書籍発売記念SS・最強と最強5
「とは言え、ここだと見物が多すぎますね。おもてなしもしたいので、お城までどうですか? お食事もお風呂もご用意させて頂きますよ」
「行く」
食事と風呂。プリムラは惹かれた。国の中枢で振る舞われるそれらのレベルを考えれば、少し楽しみですらある。訳の分からない難癖から始まった決闘騒ぎのこともあり、プリムラは必要以上に楽しませて貰おうと考えた。
決闘の賞品だった味噌もしっかり手に入れ、なんなら代金はノノンが支払ってくれたので無料で、国を出るまで保管は城でしてくれるオマケ付き。
ノノン本人にも多少は思うところがあるプリムラだが、しかしここまでしっかりと詫びを入れられ、それを受け取ってるのなら怒るのも違うと考えて納得する。
全部関係ねぇと暴れるつもりなら、最初から受け入れなければ良い。詫びとはそういう物なので、受けたなら飲み込むのが礼儀である。
「あと、先にお伝えします。私との戦いに於いて、私を殺しても罪にはなりません」
「…………流石にそれは無いだろ。特にそこのウサ耳とか根に持つだろ」
「そこは大丈夫です。私が死ぬと家族も全員一緒に死ぬ仕掛けなので」
何やらとんでも無いことを言い始めたノノンにドン引きするプリムラ。
「だからこそ負けないんですけどね。ですが、流石にお互いが完全に殺すつもりで戦うと多少は問題が起きるでしょうし、頭と心臓は狙わないって事でどうです?」
泣きじゃくるシルルを連れたノノンに案内されながら城に向かう道すがら、二人の決闘はそのようにルールが決まった。これにはプリムラも納得した。
そう、こうやって最初からどの程度の手出をするか決めておけば良かったのだ。シルルはそれを怠り、ノノンは怠らなかった。
頭と心臓は狙わない。だがお互いに殺す気で戦う。そう最初に決めておけば、どの程度の戦いになるかは自ずと調整出来るのだから。
「ところで、俺とウサ耳の決闘はいつから見てたんだ?」
「あ、別に介入する時を選んだ訳じゃ無いですよ? 旅人さんの事情等を聞いて回ってたらギリギリになってしまっただけです。仮に、最初から見てて良いところで介入なんてやり方をするなら、あなた様の攻撃を手で止めるなんて無粋はしません。この首で受け止めたでしょう」
それがせめてもの礼儀だとノノンは口にした。
「…………なんか、あんたはあんたでちょっと色々おかしいな。それと、名乗って無くて悪い。俺の名はプリムラ・フラワーロードだ。あんたらみたいなカッコイイ口上は無いから勘弁してくれ」
途中、ノノンがずっと自分を旅人と言うのが気になったプリムラは、名乗って無いことを思い出してそれを伝えた。事情を聞いて回ったなら名前も知ってるはずだが、シルルに紹介もされず、自分も名乗って無い状況で口にするのは場合によって失礼に当たる事もある。貴族の礼儀とはかくも面倒なのだ。
「ご丁寧にありがとうございます。ちょっと国の問題で、名前を伝えて貰ってからじゃないと口に出来ないんです。これは私達が使う武術の骨子にも関わる問題なので」
「ふむ…………?」
貴族の礼儀が問題だと思ってたプリムラだが、よく分からない事を言われて考える。
「そも、私は礼儀とかにはうるさい方ですけど、貴族然としたそれらは好きじゃないんです。無意味に回りくどく、とても意味が薄いので私が戴冠した時に殆ど廃止しました」
「……豪快な王様だなオイ」
「残ってる礼儀等は、祖先に感謝したりする物くらいですね」
そこも日本式に近いのかとプリムラは理解した。日本は外国の貴族然とした礼儀作法を好まない傾向にあるが、墓参りなど祖先や故人に対する礼儀には殊更面倒なマナーが多数存在する。
特に葬式などは、やれ香典にピン札は失礼だとか、万札は失礼だとか、本当に面倒である。普通に考えて人が亡くなって物入りの状況なら万札が一番助かるはずだし、くしゃくしゃのお札より綺麗なお札の方が使い易いのは確定的に明らかなのに。
「武とは積み重ねる物ですから、先人には敬意を払いませんと」
良くも悪くも武が国の中心なのだとプリムラは何となく理解した。
そんなこんな、ノノンの案内で城に到着した。そこはやはり、日本風の城だった。良く見れば所々に日本とは違う意匠や技法が見られるのだろうが、素人のプリムラから見ると十分に日本風だった。
「じゃあルルちゃん、タユちゃん達に事情を説明してきてくれる? 私はこのままプリムラさんを案内するから」
「う、うゅ。タユ先生に言っとくね。…………えと、プリムラくんも、ごめんね?」
「いや、もう良いよ。味噌も手に入ったし」
しゃくりあげながら泣くシルルが完全に幼子のそれだった事もあり、プリムラは本当にもういいやと思っていた。流石にギャン泣きする幼子を前にしてうるせぇ死ねと言えるほどのメンタルはまだ無い。それは裏切られた後に手に入れる物だ。
それに、本来ならあの決闘で勝っても味噌と、あとノノンの手料理しか手に入らない予定だったが、今では滞在中のサポートが盛り盛り手に入った。それを思えば、まぁ多少は許せるかと言う気になっている。なにより城に滞在して良いと言うのがプリムラ的にはとても良い。
城の中で誰かに難癖付けられた場合は容赦なくぶっ飛ばして良いとノノンからのお墨付きも貰っているので、城に泊まるが故の面倒事なども織り込んでも利が勝るだろう。
「俺とあんたの戦いはいつになるんだ?」
「プリムラさんが決めて良いですよ。国を出る直前でもいいですし、今すぐでも大丈夫です。あくまで、私達ビーストバックの精鋭が魔王討伐に何故名乗り出ないか、その理由を知ってもらう為の戦いですからね。急ぐ理由はありません」
それもそうかとプリムラは頷いた。強いて言うならプリムラの為の戦いなので、自分の都合で良いのだと。
そも、体感して自分で気付くと言う手間が面倒だと言えばノノンは口頭で理由を教えてくれるのだろう。そうならないのは、ノノンがプリムラに対してそうした方が良いと考えてるからであり、そして同時にプリムラもノノンと戦ってみたいと思っているからだ。プリムラは転生してから既にバトルジャンキーを発症してるが故に。
「色々聞いても良いか?」
「もちろんです。望まれるのでしたら、私の
「それは要らんけど」
城の内部を案内されながら、プリムラは気になった事を聞いた。それは城の事だったりもしたが、ノノン達の事も同じくらい聞いた。
「シルルも口にしてたが、あんた達が言う到達者とかってなんだ? あとせいぎんとそう? としざんけつが? ってのも」
「到達者とは、とある
絶招とはつまり、現代風に言うのなら
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