書籍発売記念SS・最強と最強3



冬桜華撃流とうおうかげきりゅう倶利伽羅金木犀くりからきんもくせい


「クソがよぉッ……!」


 気が付くと、意識の間隙を縫うような歩法でシルルが接近していた。順当に考えるならこれも霊法によるバフで加速してると見るべきだが、プリムラはやはりシルルの行動に違和感を感じる。


 ハルニレをギリギリで振り上げて頸椎に迫る刃を弾きながら、扇法で花粉を集めてシルルへとぶつける。

 

「火よ、炎よ、迫る悪意を焼き尽くせ!」


「ここに来て普通の魔法だと!?」


 花粉を浴びせようとしても魔法で防がれる。発動の仕方や術式に違和感を感じるものの、魔法なんて物の形は指紋と一緒で個人差があって当たり前。だからその違和感をプリムラは思考から外す。


 シルルから吹き出した炎が空気中の花粉に引火して粉塵爆発一歩手前と言えるほどの大炎上を見せるが、それも可燃物が燃え尽きるまでの一瞬だった。しかしその炎に紛れて舞い踊るシルルは、プリムラの強さを感じて時間は自分に利を運ばない事を知って決め技の準備を終わらせた。


 プリムラが行ってるのは徹底した観察。今はまだ初見殺しを重ねているが、時間が経てば自分の有利も減っていく。そう考えたシルルが繰り出すのは最も得意とする流派の、最上の技。


 本来、流派とは一つを納めれば満点だ。そもそも他流派を学ぶのは不義理とさえ言える。しかし武国では強くなる事こそが至高。なればあらゆる流派を飲み込んで頂点に立つことが正義。


 そんな国でも、やはり自分に最も合っている流派とは相応の練度と結果を出す。だからこそシルルも、自分の攻撃を次々と防いでいくプリムラに様子見などせず一気に決める事を選んだ。


「冬桜華撃流、銀桜吹雪九重神楽ぎんおうふぶきここのえかぐら


 頭おかしい。プリムラはまずそう思った。というよりそう感じた。


 戦いの合間に舞うシルル。そして舞いに合わせて刀が振られる度に、桜色の燐光が辺りに舞い散る。それら全てが攻撃的な存在感を発している事を考えれば、あの夥しい燐光が自分を襲って来る事など誰でも分かる。


(なんだこのクソ攻撃!?)


「散れ」


 眠たそうな顔に反して天真爛漫だった様子からは想像も出来ない程に鋭利な視線でそう呟いたシルルに従い、逃げ場など欠片も無い桜吹雪がプリムラに迫り来る。


 食らったら死ぬ。模擬戦じゃなかったのかよと思いながらも気合いを入れたプリムラは気炎を吐きながらパワードスーツに魔力を流し込む。


「耐え切ってやんよぉ!」


 パワードスーツが鎧に、そして大樹へと姿を変えながら厚みを増してく。迫る桜吹雪に削られた場所から即座に再生して拮抗を作り出す。


 プリムラが選んだのは根比べ。さすがにこの規模の攻撃を永続出来るとは思えない。ならば単純に耐え切れば良いとパワードスーツを隙間のない鎧にしてはたから再生するようにしたのだ。


 十秒か、一分か、一時間か、その攻撃を凌ぐ事に夢中で時間の感覚などとうに無い。


 なんで味噌を欲しただけでこんな目に遭わなきゃいけないのか。プリムラは段々とイライラして来た。模擬戦だと、試合だと言うから付き合ったのに、殺し合いで良かったのなら自分だってもっと他に戦い方はあった。


 プリムラはイライラしてる。かなりイライラしてる。その結果、考えを変えた。目標を変えた。


 勝つ。ではなく、殺す。


 意識を変える。相手がそのつもりなら自分だって許されるはずだ。


 防御に割いてる意識を一割ほど使い、闘技場に張り巡らせた木の根から人殺しの蓮キラーロータスを三体ほど作り出してシルルの背後から襲わせる。


「────えっ? あっ、しまっ」


 キラーロータスが容易く屠られた感覚を受けたが、しかし攻勢は確実に緩んだ。


「……………………好き勝手してくれやがってボケがぁぁぁあ!」


「えっ!? ちょ────」


 パワードスーツを外側に向かって爆破させるようにパージして疾走。最後のキラーロータスを斬り殺したシルル目掛けて吶喊とっかんする。そしてパージされたパワードスーツの木片も槍へと姿を変えてシルルへ迫る。


「死────」


 斬り殺されたキラーロータスの下から、追加で一体を召喚しながらの肉薄。シルルはキラーロータスとプリムラ、そして樹槍のどちらへ対応すべきかを一瞬迷い、その一瞬で全てが間に合わなくなる。


(─────────あ。これ死)


 首筋に迫るハルニレと背後から迫る蓮。そのどちらにも対応出来なくなったシルルも死を覚悟し、プリムラが「死」の後に「ね」を言い切ろうとする刹那。


「はい、そこまでだよ」


 突然、二人の間に一瞬で割り込んだ人影がハルニレの刃を片手で摘みつつ、またもや術理の分からない何かで迫り来るキラーロータスと樹槍を叩き潰した。


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