テメェが邪魔だ死ね。
「おお、見えて来たぞ。目的地だ」
「いや嘘言わないでください」
旅を続けて数日。中間の目的地である都市が見えて来た。目的地は大き目とは言え村なので、この都市は目的地では無い。
クラヴィスに突っ込まれながらも気にせず馭者台でのんびりするエルム。
蛙狩りに向かう生徒が全員参加の大規模キャラバンが都市に辿り着く頃には、また時間が進んで日が暮れる頃だった。
「やっぱ大人数での移動は無駄に時間かかるな」
入場の列に並ぶ際、教師が馬車を回って指示を出す。
「街に入ったら自由行動だ。そのまま翌一日休み、明後日の朝に門前に集合とする」
なお、都市で宿が見付からずに野宿となったり、住民とトラブルになって兵士に捕まったり等々、様々な問題があるだろうが全て自己責任であるとも伝えられる。
都市を治める領主にも既に伝達はされていて、しかし何かあった時も法に照らし合わせてそのまま処理される。魔法学校の生徒だからなどと忖度は一切入らない。
「まぁ要するに、常識的な行動を心掛けろって事だな」
「………………」
教師に伝えられたその内容で、クラヴィスはエルムの横顔を見た。この数日、まだエルムに噛み付く元気がある一年生をボッコボコに凹ませて来た破壊王が常識的に行動してくれるだろうかと、心配になったのだ。
そしてその心配は、ほんの数十分後に杞憂じゃ無くなった。
大きな都市とはつまり栄えた都市であり、富が集まる場所にはまた影も色濃く存在する物だ。
やっと都市に入れたエルム達は、門のそばにある
エルムの馬車は基本的に生活に必要な物が大体揃っているし、料理は宮廷料理人並の腕を持つエルムが作ってくれる。なので宿なんてとる必要が無かったのだ。
早々に寝床を確保したエルム達は既に薄暗くなって来ている都市の街並みを観光すべく、大通りを歩き始める。
「にいちゃ」
「ん?」
ふと、タマがエルムの袖を引いて道の先を指差した。何があったのかとエルムが視線を向けると、そこにはみすぼらしい服を着た幼い子供が花を一輪握って、道行く人に声を掛けてた。
「おはな、かってくだしゃ…………」
それは物乞いだった。物を売る形を取ってるとは言え、普通の人間はスラムの子供が売る花なんて必要ない。それを買うと言うのは、ストレートに施しである。
頬もこけて骨が浮くような本物の孤児である。もはや手当り次第なのだろう、子供は誰彼構わずよろよろと近付き、声を掛ける。
「あの、お花…………」
そういった相手に喜んで手を差し伸べる人間は少なくない。だが、同じくらいに眉をひそめる人間だって居るわけで。
「汚ねぇなクソガキ! 邪魔だオラ!」
「あぅッ────」
恐らくは冒険者か、傭兵か、とにかく荒事を生業にする人物だったのだろう。声を掛けた子供に容赦無く足蹴をくれてやる類の人間だ。
それを見てクラヴィスも、ポシェットと、アルテも、全員が眉をひそめた。そして文句を言おうとそちらに足を進め────
「汚ぇのも邪魔なのもテメェだ死ね」
そう思った時にはもうエルムが冒険者を蹴り転がしていた。
目が覚めるような回し蹴りが綺麗に入り、冒険者の男は吹っ飛んで行った。
そしてタマが蹴られた子供に駆け寄って霊法を使う。栄養の足りてない子供の体はボロボロで、男に蹴られて骨が折れていた。
タマだけではまだ完治は難しい程の怪我だが、車まで戻ってヤキニクにも手伝ってもらえば治療は出来るだろう。タマは身体強化が得意なのだが治療は苦手なのだ。逆にヤキニクは尻尾をセルフで治してた事もあって治療系の霊法が得意だったりする。
見ていた三人は余りの早業に声を掛ける事すら出来なかった。エルムの行動は、暴力を振るい慣れてると見るべきか、人を助け慣れてると見るべきか、線引きが難しかった。正解はどちらもなのだが。
タマが子供を治してる間に、ポチは蹴り飛ばされた男の方に向かってテクテク歩いていき、うんうんと頷きながら男を引き摺ってエルムの元まで戻る。このポチがハマってる「僕は分かってるよ」ムーヴメントはいつまで続くのだろうか。
冒険者をまた連れて来て何をするつもりなのか。クラヴィス達は少し距離を保ったままエルムを見守ったが、すぐに後悔した。
なんとエルムは地面に転がる冒険者をまた蹴り始めたのだ。
「おらクズがよぉ! 花売ってるガキより臭ぇゴミの分際で調子乗ってんじゃねぇぞダボがッ! 生きてるだけで邪魔なんだよさっさと世界から片付けゴミが!」
体重を乗せた踏み潰し。勢いを付けたトーキック。とにかく脚で何度も男に暴行を加えるエルムの所業に、流石に班員が止めに入った。
「ちょちょちょちょダーリン!? なにしてるのぉ!?」
「やり過ぎだって捕まっちゃうよッ!」
「ダメだよエルムくん!」
「るせぇ離せ! せっかく気分良く黄昏時の観光楽しんでたのに胸糞悪いもん見せやがって! ぶっ殺してやる!」
どうにもエルムの怒り方が異常で、クラヴィス達は戸惑う。エルムは性格がクズ寄りの善性という意味不明なパラメータだが、それでもこんな行動をするほど荒々しくは無かったはずである。
「ちょ、本当にどうしたの!? お腹痛いの!?」
「とにかくちょ、逃げよう! 兵士が来たら捕まっちゃ──」
「はーいそこまでだボウズ共」
この都市の兵士は、とても勤勉だったらしい。
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