チーム分け。



 日を跨ぎ、学校である。


「あの、エルムくん……」


「ん? どした」


 授業も滞りなく進み、昼食時。エルムは双子を伴っだっこして寮の自室に帰ろうとする最中、アルテから呼び止められて振り返った。


「その、エルムくんはもう、課外授業の班は決まってるの?」


「いや? …………え、と言うかもう班分けとか始まってるん?」


「あ、そこからなんだ……」


 未だにエルムへと夢を見てる少女アルテから詳しく聞くと、とっくにホームルーム的な時間に知らせがあり、期日までにパーティを組んで申請するようにと言われてるらしい。


(俺、朝は基本的に皆勤賞なはずなんだけどなぁ)


 何故自分が知らないのか首を傾げるエルムだが、答えはホームルーム中に魔法の新術式を組んだりして意識が飛んでるせいである。


 退屈なホームルームよりも魔法の考察を考察していた方が楽しいので、エルムは度々そうやって意識を飛ばしているのだ。完全に自業自得であり、「なんでだろう」じゃない。


「それで、まだ決まってないなら私達の班はどうかなって」


「まぁ、どこでもやる事は変わらんし。迷惑じゃないなら頼むわ」


 エルムとアルテはそれで良かったのだが、しかしその決定に異を唱える者がいた。


「あの、レイブレイド様……」


 まずアルテと先に組んでいた令嬢が難色を示す。エルムは上級生の女生徒からは人気が高いのだが、同級生の女生徒からは評価が正反対になる。問題に対して暴力的な解決が得意なエルムが純粋に怖いのだ。


「待ってくれないか? プランター君の勧誘なら僕達だって考えているとも。抜け駆けはしないで貰いたい」


 そして同級生の男子生徒達も集まってきた。先の課外授業でエルムと共に居た先輩達から情報が漏れ、道中の食事が保証される利点に食い付いた形になる。


 成長期のただ中にいる男子生徒からすると、旅の途中に食む干し肉なんかは余りにも味気無いし、量を食えるものでも無い。だがエルムさえ居れば街で食べるのと遜色ないレベルの食事が野営でも振る舞われるのだ。食い盛りからは無視出来ないステータスである。


「あー、なんだ。俺としては誰と組んでも構わないんだが…………」


「よし、ならば公平に決めようじゃないか。プランター本人はこう言ってるのだし」


「レイブレイド穣、構わないよね?」


 構わない事は一切無いのだが、班員の女生徒が嫌がってる上にエルムを欲してる男子生徒も大勢いる中ではどうしようもなかった。


 アルテは想い人と共にまた旅をしたかっただけなのだが、エルムが余りにも優秀過ぎたので取り合いになってしまった。


「…………あ、えと、だったら班を組み直すとか、どうかな」


 その一言が精一杯の反撃だった。だが、その言葉は思いのほか刺さる。


「……ふむ。良いのでは?」


「ああ、プランターと組みたい奴で集まって班を組み直すのは正直良い案だと思う。いくらプランターが優秀だからって、怖くて一緒に行きたくないって人も居るだろうし」


 隙あらばエルムを加えようとしていた班はこぞって申請を遅らせていたので、班の組み直しは現実的に可能な提案だった。


「なんも分からんから、全部任せる。ちなみに、俺が入るとポチとタマは確定だから、俺を含めて三人分ちゃんと考えて組んでくれよな」


「了解した」


 エルムはノルドに全部投げられた前回がどれほど楽だったかを痛感した。今回は学年別なので上級生の女子からアプローチされたりはしないが、結局は欠食児が群がってくるので男子か女子かの違いでしか無かった。


「ちなみにプランター、俺達が求めてる物は分かるよな?」


「あ? 飯だよな?」


「先輩が凄い自慢して来たんだよ。そんなに美味いのか?」


「やたら種類があって、旅の途中はずっと食事が楽しくて飽きなかったとも言われたぜ。今回も期待して良いんだよな?」


「まぁ、大した手間でもねぇから良いけど。その代わり、他の雑事は全部任せるからな。…………と言うか一回解散しね? 飯食う時間無くなんだけど」


「あ、だったら今からプランターについて行こうよ! いつも昼は自分で作ってるんだろう?」


「それ良いな! 食べさせてくれよ!」


「バカ言ってんじゃねぇよ! んな人数に振る舞えるほど仕込んでねぇから!」


 結局、エルムはまた課外授業前の試食会を開催する羽目になった。


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