良い子じゃないの対象には大人も含まれるから伝統に沿ってカップルに粛清をプレゼントすると主張するブラックサンタ、財宝を手に入れる

 


 害獣駆除は無事に成功した。


 害獣の亡骸が地を埋め尽くす程に散乱しているが、一面の焼け野原、それを通り越して地形が高温で融けている箇所も多いから、そのうち勝手に引火してゴミは残らないだろう。

 後片付けは問題ない。


 主要なドロップアイテムは倒しながら回収したし、流石の女神様も一つ残らず欲しいとは思わない筈だ。


 つまり女神様へのプレゼントは十分。


 宝石や綺麗で高そうな毛皮、象牙の様な骨に骨抜きになる女神様が目に浮かぶ。


 そしてアナウンスが長くてまだ把握していないがレベルとかスキルも色々とアップし、俺の魅力も以前よりも増した。

 世の女性達の目を輝きで潰してしまわないか心配な程である。


 これで、女神様の心は俺のものだ。


 おっと、また服が全焼し全裸になっていた。

 良い感じの衣装ドロップアイテムもあるからそれを身に纏ってと。


 よし、完璧だ。

 女神様の元へ帰るとしよう。


 俺は思いっ切り踏み込み街へと跳んだ。



 なんか俺がいた方向に用事が有るらしい勇者軍と一瞬ですれ違い、弾丸の如き速さであっという間に街へと到着。


 ホテルにいる女神様にドロップアイテムを貢に向かう。


 さっき吹き飛ばされた際にぶち空けられた穴から一目散に女神様のいる食堂へ。


 しかし、そこに女神様の姿は無かった。

 どうやら食べ終わり食堂を去ったらしい。


 ならばと部屋へと戻る。


 だが、そこでも不在。


「スンスンッ、そういえば、このホテルから美女の気配がしねぇな。出かけたのか? そうか、吹き飛んだ俺を心配して探しに行ってくれたんだな。だったら悪い事をしたな」


 急いで戻ろうか。

 いや、鉢合わせになったら風情も何も無い。

 俺が消えたと思い込み悲しんだところで後ろからハグのサプライズ。

 女神様が号泣しながら俺を受け容れる光景が目に浮かぶ。


 よし、これで決定だな。


 ここに居てはその作戦は実行出来ないし、暫く隠れてやり過ごすとしよう。

 街でも散策していようか。

 女神様が喜びそうな追加プレゼントやデートスポットリサーチをしておけばゴールイン間違いなしだ。


 街の散策中にバレても計画が破綻するから、姿を隠せる服装、あの骸骨のローブを着ていよう。

 フードを被ればバレはしまい。陰気臭いが計画の達成と比べたら些細な事だ。


 準備が整ったところで街へと向かう。


 このホテルは移動して来た関係上、街の城壁の外にある。

 だからまず向かうは街の入口だ。


 さて、入口はどこにあるのか。


 俺達と一緒に移動して来たらしい一団の移動建築やテントやらで一目では発見出来ない。

 と言うか、街が移動して来たから何処からが到着した街であるのか分からなかった。

 流石に街の城壁丸ごとが移動して来た訳では無いらしいが、数階建ての幾つもの建物があっては見通しも悪いし、もちろん案内板も無い。


 唯一分かるのは道。

 草原にそのまま停めているらしく、草が生えている部分は元々あった街ではないという事だけは分かる。

 異世界の道は芝生になっている様な文化が無い限りは、元の街では無いと判断して良い筈だ。

 そうであってくれなければ本当に何の目印も無い。


 しかし新たな街に辿り着けなさそうだからといって、移動して来た街の散策をする事も出来そうに無かった。

 どこも慌ただしく荷物を動かしたりとしている。

 まだ引っ越し作業中だ。

 当然、どの店も開店していない。


 いつもなら女性に道を尋ねると共に、新たな出会いを生むチャンスにするところだが、サプライズを演出する予定の今はそれも悪手だ。

 自力で探すしかないか。


 感を頼りに動きだす。


 幸い、跳んで来たから街の方向だけは分かる。

 城壁まで辿り着けば何とかなるだろう。


 美女はどの建物にいるのか、引っ越しが終わったらどこが何の店になるのかを確認しながら街を目指す。


 おっ、美女発見!


「急いでどうしたの?」

「本部から出撃準備の指示があった。先遣隊が向かったアルベルムの森が壊滅していたらしい。強大な魔獣が眠りから目覚めたのか、もしくは魔王軍が進軍する為に道を切り開いたのか定かでは無いが、人智を超える程の破壊が広がっていたそうだ。君も、警戒していてくれ。何かあったらすぐに逃げられるように」

「嫌よ! 私も一緒に戦うわ! あなたと結ばれた時から覚悟の上よ! 一人でなんか征かさないわ!」

「ありがとうマリー、一緒に征こう!」


 求めている美女では無かった。

 と言うか横のは絶対に要らん。


「“リア充爆発しろ”」


 望み通り、一緒に逝くといい。


「「ぎぃああーーーっっ!!」」


 綺麗な花火だ。

 目の消毒になる。

 街も消毒出来て一石二鳥だ。


 さて、目の保養になる女性はどこかにいないか。


 おっ、花束や植木鉢を動かしている花屋の女性を発見。

 商品の花よりも目の保養になる。


「やあ、エマ!」

「カール! 勇者軍のお仕事じゃなかったの?」

「君のことが、心配になってさ」

「もう、昨日も会ったばかりじゃない」

「本当はずっと一緒にいたいから、それだけで耐え難い苦痛だったよ」

「カール、私もよ」


 ギルティ。

 彼は大変不真面目な様だ。勇者軍の戦士の癖に本当の苦痛を知らないとは。

 本当の苦痛を教授してやろう。


「“リア充爆発しろ”」


 花屋の店前に大きな花が咲き誇る。


「「ああっっーーーっ!!」」


 うむ、花は火の花に限る。


「きゃっ、魔王軍の襲撃!?」

「俺の後ろに! 君は俺が守る!」


 抱き合って隙を晒しまくりじゃねぇか。

 何が守るだ。


「“リア充爆発しろ”」


 出来るもんなら守ってみせろ。


「「きゃああーーーっっ!!」」


 ほら、守れない。

 彼女よりも甲高く大きな悲鳴を上げる奴に何が出来る。

 目覚めたらそんな奴と別れて俺と付き合うように説得するとしよう。


「大変! あんなところに怪我人が!」


 おっ、美少女シスター発見。

 あんな奴らの心配までするとは、今度こそ心も清らかな女性に違いない。

 見かけも心も美しい、まさしく俺の求めていた女性だ。


「いけません、シスターカレン! 事故現場、事件現場では危険がまだ残っている可能性があります! 迅速さは大切ですが、慎重さも大切です。私が先行します。あなたが傷付くのは耐えられませんから」

「先生…」


 うっとりと見つめ合う二人。


 医者的な立場なら怪我人を見ろや!

 駄目だ、業界も考えると心が綺麗どころか不良だったらしい。


 俺がお手本となる医療行為を見せてやろう。


「”リア充爆発しろ“」


 病巣の除去というやつだ。


「「かはぁぁーーーっっ!!」」


 これでここの医療業界が少しはマシになった筈だ。


 良いことをした後はスッキリとする。



 色々と花火を打ち上げながら進む事しばらく、やっと城壁まで辿り着いた。

 昨日いた都市の城壁よりも低く、近付けば中々見つけられなかったのにも納得がいく。


 そして城壁に辿り着くまでに知ったが、ここに来たのは俺達がいた街の一団だけでは無いらしく、かなりの数のテントが存在し、城壁の近くではそうした移動組によるものと思われる市場が開催されていた。


 野菜に魚、細かい雑貨に異世界らしく魔獣の肉や毛皮、牙なんかが並べられた店まで色々とある。

 屋台に並ぶ料理も串焼きからスープ、炒飯っぽいものから名前が分からない地球にあったか定かでない料理まで、屋台ながら充実している。


 朝飯は全部女神様に食べられたし、せっかくだから腹ごしらえしておくか。

 それにデートプランも組めるかも知れない。

 おしゃれな街を行くのみがデートではない。お祭りに一緒に行くのは一大イベントであるように、こういう場所でのデートも良いものだ。

 祭りという特別感こそは無いが、まだ異世界に来たばかりだというアドバンテージがある。何もかもが新鮮に映ることだろう。きっと素晴らしいデートになるはずだ。


 問題は手持ちの資金。


 財布が空という訳ではない。

 寧ろ、害獣を倒して小銭は増えている。

 しかし、手持ちの小銭は全て金貨。大量に倒した筈だが不思議と十万の価値がある金貨が最小価値の硬貨だった。

 つまり、受け取って貰えるかが分からない。

 祭りの屋台として考えると、まず十万円に対するお釣りの用意は無いだろう。


 まあ、釣り銭が無い時は多く買っておくか。


 幸いここは異世界。

 俺にはアイテムボックスがある。

 買い過ぎても収納しておけば良いだけだ。


 だが、もしも不味い料理だったらただゴミを溜め込むだけになる。

 やはり、基本は金貨よりも細かい小銭が必要だ。


 まずは高そうなものから買うとしよう。

 幸い、正確な値段は分からないが桁数は読み取れる。


 この辺りで高いものとなると、アクセサリー類か。


 おっ、カッチョいい金ピカ髑髏のネックレス発見。

 金箔かなんかで金色になった小型の髑髏を幾つも連ねた素敵ネックレス、何故こんな市場に置いてあるのか不思議なほど豪華な仕上がり。

 俺のような真の漢にこそ相応しい。


 なんか他の店舗から離れてポツンと存在しており、広場の中に一店舗だけあるような形になっているし、この市場の目玉商品かも知れない。

 これは何としてでも購入せねば。


「この髑髏ネックレスは幾らだ?」


 痩せ細り吐血までしている店主に問う。

 というか、この店主大丈夫か? 霊感なんか全く無い俺にすら死相が出ていると感じるほど体調が悪そう、いや死にそうだが?


「百フォンになります」


 店主は口が裂けそうな程にニヤリと笑うと、破格の値段を提示してきた。


「何でそんなに安いんだ? 本物の金に見えるが?」

「昨日、拾っただけのものですので、気に入っていただけたのなら、お安くお譲りいたします」


 不気味な営業スマイルに馬鹿正直な値段設定。

 さては、あまりに商売が下手だから栄養があるものを食えずに死にかけているんだな。


「金貨十枚だ」

「そんな、受け取れません」

「百フォンなんて安いアクセサリーなど俺は身に付けん。受け取れ」


 良いものには相応しい値段を。

 というか、流石に飢え死にしそうな奴を放っておけん。

 強めに金貨を押し付ける。

 ついでに回復魔法も。


「あ、ありがとうございます。聖者様」


 俺の慈愛の心に、涙を流しそうになりながら喜ぶ店主。


「そうだ、あと金貨を両替できる場所を教えてくれ」

「両替所は商業ギルドの出張所がこの通りの突き当りを左に曲がったその先にあります。一番大きなテントですのですぐに分かるかと」

「そうか」



 店主から金ピカ髑髏ネックレスを受け取った俺は早速それを首にかけ、両替所へと向かう。


 金ピカ髑髏は見かけ通りに、いやそれ以上にずっしりと重く、もしかして全部純金何じゃないかと思う程の重量だ。少なくともグラムではなくキロの気がする。

 拾い物だとしても、もう少し金貨を渡しても良かったかも知れない。


 身が引き締まるような思いすらしてくる素晴らしいネックレスだ。


 色々と視線まで飛んでくる。

 顔はフードを深めに被り隠しているのにこの注目度、やはり俺の魅力は更に数段ランクアップしている。

 ふっ、今フードを取ったら一発で世の女性の心を撃ち抜いてしまうな。

 女神様にサプライズを仕掛けたら一撃必殺間違いなし。


 もはや、女神様と結ばれるという最終目標は達成したも同然だ。


 しかし、そこにプレゼントがあったら更に良いのも間違いない。


 デキる漢たる俺は、どんな時でも準備を怠らないのだ。


 そんなこんなと未来を計画しながら歩いていると、両替所が見えてきた。

 サーカスも出来そうなくらい大きめのテントだ。

 入口には屈強の男が武装して警備しており、多くの人々が出入りしている。

 中には馬車ごと入る事もあり、どうやら両替以外にも多くの業務を行っているらしい。


 もしかしたら、金貨の両替以外にも拾ってきた毛皮の売却とかも出来るかも知れないな。

 女性へのプレゼントに使えない不要なもののリサイクルだ。

 ここで出来ないとしても、そういう店を探して行こう。


 さて、まずは両替だ。


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