準備が要らない。



 そんなこんなで後日。


 カエル狩りに行く一年生エルム旅団のメンバーは六名。その内の三名は当然ながらエルムとポチとタマである。


 四人目はアルテミシア・レイブレイド。刃法の名家に生まれた樹法使い。


 五人目はクラヴィス・エンフラク。エルムに弟子入りしたハルニースの弟に当たる霆法使いで、姉の奇行が最近の悩みである。


 六人目はポシェット・ロルシェット。柔牙族でもなんでもない普通の人間にも関わらず、現在まだポチタマとほぼ変わらない身長の女の子である。要するにロリ。型法と泓法の二系統持ちダブルだと言う。


 改めて食堂にて集まった六人は、来週に迫っている課外授業に向けて打ち合わせをする為、まず自己紹介から始まった。


「よろしくね、だんなさまっ」


 現在まだ十二歳である一年生にロリっ子も何も無いのだろうが、それでもあえてロリっ子と評したくなるポシェットがエルムに抱きつく。その様子を見たアルテミシアはガタッと椅子から立ち上がるが、しかし何も言えずにまた座る。


 しかし何も言えないアルテとは違ってタマはNOと言える女だった。ポシェットを「じゃま」と言って引き剥がし、空いた空間に自分が収まる。


 ポチはその様子を見てうんうんと頷いている。最近のポチはこれがトレンドらしい。何がしたいのかは誰にも分からない。


 そんなポチの口に料理を運ぶのは、クラヴィスの姉であるハルニースだ。弟クラヴィスはその様子を目にして頭を抱えている。


 ここは男子寮の食堂なので、学年が違うハルニースも関係なく入ってこれるのだ。


「えと、あの、アレは気にせず始めようか……」


 引きつった顔のクラヴィスが宣言し、気を取り直して打ち合わせを始める。だがすぐに問題が発生。


「それで、僕たちって何を用意すれば良いのかな?」


「え、知らん。着替えとかじゃね?」


 本来なら馬車の手配や食料の用意など、確認すべきことが様々ある。しかし馬車はエルムが持っている。六人しか居ないなら充分にスペースは足りるだろう。


 そして食料もエルムが居ればなんとでもなる。というか料理はエルムの仕事なので当然と言えば当然か。


 前回の課外授業と違い、今回は目的地まで引率の教師と一緒に大規模なキャラバンで移動するので地図の用意や日程の調整などは必要ない。護衛役の手配も学校側が行う。


 なので用意すべきは班ごとに使う馬車と馬、そして食料くらいだったのだ。そしてそれは全てエルムが単独で用意出来る。


 ここまで来ると、残りのメンバーが用意するべき物は本当に着替えくらいになってしまう。


 強いて言うなら、エルムは料理以外の雑務は全部投げると言ってるのだから、それに対する準備が必要ない事くらいだろうか。


「…………えっと、どうしよう」


「そう言うの含めて任せる。あぁ、あとは食えない食材とか食べたい料理とかあったら纏めて提出してくれ。じゃないと食べれない物とかも普通に出すかも知れねぇし」


 エルムは好き嫌い肯定派だった。別に嫌いな物を無理に食べなくても、必須栄養素さえ取れてれば何でも良いだろというのがエルムのスタンスだった。


 なので「コレは嫌い!」と言われれば、仕方ないなとソレを避けて献立を作るくらいのことはする用意がエルムにはあった。実際、エルムも生のトマトが嫌いだったりする。


 火を入れたトマトは食べれるのだが、生のトマトが入ったサラダなどは食べれないのだ。同じくスライストマトが入ったハンバーガーもダメである。


「え、食べたいの作ってくれるの? じゃぁこの間たべた黒っぽいスープ!」


「あ、うん。それは僕も食べたい」


「お前ら、あれがどれだけ手間かかる料理か分かってんのか」


 コンソメスープを作るだけでも、最低で六時間は欲しいエルムだった。更にそこからビーフシチューにするのだから、尚更時間が掛かる。


 そう言う料理過程を一つ一つ丁寧に教えていくと、全員がドン引きした。


「いや引いてんじゃねぇよ。お前らが食い尽くしたんだぞ」


「あ、いや、ほんとごめん……」


「ゆるしてだーりん」


「ご、ごめんねエルムくん……」


 ちなみにだが、アルテもきっちりビーフシチューモンスターと化していた。あの場に居た一年生は全員が例外無く犯人である。なんなら関係無い二年、三年も少し混ざっていたかもしれない。


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