書籍発売記念SS・最強と最強8
翌日、早朝。
「さて、準備はよろしいですか?」
「ああ、いつでも良いぞ」
城の中庭にある闘技場に二人は居た。
剥き出しの地面は良く均され踏み固められており、ただ何も無くシンプルに広い空間がそこにある。
闘技場の外周には適当に敷物が並べられて居て、医療班や観客がそこに座る。
片や旅装束に木刀を持ったプリムラ。片や和装風のドレスに刀を差したノノン。二人の準備はそれだけで良かった。
観客は居るが、審判は居ない。勝敗など互いの心が判断すれば良いと二人ともが思っている。
一晩もてなされたお陰で距離感も絶妙で、これから半ば殺し合いにも近い戦いをすると言うのに気負いは無い。
観客席から頑張れーと声を張るのは、ずらりと並んだノノンの嫁と、見知らぬ妙齢の男女。ちらりと伺ったプリムラは、似通った顔立ちからノノンの両親だと気付いたが特に何も言わなかった。
触媒の種を袖から地面に落とし、闘技場に根を張らせる。それと同時に左腕のベースから樹法を展開してパワードスーツを作るのも忘れない。
「
仕込みに動くプリムラに向かって仕掛けるノノン。音すら置き去りにする抜刀によって生まれたのは一瞬の静寂と、その後に轟く落雷のような大気の悲鳴。
下手すればこの一手で決着すら有り得た、超広範囲を切り裂く神速の抜刀術がプリムラを襲う。
「ッ!? 狭域展開────」
プリムラは即座に避ける事と防ぐ事を諦めた。概念魔法を狭域展開して横一文字に切断された胴体を無理やり繋げる。
「お返しだ、浴びせろ
地面に仕込んだ根から天に向かって、フィールドいっぱいに針を生やして逃げ場の無い範囲攻撃。
跳べば逃げれるが、ノノンは跳ばなかった。この針がどこまで伸びるかも分からない以上、真上への回避はただ問題を先送りにするだけで、尚且つ地面から足が離れる不利は今更語るまでも無い。
「至刀理断」
だから足元から迫り来る槍を術理ごと断ち切る選択をした。
「それはもう見た」
だがプリムラも一度見たその技を警戒しない訳が無い。ノノンが足元を斬り付ける為に使った一瞬で、プリムラはノノンに当たらずに地面から伸びきった槍から新しく真横に向かって槍を伸ばして串刺しにする。
「ちっ、護刀制空陣……!」
足元の処理を優先した為に一瞬遅れ、腹に数本の槍が刺されてしまった。だがノノンも直ぐに対応して槍を全て斬り裂いた。ここまででお互いに痛み分けといったところか。
互いに心臓と頭は狙わないと約束したが、つまりそれ以外の攻撃でなら殺しても良いと言う事。だからノノンは胸から下を真っ二つにしたし、プリムラも容赦なく約束以外の場所を串刺しにする。
「…………腹に穴空いたんだから、もちょっとそれらしい反応をしても良いんだぞ?」
「胴体を真っ二つにされてケロッとしてる人が言っても説得力が無いですよ?」
互いに全力の様子見。その一撃で決着しても良いと思うくらいには力を入れた攻撃。そして様子見が終わったなら、本番が始まる。
「潰れろ…………!」
「逃がしませんよっ」
闘技場に生える剣山の様な木々をプリムラが操り、もっと太い幹が集う森に変える。そして木々が絡み合い、引っ張り合い、極太のジャングルジムのような様相になっていく。
その木々を隙間を縫うように、襲い来る大自然を捌きながらプリムラに狭ろうと走り抜ける黒猫、ノノンも尋常じゃない。外で見ているシルルもプリムラの本気を目の当たりにして驚いている。それでも簡単に負けるとは思ってないが、相手が全力を出せてなかったという話には納得した。
「樹龍ククノチ!」
「二刀流、
大樹のジャングルジムを駆け巡りながら、東洋龍型の樹木を
二人はある意味で対極だった。個人の強さを突き詰めたノノンと、環境を操って敵を殺すプリムラ。およそ人が目指す二極が互いの技をぶつけ合い続けている。
「分かりますか?」
「何も、分からん……!」
そも、二人は勝敗を争ってる訳では無い。勝てるに越したことはないが、そもそも武国が魔王討伐に参加しない理由を知るための戦いである。
漆黒の刀で斬り掛かるノノンの問い掛けに対し、大樹に枝をフルスイングさせながら答えるプリムラ。
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