先に味見。



 翌日、爽やかな目覚めと共になんとも言えない熱を感じ、エルムはその原因を頭からひっぺがした。


「…………ガキの体温、高すぎんだろ」


 元孤児ならば、独り寝にも慣れていよう。しかし双子が居るなら傍に居た方が良いと思い、エルムはヌコと双子をセットで扱った。


 そして双子はエルムと一緒に寝たい。つまりどうしても、エルムの寝床にヌコもお邪魔する形になる。その結果が顔面ホットヘルメットだ。


「はぁ、暑っつ。おいクラヴィス、起きろ」


 目が覚めたエルムは幼女から得た過剰な体温で発生した寝汗を何とかしようと全身を緩めるように服を脱ぎながら、床に転がってるクラヴィスを蹴飛ばして起こした。もちろん幼女三人にはノータッチである。


 馬車は二台あるので、片方がエルムとクラヴィス、もう片方がアルテとポシェットに別れて寝泊まりしていた。

 

 男女を纏めて寝かせるほど、エルムもデリカシーがゼロって訳じゃなかった。ただ極端に少ないだけなのだ。


「んん、蹴らないでくれよ……」


「なら起きろ。それとも水は自分で出すか?」


 エルムは服を脱ぎ捨て、泓法で生み出した水を浮かべて燐法で温め、簡易的なシャワーとして使って汗を流した。


 起きたクラヴィスも目をショボショボと擦りながらお零れに預かる。この旅団では女性よりもエルムと同じ性別であった方が優先される事が多い。


 そしてサっと着替えたエルムはキッチンに立ち、そのまま朝食作りを始める。


「クラヴィス、用意出来たなら女子達も起こして来い」


「んー、分かった……」


 まだ目がショボショボしてるクラヴィスは、寝ぼけながらも言われた通りに獣車から出て、女子組を起こしに行った。


 ◇


 朝食を食べ終わり、その後に幼女達の身支度も済ませたエルムは外に出る。子供は食事で服を汚すから、三人の身支度は食事の後にしてるエルムは、ヌコの服もその時に新しく作った。


「…………しゅごい」


「噂には聞いてたけど、本当に見事だね」


 真新しいワンピースに喜ぶヌコと、あっと言う間に服を一着仕立てた事に驚くクラヴィス。

 

 アルテは前回の課外授業で見ていたので驚かないが、ポシェットは明らかに金を産みそうな能力を目の当たりにして瞳をキラキラさせている。


「んじゃ、予定通りに観光で良いな?」


 本日のエルム達は、都市観光を予定としていた。


 場所によっては冒険者ギルドに行っても良かったのだが、ダンジョンが無い都市では冒険者よりも傭兵ギルドの方が大きい場合があり、この都市はその典型だった。なのでエルムも弱小ギルドに用事など無いので、ストレートに観光なのだ。


 エルムは地味に三ツ星冒険者なので、ダンジョンがある都市だったらもう少し予定が違っただろう。たとえ同じ観光だったとしても、冒険者ギルドで色々と都市の情報を聞いてから観光も出来ただろう。


 夕暮れで見た都市と早朝の都市は景色がまるで違っていて、活気に満ち溢れたその街並みはアルテやクラヴィスのテンションを否応にもあげてくれる。


 そもそもが商家の生まれであるポシェットや前世で旅に慣れてるエルムは特に感慨も無いのだが、貴族組の二人にとって市井の早朝とはあまり見る機会も無い景色だった。


「…………ん? なんだあれ」


「串焼き、みたいだね?」


「でも絵が、カエル……?」


 大通りを歩くエルムが見付けたのは、一つの屋台だった。看板には茶色い塗料でカエルのシルエットが描かれていて、その串焼き屋が何を売っているのか察せられる。


「蛙狩りをする村はここからそう遠くない場所だから、もしかしたらそこのカエルか?」


「あ、そうかもしれませんね!」


「となると、売り物になるくらいには食える味って事か。村でも良く食べるとは聞いてたけど」


「…………もしかして、食べる気かい?」


 興味深そうに見るエルムとは対照的に、嫌そうな顔をするクラヴィス。貴族的にはカエルなんて食べたくないのかも知れない。


「まぁ、現地でも捕まえて食べる気だしな。こう言う、その土地でしか食えない物ってのは良い経験になるぜ?」


「うぇえ……」


 本当に嫌そうな顔をするクラヴィスを見て、「よし現地で絶対に食わせてやろう」と決意するエルム。クラヴィスはそろそろエルム・プランターという人間を学習した方が良い。


「よし、ちょっと味見してみるか」


「ほ、本当に食べる気かい!?」


 朝食を食べたばかりではあるが、エルムはその屋台に寄って串焼きを一本購入した。見た目は塩コショウのみ使った焼き鳥のようだ。


「ふーん、単一の香辛料を振り掛けて焼いただけか?」


「んー、匂いからすると、使われてるのはサルムルだね。この国ではそんなに高くない香辛料だよ」


「知ってるわ」


 得意げに香辛料を当ててみせるポシェットと、料理人なので当然ながら知ってるエルム。そのまま串焼きを一口齧って見れば、ぷりぷりとした肉質だが少しパサついているカエル肉が、まぁ質の悪い鶏肉を使った焼き鳥のような味にしか思えなかった。


「…………んー、あんまり美味くないな」


「ほら、カエルなんか食べるから……」


「いや、カエル肉が悪いじゃないなコレ。単純にあの串焼き屋が下手なんだよ」


 食べ終わった串を木材としてベースに回収したエルムは、あっけらかんと言い切った。自分ならもっと美味く作れる自信があった故に。


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