書籍発売記念SS・最強と最強10



 それを例えるなら、大怪獣と英雄の一騎討ちだろうか。


 生物と植物の境界を概念魔法によって破壊したプリムラは闘技場に生やしたジャングルジムと一体化し、大質量を背景にやりたい放題する。その正面から、あらゆる障害を二刀によって斬り裂いて進む黒猫が舞い踊る。


 個の武勇を極め過ぎたノノン。環境の操作を極めて域までたどり着いたプリムラ。互いが互いにどれだけ削り合おうとも不倒。


 プリムラは植物化したが故に、フィールドに存在する全ての植物を一瞬で消し飛ばさない限りは再生し続ける。なのでプリムラの魔力が切れるまでは殆ど死ぬ事が無い。


 対するノノンも発動した【屍山血河】の効果でどれだけ血を流そうともはたから回復してしまう上に、流した血の総量でバフが掛かる。


 極まりすぎて、決着がつかない。その結果が大怪獣と英雄の一騎討ちである。


「ペンギンハイウェイ!」


「やっぱ普通の魔法も使えんのかよ! てか落ちろやぁぁあッッ!」


 ノノンが空中に水を浮かべてその上を走り、ジャングルジムから巨大な木の西洋竜に変化したプリムラがそれを叩き落とそうと腕を振る。


 ◆


 早朝に始まった戦いは日が暮れる寸前まで続いた。互いが互いを殺せない状態になっても茶番を続けたのは、二人ともなんだか楽しくなってしまったからだ。


「…………はぁ、はぁ、答えは、見つかりましたかっ?」


 ボロボロのドレスを半端に纏ったまま、肩で息をするノノンはしかし傷が無い。衣装や髪だけが傷んで肌は無事と言った様相だ。


「やっと分かった。お前らが使う技の根源は、『呪い』だな?」


 対するプリムラは、体も服も植物由来で魔法が使える状態だったので完全に無傷に見える。ただこの場を見ただけの者が判定をするならプリムラに軍配を上げるだろう。


 しかし、体力を失ってるだけのノノンに対し、プリムラは魔力のほぼ全てを失ってる。まだ戦いを続けようと思ったらどちらが不利かと言えばプリムラだった。


「そう、私たちの力は呪いがベースです。呪いとは想いに結果を与える事。善き効果であればまじないと呼び、悪しき効果ならばのろいと呼ぶ。総じて呪術と称され、人の願いを根源にした力です」


 斬撃が飛んで分裂する技も、相手の意識を掻い潜って肉薄する技も、音を置き去りにする抜刀術も、魔法効果を斬り裂いて無効化する技も、何もかもが『斬りたい』と願われた想いがベースになっている。


 心・技・体、それらは全て揃って初めて力を持つという。ならば、心は体と技に並ぶほどの力があって然るべき。そして実際に心を力に変えたのが武国の技。


「…………だからか。存在が呪いである魔族を相手に振り回すにゃ、ちょっとばっか頼りない武器なんだな」


 だがそれも、人を相手に振り回す場合に限る。


「はい。海に水を叩き付けても意味が無いように、呪術がベースである武国の技を魔族に使っても大した効果が望めません」


 口頭で言えば済むことを、どうしてわざわざ面倒な手順を踏んだのか。それも今なら分かった。


 プリムラは全力でノノンと殴りあった。その過程で、相手の技を嫌という程に浴びた。


 それら全てがノノンによると、魔族うみにとって水でしかないらしい。実践を経たプリムラは、改めて魔族がどれ程の存在かを理解せざるを得ない。


「そもそも、武国という縛りではなく『私達』という縛りでしたら、呪いが通用するとしても恐らくは戦えません」


「あん?」


「私達が地球の知識を持ってる理由を聞きたがってましたよね? それもここに繋がります」


 息を整え、ボロボロの衣装を軽く整えたノノンが二刀を納刀しながらプリムラに近寄る。


「結論から言いますと、広義的に言うと私達ビーストバックはです」


「……………………あぁ?」


「もちろんアレらの仲間ではありませんよ? 異界から迷い込んだ、という意味で『広義的』にはと口にしました。…………少し長く、語りましょうか」


 夕暮れに照らされながらノノンが語るのは、にわかには信じられない物語。


「まず、私達は魔王の存在に巻き込まれて発生してしまったイミテーションなんですよ。元々はこの世界とは別の場所で生きてるオリジナルのコピー品。クローン。呼び方はなんでもいいんですけど…………」


「クローン、だと?」


「私達のオリジナルも、呪いをとても得意とする人間なのですが、とある世界の境界を超えるときに、多分ですけどコチラの世界に出て来た魔王とタイミングがモロかぶりしたのか、共鳴したのかなんなのか…………」


 要するに、魔王がこの世界に来るタイミングと、オリジナルノノンがどこかの世界から世界へと渡る瞬間が奇跡的に被って呪い同士が共鳴するミラクルが起きたと説明を受けたプリムラ。当然ちんぷんかんぷんだ。


「というか、俺が元地球人なのもバレてんのな」


「樹龍ククノチとか、日本神話ネタを使っといて今更ですね?」


「それもそうか」


「ちなみに、プリムラさんの居た日本って完全没入型のVRゲームって存在しました?」


「は? いや、そんなオーバーテクノロジーある訳…………」


「でしたら、私の記憶にある地球とプリムラさんの記憶にある地球は別物ですね」


 更にパラレルワールド説も食らったプリムラは大分酷い混乱の中に居る。


「ちなみに、なぜ自分の方がクローンだと?」


「簡単です。私達にはオリジナルの様子がリアルタイムで何となく分かるんですよ。理由は分かりませんが、多分何かしらの呪術的な繋がりがあるんでしょう。あと、私達がオリジナルと違ってフルメンバーじゃ無いから、ですかね?」


 オリジナルの方には、もっと沢山の知り合いが居るのだそうだ。


「まぁ、私達の事情は置いときましょう。要は、私達の発生は魔王のそれと密接な関係があるので、もし自分達で魔王を倒してしまうと自分達の存在に何かしらの不具合が出るかもしれないのです」


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