書籍発売記念SS・最強と最強2



 プリムラは構えたハルニレをくるっと回して順手から逆手に持ち変え、そのまま地面に突き刺した。


「登れ龍華樹りゅうげじゅ!」


「むっ!?」


 局地的な地震と共に、身体が樹木で出来ている東洋龍が地面から吹き出してシルルを食い殺さんとする。


「──千刃無刀、攻刀領奪陣こうとうりょうだつじん


 しかしシルルは攻撃が足元から来るなら、術者のプリムラ本人までの射線はガラ空きで遮る物が無いことを瞬時に理解し、二刀を振るって踏み込んだ。


「ッッ!? なんだこの技っ────!?」


 シルルが繰り出す技の原理が分からない。なぜそんな結果が生まれるのか理解が出来ない。


 何故か、シルルが刀を振った空間に対してプリムラは魔法を侵入させられなくなった。正確には、侵入させ難くなった。


 ベースやハルニレから枝を伸ばしてシルルの妨害を試みれば、シルルの刀が通り過ぎた空間を通る時だけ粘土の様な感触で枝が止まる。


「……空間を、縛られッ!? しまっ────」


 マズいと認識した瞬間にはもう遅い。シルルはプリムラを中心にして舞い踊る。それは刀を魅せる演舞の様で、観客は気楽にも感嘆の声を上げるがプリムラからすると冗談じゃ無かった。


「やっべぇ……! だが今ならまだ!」


「あっ!? 気付くの早いよー!」


 プリムラは周囲を謎の妨害空間で囲まれ、使用してる武具が魔法で作ってあるプリムラは実質その空間を通過出来ない。だがシルルはまだプリムラの周囲を舞い踊っただけなので、真上の空間は無事。


 パワードスーツを纏ったプリムラが飛び上がる。そして同時に最初の攻撃で生やしてた龍華樹からも太い枝を伸ばしてそれを足場にした。


「もう、素直にやられてよ! 冬桜華撃流、八重桜!」


「断るに決まってんだろ、逆茂木さかもぎ落としっ……!」


「むぅ!? 黒猫流、恋濡こいぬ!」


 シルルの剣閃が八つに枝分かれして飛翔し、プリムラの命令で足場の枝が無数の槍になってシルル目掛けて発射される。八つの斬撃を潰した木の槍が更にシルルへと殺到するが、それも新たに放たれた無数の斬撃で処理される。


 その戦闘は、傍から見ると互角に見えた。


(術理が分からん! なんだあれ、刃法っぽいけど刃法じゃねぇぞ!)


(わぁすごぉーい! 手足のように魔法を操る人だね! あたしも負けてらんない!)


 しかし、分かり易く魔法を使うプリムラと術理が不明な技を使うシルルではメンタル面での戦いに差が着いていた。端的に言えば、相手の手の内が分からないプリムラはシルルの技に後手でしか対応出来ないのだ。


「届け、瘡撲林そうぼくりん!」


「なにそれ!? 千刃無刀流口伝、護刀制空陣ごとうせいくうじん!」


 技の根幹が把握出来て無い以上、プリムラは不用意にシルルへ接近できない。技の到達時間がそのまま対応に費やせる時間でもあるので、接近して初見の技を食らう訳にはいかないからだ。プリムラはそれほどまでに味噌が欲しい。


 枝の上に居座ったまま発動した枝の槍は最初から傷だらけで、シルルの周囲を檻のように囲む。そして傷口から刃法由来の斬撃が雨のようにシルルを襲うが、それも術理の分からない技にて対応される。


 一定の距離に近付いた斬撃が尽く二刀によって叩き落とされるのだ。


(飛ばしたり分裂する斬撃は刃法に似てる。けど今のはなんだ? 単純に霊法で自己強化して叩き落としたのか? にしては剣閃その物に存在感があり過ぎる……)


 技もルーチンも一切が不明なボスに初見で挑むが如くプリムラは観察を続けるが、あと一歩、考察に何かが足りない感覚にやきもきする。


 対するシルルもまさか自分の知り合い以外にこんなにも使手練が居るとは思わず、楽しそうにその技術を発揮し続けた。


「この檻、邪魔ぁ! 絶招銀世界!」


「んなぁっ!?」


 シルルが発気と共に宣言した技名と繰り出した銀色の剣閃は、百にも千にも至って世界を塗り潰すが如く斬り裂いた。その内の何割かがプリムラをも襲っており、足場にしていた龍華樹とその枝さえも細切れにした。


 ギリギリで回避したプリムラは地面へと着しつつも、やはり接近は危険だと判断して戦法を切り替える。


「悪いが使わせてもらうぜ? 咲き誇れ殺金鳳花そきんぽうげ…………!」


 細切れにされた龍華樹の根を使って闘技場を紫色の花畑にするプリムラ。金鳳花きんぽうげ、つまりトリカブトが含まれる毒草の仲間である。金鳳花と言われて即トリカブトを意味する言葉にはならないが、プリムラはカッコイイからとその名前を使っている。


 トリカブトは本来、アルカロイド系の猛毒を有するキンポウゲ科トリカブト属の多年植物であり、もっとも毒性が強いのは根っこ。


 しかし葉や茎を素手で触っても被毒する程度には有害な植物であり、何よりトリカブトが有するアルカロイド系の猛毒アコニチンは皮膚からも簡単に吸収される性質を持つ。


 プリムラはそれを樹法で弄り回し、花粉にも強く毒性を持つように変化させた物がこの殺金鳳花そきんぽうげだ。要するに花粉を浴びるとアコニチンを皮膚から吸収して被毒するのだ。


「植物使いがお花を咲かせたら毒だって相場が決まってるよね! 至刀理断しとうりだん!」


「ッッッ!? んなバカな事あるかよっ!?」


 だがシルルが刀を一閃し、自身の周囲に咲く花を一気に刈り取るとプリムラの顔色が変化した。本来なら刈り取られてもその衝撃で花粉が舞い散るので問題は無いのだが、シルルが使った技によってプリムラの魔法が無効化された感覚が返ってきたのだ。


 正確には、その技によって花とプリムラの繋がりを切断され、感覚が返ってきた。


(マジでなんなのアイツ!? 斬るだけで魔法を無効化なんてふざけ過ぎだろうが! そんな魔法知らねぇよ! もうお前が魔王討伐に行けよクソッタレ!)


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