書籍発売記念SS・最強と最強6



「ひとまず、案内はこんな所でしょうか」


「なかなか広かったな。国王自らの案内ってのは恐縮だが」


 欠片も恐縮してないプリムラが何か言った。ノノンも社交辞令リップサービスなのはわかってるのか、苦笑するだけで言及はしない。


「今更だが、仕事とかは良いのか?」


「多少はありますけど、私って武力特化の王様なので書類仕事は大して出来ないんですよね。なので部下に任せてます」


 謙虚さも兼ね備えてるノノンがそう言うと、プリムラはそれが冗句の類なのかガチなのか判断出来なかった。ノノンであれば書類仕事もそつなくこなしそうではあるし、本当に誰かへ丸投げしてても不思議じゃない。


「さて、決闘騒ぎもあってお疲れでしょう? お食事などどうですか?」


「お、国一番って噂の手料理でも振舞ってくれるのかい?」


「お望みであれば」


 黒い猫耳をピコピコ動かす少女が優しげな流し目で振り返った。


 どちらにせよ食事だと連れて行かれたのは食堂。王族ならば専用の場所があるのかと思いきや、案内された場所は兵士や職員が利用するだろう大衆食堂だった。


 はて、自分が平民だからここに通されたのかと考えたプリムラだったが、書けば王族もここで食べているのだとか。と言うか大衆用の食堂でも、料理をするのが国王なのだ。誰が社員食堂の料理人が社長だと思うのか。


 食堂では他の王族を呼んで来たらしいシルルと、呼ばれたらしい少女達が勢ぞろいしていた。


 驚くことに全員が女性であり、なんなら幼女だった。武王が女性でその伴侶が女性であったこともあり、プリムラは目の前の人物達がどんな肩書きを持つのか予想出来ずにいる。


(娘か? 嫁か? それとも親戚?)


「あ、紹介しますね。私のお嫁さん達です」


(嫁だったわ)


 一人一人をにこにこと紹介してくれるノノンに、年齢的にロリコンと言って良いのか迷うプリムラ。とりあえず百合である事だけは確定していた。


「俺はプリムラ・フラワーロード。そこのシルルって奴に難癖付けられてた所を武王に仲裁されてここに居る」


 プリムラが簡単に自己紹介すれば、バツの悪そうな顔をしたシルルがうぐぅと唸った。


「ご紹介に預かりました、タユナ・フリーデンス・ビーストバックですぅ」


「アルペ・キノックス・ビーストバックだよ〜」


「クルリ・キノックス・ビーストバックなの〜」


恋濡こいぬ・ビーストバックです」


恋無離こいなり〜!」


恋舐魔こいなばだよ! よろしくね! あとウチの莫迦ばかウサギ一号がごめんね!」


「あたし莫迦ウサギじゃないもん! この莫迦ウサギ二号!」


「なにをー!?」


「…………………………夜刀神やとのかみ


 最初に名乗ったタユナと最後に名乗った夜刀神やとのかみ以外は、全員が柔牙族で、つまり幼女だ。柔牙族は大きくならない種族なので、ここまで揃うと見た目の平均年齢が極限まで下がる。


 アルペとクルリ、そして恋無離こいなりと名乗った柔牙族は普通の柔牙族に見えるが、恋舐魔こいなばと名乗った白い柔牙族はシルルと同じくウサギ系の変種。そして恋濡こいぬと名乗った銀髪幼女は、パッと見は普通の柔牙族に見えるがよく見ると犬っぽくも見える。


 そして最後に、夜刀神やとのかみと名乗った黒髪の子はなんの種族か分からなかった。姿は黒髪でノノンに似ているのだが、黒い二本の角と竜の様な尻尾が生えている。


 これで耳がエルフのように尖って長く、体の節々に鱗が見えてたら皇鱗おうりん族なのだが、夜刀神やとのかみは角と尻尾以外は普通の幼女である。


(これも柔牙族の変種なのか……?)


 この世界には獣人種と呼ばれる種族は三種類しか居ない。ご存知合法ロリとショタである柔牙族。ゴリラとライオンがハーフアンドハーフなケモ度八割の剛羅ごうら族。そして竜とエルフの要素を持った皇鱗族だ。


「あのねあのね、ごはんなのー!」


「いっぱいあるよ〜!」


 夜刀神やとのかみについて悩んでいたら、アルペとクルリと名乗った双子の柔牙族が足元に来て裾を引っ張る。


 しかし、ご飯がいっぱいと言われても食堂のテーブルには何も無い。空気でも食えと言うのだろうかとプリムラが思案してると、ノノンが苦笑しながら答えを口にする。


「ごめんなさい。この子達は少し気が早いみたいで、下拵えは沢山してあるんですけど料理は今からです。すぐに終わらせるので、少し待ってて頂けますか?」


 キッチンに消えていくノノンを見送ったプリムラは、こっちこっちと裾を引く双子に連れられて席に座る。


「あのね、あのね、迷惑かけてごめんなさいってするよ〜」


「ごめんなさいなの〜」


「いや、君たちが悪い訳じゃないから気にしなくて良いぞ。案内してくれてありがとな」


 無邪気な双子に礼を伝えれば、二人は「えへへ〜」と嬉しそうに照れ笑いする。王族と関わると聞けばもっと仰々しい物を想像するが、この国の王族は親戚を迎えるが如く客を遇するのだとプリムラは理解した。


 そも、この国は変則的とは言え鎖国してるので、これで問題も無いのだろう。


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