感情との戦い 

藍川 要

第1話 嫉妬

あなたは好きな人はいますか?

いる人もいない人も、あなたは今幸せですか。

自分の理想の幸せとは、どんなことでしょうか。


好きな人と一緒に過ごすこと、1人でいることが幸せな人。いてもいなくても今の状態が幸せではない人。


みんなそれぞれの思いがあり、1つ1つの現実がある。


もし、その現実があなたの思い描いている現実ではなかったら。あなたはどうするでしょうか。


例えば、好きな人に自分ではなく他に好きな人がいたらあなたはどうしますか?



「よし、忘れものないね!行ってきます!」


「おー、行ってらっしゃい」


起き始めたばかりの恰好で、樹は円を見送る。

元気よく出たのは五十嵐 円。(15歳)公立風葉高等学校に通う1年生だ。


宗教系や陰陽師などが集まる専門性の所もあるが、風葉高校は一般の普通科の所だ。生徒の自主性を重んじて、規律もあまり厳しくない。


円はそんな学校と友達と過ごす時間が好きだった。

(授業は憂鬱だけど、今週のりきれば美月たちとカラオケー!がんばろうー!)

遊びのために励もうとモチベーションをあげていった。



そしてその日の放課後。一人の女生徒が円に話しかける。


「円、相談があるんだけど・・・。」


「鈴。どうしたの?」


頬を少し赤くしながらも言ってきたのは同じA組の近藤 鈴。溌剌とした少女なので、普段のイメージとは違う恥じらう姿があった。


「私、早見先輩が好きなの。先輩とお付き合いしたい。どうアプローチしていったらいいと思う?」


そうだったんだ!と円は驚くが微笑ましく思う。

鈴が先輩を好きなんて、素敵なことだ。

自分に何かできることがあれば、全力でやりたいと思う。

しばらく考えた後、こんな感じはどうかな?と話す。

「話すきっかけとして先輩に挨拶するのはどう?声をかける機会を増やしていって仲良くなっていったらいいんじゃないかな。」


うんうんと鈴は頷き、早速明日からやってみようと言う。あーかな、こうしたらいいんじゃないと2人で談笑しながら明日の作戦を練っていた。

「がんばってね。応援してるよ」


「ありがとう、円。頑張って先輩と話すね!」


うきうきしながら、明日のことを考えて帰っていった。




そして翌日。


(服の乱れもないね。髪もアイロンしてきたし、大丈夫。深呼吸して・・・)

自分の姿をチェックしてスー、ハーと気持ちを落ち着かせる。

先輩を見つけたので、声をかけるべく近づいていく。


「早見先輩!おはようございます!・・・っ!!」


「おはよう。えっと、君は・・・?」


先輩に挨拶をして、鈴は意識が止まった。隣には、綺麗な女生徒も一緒にいたからだ。鈴を見て2人も立ち止まる。見た瞬間、鈴は先輩の話を聞くことができなかった。


(彼女いたんだ…。素敵な人だもんね。…いいな。隣にいれるのが羨ましい)


急に話さなくなり、2人は心配そうに声をかける。


「どこのクラスかな。初めてお会いするけど・・・・。大丈夫?」

「新。具合が悪そうなら保健室に連れて言った方がいいんじゃないかしら。一緒に行きましょう。」

「そうだな。君、一緒に・・・」


反応のない鈴を気にかけて、保健室へ向かおうと手を伸ばしたが、すぐ下す。


(私の方が先輩のこと、好きなのに。…ずるい!あの人がいなければ…私のこと見てくれるのにーーー!)

鈴が思うのと同時に、黒い靄のようなものが溢れだし、2人を襲った。


「なんだ・・・・!!」「キャーー-!!」

周りにいた生徒も次々と倒れていく。黒い靄は不気味に笑い、廊下全体を覆った。


(なんか変な空気を感じる)


違和感を感じて、円は階段を駆け上がる。廊下一帯がどんよりとした重い空気と濃く黒い霧のようなもので覆われている。

ひしひしと嫌な気持ちにさせる空間だった。

その中から、靄が形を成して円を襲う。



「キェェェェェ!!!!」


「うわ!!やめて!!」


顔を手で覆って守ろうとする。円が叫ぶと、一瞬黒い靄がピタっと動きを止める。


「・・・・ん?」


恐る恐る手どけて前を見る。再び黒い靄が雄たけびを上げて襲い掛かってきた。


「うわあー---!」


もうダメだ・・・と思ったときに、突然どこからか声が聞こえた。


「リーフ!靄を倒せ!」

「ギャウゥ!」


目の前で水色のドラゴンが火を噴いて靄を燃やしていた。


「アァァァァ!アツイ・・・・ッ」


そう叫んだかと思うと、ジュウゥゥと音を立てて消える。


「一体何が起こったの・・・・」


目の前のことに理解が追い付かず、固まったまま立ち尽くした。


「よくやったリーフ。ご苦労様。」

「ギャウ!」


青年はドラゴンの頭を撫でて言った。円をチラッと見て去ろうとする。


「待って!あの・・・助けてくれてありがとう。」


円に話しかけられて、青年は振り向いた。


「いや・・・。間に合ってよかった。」

「私、五十嵐 円。1年A組にいるの。あなたは?」

「倉橋 翼だ。1年B組にいる。」

自己紹介なく去ろうとしてたので、円は慌てて名乗った。ぶっきらぼうにも翼が答えてくれたので、ほっとする。

「隣のクラスだったんだ。改めてよろしくね。私のことは円でいいから。私も、翼君って呼ぶね。」


円のコミュニケーションの取り方に翼は戸惑う。

自分はいきなり初対面の女子に名前呼びはできないな・・・と心の中で思う。


「それよりも・・・・まだ起きないな。」

自分たちが話している間に、周りの人たちが起きてくるかと思ったが、その気配がない。円も鈴に駆け寄り確かめる。

「鈴!しっかりして!目を覚まして!」


黒い靄は消したはずなのに、まだ苦しそうに鈴が呻いている。


「せんぱ・・・。なんであの人と・・・・」


うぅ・・・と涙を浮かべなから言った。円は先輩と隣にいる女生徒を見て鈴の気持ちを考えた。そして、優しく語り掛ける。


「鈴・・・・・。つらかったね。先輩の彼女になりたいって言ってたもんね。でも、これで終わりじゃないんだよ。先輩以外にいろんな人と出会う。その時に、素敵だなと思ってもらえる女性に一緒になっていこう。鈴の良いところ、私いっぱい知っているよ。だから絶対になれる!」


円が言った途端に、淀んでいた空気が透き通った。倒れていた人たちも目を覚まし始める。その光景に翼は驚く。

(さっきまであった邪念が一切ない・・・・。言葉だけで追い払ったのか。いや、彼女には何か力があるのかもしれない。)

道具も術も使わずに、救ったことが信じがたい。これからも円の様子を観察しようと決め、翼はリーフと一緒にその場を去った。


翼のことはおかまいなしに、鈴に抱き着いた。


「鈴!よかった!!目を覚ましたんだね。」


「円・・・・。ありがとう。私、がんばってみる」


鈴の言葉に円も力強くうなづいた。


「うん!一緒にがんばろう。周りの人が大丈夫か確認しよう」


「そうね。先輩にも迷惑かけてしまった。謝ってくる。」


2人が起きたのを見計らって鈴は近寄った。


全員、ケガもなく無事なようだった。

円は安心して、そして翼の姿を探した。


「あれ・・・。いつの間にかいなくなってる。まぁ、隣のクラスだったらまた会うか。」


先輩たちと鈴の和やかな雰囲気を見て、円も微笑む。

本当に良かったと胸をなでおろした。


(もうあんなことにはなりませんように・・・・。さて、授業の準備しないと!)


今日も慌ただしい1日が始まる。




そして、今度は他の生徒から黒い靄が吹きだし始めていた。


「みんなと仲良くしたいだけなのに・・・・・。

なんで、私を除け者にするの!!!!!」


黒い靄が不気味に笑う。












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