお姉さん。

 やはり女性は逞しい。素敵だ。


「あちら、アルベーム王国の王子殿下です……」

「ん? 大痔伝家? そんなに有名な痔が酷い一族なのか? 背中から壁にめり込んだし、ケツも酷い事になっているかもな。はははっ!」


 だとしたらいい気味である。

 俺に逆らった罰だ。


「いえ、王族です。アルベーム王国の国王様の御子息です」

「王子? あいつが? あんなのが? ああ、継承権とかが無いからフラフラしているバカ王子という奴か」

「……第一王子、次期国王である王太子殿下です」

「この国、終わってんな」


 ただのチンピラかと思っていたら次期国王様であったらしい。確かに良さげな服を着ているな。

 顔もまあ良いといえば良いか。もう少し痛めつけておけば良かったな。


「と言う事は、他のチンピラもお偉いさんか?」

「チ、チンピラ……」

「お客様に斬り掛かって来た騎士はアルベーム王国最強との呼び声が高い近衛騎士団長ラーズ卿、投げ返された魔術で燃えて堀に飛び込んだのは宮廷魔術師の次席ソラム師、他の面々も近衛騎士団や宮廷魔術師の精鋭や官僚達です」

「本当にこの国終わってんな。実力的な意味でも」


 精神面でも実力面でも最悪。

 この国はとっとと出た方が良さそうだ。

 でも、城買っちゃったしな。

 このままどっかに埋めておくか?


「ま、まずいですよ」

「王太子殿下一行を壊滅させた訳ですので」

「正当防衛だ。それにこの程度の奴らがトップレベルだったら百万の軍勢で来たって問題ない」

「まあ、そうかも知れませんが……」

「そんな事よりも、こいつ等が国の上層部って事は当然金を持っているんだよな? 城壁の弁償させてやる」

「「「………………」」」


 賠償金を絞り取るついでに、これ以上ちょっかいをかけて来ないようにオハナシして来よう。

 そうすればヤバい国であっても俺のハーレムライフ的には何も問題ない。


「おい、チンピラ王子」


 めり込んだ壁からバカ王子を回収して、賠償金についてのお話を始める。


「お、お前、こんな事をしてただで済むとでも!?」


 付き人クッションのおかげか、割とピンピンしているバカ王子。


「お前こそ、俺を攻撃して俺の城を傷付けておいてただで済むと思っているのか?」

「「「………………」」」


 何故か予想していた反応と異なり絶句するバカ王子と、何故か同じく絶句する、いや絶句し続ける商業ギルドの皆さん。


「取り敢えず、賠償金を支払ってもらおう。城に傷を付けて三十億、俺に傷を付けて三十億、そしてチンピラの保釈金が三十億、きっちり支払ってもらおう。断ればどうなるのか、分かるよな?」

「「「……………………」」」


 王家なら当然このくらい支払えるだろう。

 即金がなければ付き人チンピラ達にも払わせれば良い。

 国の上層部と言う事は良い給金を貰っている筈だ。

 余裕が有りそうなら保釈金名目でもっと払わせよう。

 誰も全員で三十億とは言っていない。


 まさか城を買ったのに倍以上に資産が増える事になるとは。なんて幸運。

 天はしっかりと俺を見ているらしい。

 日頃の行いが報われる。


 女神様も俺にべた惚れになるに違いない。

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