第2話 孤独
円たちとは違う1年のクラスで、一人で俯いている女生徒がいた。
(みんな楽しそうだな。私もあの子たちの輪に入りたい。でも・・・。)
女生徒とは反対に、クラスメートたちはそれぞれで楽しんでいる。その様子を眺めながらますます憂鬱な気持ちになる。
(初めは、話しかけてくれてた。でも、今はみんな避けている・・・。私が上手く話せなかったからだ・・・。こんなはずじゃなかったのに。)
2学期から転校してきて、途中から入った感じはあったが最初はみんな優しく接してくれていた。少女も、緊張しながらもなんとか話していた。
「東の方からきたの?どんな学校だった?」
「親たちの仕事の都合でこっちへ来たんだ。大変だったんじゃない?」
「兄弟や姉妹はいるの?」
みんな、女生徒に対して興味津々で質問しあっていた。
「うん・・・」
しかし、女生徒はあまり答えることがなく俯いたり、ぎこちない笑顔で対応することが多かった。そんな彼女に対して、あまり話さない子なんだなと思い自然と話しにいくことがなくなっていった。みんなともっと話したいと思っていても声をかけにいく勇気や自分から輪の中に入ることはできなかった。
(前みたいに話かけにきてよ・・・。なんでみんな来てくれないの?)
みんなと楽しく話したい。でも、できない。不安と悲しみが募り、黒い靄が現れ始めて囁いてくる。
「おまえはひとりだ・・・。みんなおまえのことがきらいだからよってこない。おもしろくないからはなしたくない」
「そんな・・・ひどい。私は楽しく過ごしたいだけなのに、一人は嫌なの!!!!
仲間外れにしないでー----」
彼女の叫びが靄となってクラスメートたちを襲った。
決して嫌だなと思ったり、いじめているということではなく話しかけても楽しくなさそうだと思った。そうなれば、そっとしておいた方がいいのかなと周りの気持ちもあったのだった。
そして彼女としては初対面で緊張しているのと、上手く話さないというプレッシャーがあってはっきりと話せなかったことが要因だ。
そのことがあり、周りからも話かけなくなったのもあり、彼女はますます一人でいることが多くなった。
周りとコミュニケーションを取って誤解をただすということもしないので、嫌われているんだという思い込みが激しくなる。
(私が行ってもどうせ、上手く話せない・・・。雰囲気を壊しちゃう。だから、このままでもいいんだ)
ーー-どうせ嫌われているんだから。それなら、いっそー-------
彼女の暗い気持ちとどこからか闇から声がささやいてきた。
いっそ、一人のまま。嫌なクラスメートたちを滅ぼせばいい!
そう思うと同時に、彼女の身体からどす黒い闇が漏れでできた。
帰り支度をしている中で変な違和感を感じた。
(これは・・・鈴の時と同じ感じがする・・・・!)
円は違和感を感じた方へ向かおうとして友達に告げる。
「ごめん、ちょっと寄りたい所あるから先帰ってて。」
「わかったー。また明日ね。」
挨拶をしてから2階へと向かった。違和感の場所へと近づくたびに、靄が漂っていた。
「あの時の靄・・・・うっ!!!!」
身体を絡めとられて、負の念が円を襲う。
「ヒトリはサミシイ・・・。アナタもイッショに・・・・」
(息が・・・・っっっ)
できないと思った瞬間、絡みついた念が吹き飛ばされた。
「離れなさい!!!」
ゲホゲホと咳き込みながら見ると、ひとりの少女が仁王立ちして立っていた。
その隣には翼も立っている。
「翼くん!・・・えっと、助けてくれてありがとう。あなたは・・・?」
「ルゥよ。私も翼が使役している一人。」
「ルゥちゃんね!これからもよろしく。」
「急ごう。」
少女を紹介しながら、翼たちは靄のある方へと走った。
上の階へ上がっていくと、靄が濃い場所へと辿りついた。
「ここだな!」
少女から黒い念が溢れだしている。前とは違い、少女自身が靄を操っていた。
「仲マはずれにするなら、みんなイラナイ・・・・!!!」
黒い靄が円たちを襲う。翼が靄を振り払い、ルゥが少女を念で攻撃する。
「これで終わりよっ!!!」
「うっ・・・うぅ・・・・」
念での攻撃を強めて、靄を残さず絶やす。攻撃する度に少女が苦しそうに呻いていた。
「待って!なんかおかしい。あの子も苦しんでいる!」
「え?・・・でも、そんなこと言っても・・・!きゃーっっ」
ルゥが攻撃を緩めると、靄が攻撃し始める。ルゥは身動きが取れず、翼は靄をなぎ倒し続ける。
「あの子ごと攻撃しないと、止めれらない。多少、傷ついてもやるしかない!」
「だめだよ!あの子を傷つけず、止めないと。一人は寂しいって苦しんでいる。」
黒い靄が円を止めにくるが腕でかばいながら少女に向かっていく。
「おい!何をする!危ないっっ・・・・!」
「靄を出さないで!お願い、止めて。」
円が言った途端に、靄の動きが止まる。その隙に円は少女に抱き着いた。
「な、ナニをするっ・・・ヤメロ・・・」
突然のことで少女は戸惑いを見せる。翼もルゥも驚いて円を見た。
「一人ぼっちは寂しかったんだよね。でも、もう一人で悩む必要はないよ。」
一瞬、靄が薄くなるが少女は首を振り、円をほどこうとする。
「いや・・・オマエハヒトリだ・・・。みんなオマエの所から離れてイッタじゃないか。」
「そうよ…。みんな、最初は話しかけてきたけど、その後は来なかったわ。私のことが嫌いになったのよ!」
そういうなり、負のエネルギーが強くなり靄も濃くなる。
「円…まずい、離れろ!」
翼が止めるも円は聞かない。
「危ないわ、私がやるわ!」
ルゥが念で攻撃する中、円は離れようとしなかった。
「どうして・・・!」
ルゥや少女の叫びが響きわたる。
「一人じゃないよ・・・。今でも私たちがいる。周りのみんなも、貴女を嫌っていたわけではない。そう見えただけ。本当に、嫌っているだなんて誰かが言ったの?」
「ソウ思っていたダケ・・・・?」
念で苦しみながらも、円の言葉に反応する。靄が段々と弱まる。
(最初の会話で・・・私が話さなかったから、みんなもそれ以上話さなかったんだ。離れていったように見えたけど、私も自分からは行かなかった。嫌われていない・・・?)
少女の涙が流れる。円は、強く抱きしめながら言う。
「大丈夫だよ。勇気を出して、話してみて。私たちもいるから。」
「うん・・・・。」
少女が安堵して意識を手放すと同時に靄も消えていった。
「とりあえず・・・終わった・・・か?」
黒い空気が晴れていくのをみて、翼たちも安心する。
「その子も・・・大丈夫そうだな。」
「うん。きっと大丈夫だよ。」
「本当、大変だったんだからね!あんたも無謀に行き過ぎなのよ!」
ルゥに叱られて円は苦笑いをする。
「ルゥ。そんなにきつく言うな。でも、ありがとう。またよろしくな。」
「ふんっ!また何かあったら呼びなさい。」
そういうなりルゥは消えていった。
クラスメートたちも目を覚まし始めたので、円たちは部屋を出ていく。
「また来るね。」
翌日。
いつも集まっている輪の中に、一人の女生徒が声をかける。
「お、おはよう!昨日、みんなあの後大丈夫だった・・・?」
少女から来ると思っていなかったので、会話が止まって沈黙が続く。
(うわぁ・・・言ったけど、みんなが何を思っているかが怖い。でも・・・大丈夫。話しかけることをやっていく。)
少女が目を瞑って待っていると、空気が少し和み、会話をする。
「何があったかよく覚えてないんだけど・・・。大丈夫だったよ、眠たい感じはしたけど。佐々木さんも大丈夫だった?」
会話をしてくれて、自分を気遣ってくれることに感動した。思わず、涙が出る。
「佐々木さん??どうしたの!?どこか痛いの?」
少女は首を振って返事をする。
「ううん・・・。こうやって話せることが嬉しくて。いつも一人だと思っていたから。」
少女の言葉に、女子たちは微笑む。
「そうなんだ。佐々木さん、あまり話す子じゃないのかなと思って、遠慮してたんだ。」
女子たちの言葉を聞いて、少女は嫌っていたと思い込んでいたときを思い出す。
(自分が一人だと思い込んでいたんだ・・・・)
「ごめんね。話すのが得意じゃなくて。でも、みんなと一緒に過ごしたいと思うから、また輪に入ってもいいかな。」
不安げに聞く少女に、女子たちは顔を見合わせて頷く。
「もちろんだよ。次、体育だね。一緒に行こうよ。」
「うん!」
少女は笑顔で頷き、女子たちと行動する。
その後も、少女は輪に入って楽しそうに過ごしていた。
終わり
感情との戦い 藍川 要 @kanane-i
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