二系統持ち。



「ほーん、型法と泓法か。二系統持ちダブルとかやるじゃん」


「……………………?」


 獣車に戻り、食事と衣服をリピルに与えた一行はすぐにギルドへ向かった。


 系統判定はダンジョン産のアイテムでも簡単に出来るが、それ以前から使われてる方法もあって平民でも気軽に利用できる。


 今では専ら勇者教で行うが、各種ギルドや行政機関でも調べてもらう事は可能だ。エルムは勇者教が大嫌いだしそのうち潰そうと思ってるので、今回は傭兵ギルドに来ていた。


 系統判定の方法は、系統ごとに決まった調合の薬品を準備し、その薬液に血液を一滴ずつ落とすだけ。その薬品の準備が微妙に大変なので、規模の小さい村などでは難しく、結果として一度は都会に来る必要がある。


 傭兵ギルドはダンジョン産アイテムでは無く昔ながらの方法で行ってるらしく、リピルの血液を燐法、泓法、扇法、型法、仌法、霆法、刃法、霊法、樹法の九個に別れた試験管に一滴ずつ血液を落とし、そして反応があったのは泓法と型法だった。


 つまりリピルは水と土の魔法と相性が良い二系統持ちダブルだと言うこと。


「…………なん?」


「今は分かんなくて良い。後でしっかり教えてやる」


「……ん」


 系統がなんなのか、魔法の魔の字も知らないリピルは終始首を傾げているが、そんな白いケモ耳の頭をエルムは優しく撫でた。やはり柔牙族贔屓かもしれない。


 リピルは未だに警戒心を残しているが、タマとポチがひたすらリピルをいい子いい子と撫でるので多少マシになってる。


 本来なら、自分を迫害し続けただろう同族こそが警戒の対象なのだろうが、リピルは魔法の存在すら教えられなかった程に外部との接触も無かったのだろう。双子に対して特に強い隔意などは見られなかった。


「かわい……」


「ん、いもーと」


「なん、おまっ……」


 ほにゃほにゃの顔でなでなでを続ける双子に、リピルはたじたじだった。そして地味に構ってくれてた双子をリピルに取られたヌコが寂しそうである。


「さて、これからどうする?」


 時間的にも昼過ぎ。観光すべき市場も見て回って買い物も済んだ。ぶっちゃけるとエルム達のやるべき事がもう何も無い状態だ。


「え、この流れだとリピルちゃんとヌコちゃんに魔法を教えるんじゃ?」


「えーと、僕は村に滞在中のカエル肉に変わる食事を探すべきだと思うよ」


 殆ど空気のようになってた同行者に聞くエルムは、流れってなんだよと思いつつも答える。


「ポシェット、魔法の魔の字も知らなかった奴に簡単な座学から教えたら一日じゃ終わらんだろ? だから最低でも村についてカエル狩りが始まったらだ。俺達がカエルを始末してる間に練習させたら丁度良いだろ? あとクラヴィス、カエル肉は絶対食わせるから」


「なんで!? どうしてそんなにカエル肉にこだわるの!?」


 カエル肉が嫌過ぎてキャラ崩壊を起こすクラヴィスを放置して、エルムはアルテにも一応聞く。


「アルテは? なんか希望はあるか?」


「ぇ、えと、リピルちゃんみたいな子を、他にも助けられないかな……?」


「はい出たサイコパス花畑〜! もう良いよお前、そう言うの飽きたぁ」


 予想の斜め上と言うか、むしろ予想通りとすら言える答えが返って来てエルムは辟易とした。


「別にお前がお前の権限に於いて保護してくるってぇなら別に良いよ? でもどうせ、俺に押し付ける気なんだろ?」


「やっ、ちが…………」


「もう本当いいよもうお前さぁ」


 事ここに至って、流石にクラヴィスやポシェットもアルテを白い目で見ざるを得ない。


 確かにリピルやヌコのようなストリートチルドレンを叶う限り助けたいと言う願いは立派だが、アルテ自身はなんの力も持たないただの女児である。家に力があると言っても、親に孤児の保護など申し出ても秒で却下されるだろう。


 ならば、エルムの言う通りに押し付けるしか選択肢は無く、そしてエルムにはそんな義理が少しもない。


「アルテ様ぁ〜? 流石にそれは無いと思う。ダーリンは自分で稼いだお金で、助けたい人を助けてるだけだもん。アルテ様が同じことしたいって言うなら、自分のお金でするべきじゃないですか〜?」


「まぁ、そうだよね。言うて僕ら、自分の自由に出来るお金は沢山あるけどさ? でも孤児を保護するって簡単な話じゃないよ」


 エルムは最終的に孤児院へと預けるが、それだって預けた孤児院の財政に責任が持てないならするべきじゃない。


 孤児院にだってキャパシティがあるのだから、外部から余計な物を押し付けるならば孤児院に対して相応の金銭を渡すべきだ。


 エルムが簡単に言ってるのは、既にもう有り余る食料を押し付けてるから言えるのであって、その権限にアルテは一切関係が無い。


「でも、だって……」


 しかしサイコパス花畑はめげない。地獄への道は得てして善意で舗装されてるとまだ知り得ない少女は、たった一言だけ口にした。


「だって、可哀想────」


「違うッッッ!」


 ギルドに響き渡る絶叫は、リピルの物だった。


「かわいそう、違う! 俺、可哀想、無い!」


 目尻に涙を溜めて、エルム特性のシャンプーとリンスでふわふわに仕上がった純白の毛並みを逆立て、食いしばった口から気炎を吐き出すリピルの叫び。


 その小さな魂に呼応するように、ギルドに居た傭兵達も冷たい目をアルテに向けていた。系統判定に立ち会ってすぐ側に居た受付嬢さえも。


 傭兵とは、その殆どが孤児の身の上。なので必然的に、心情はリピル側になる。


「…………アルテ、お前なんでそんな酷いこと言えるんだ? 蔑まれて売られて、逃げ出した先でも今日まで人を恨まずに生きて来た気高い孤児を捕まえて、…………可哀想? 引くわぁ、ドン引きするわぁ」


 そして日常的に酷い事を呼吸が如く口にするエルムが白々しく言った。どの口が言うのか誰か本人に聞いてみて欲しいところである。


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