妹か従妹か。



 元仲間達の生まれ変わり情報を得たエルムは、数日悩んだがそれ以降は早々に考える事を止めた。


 考えても分からない事を考えるのは最高の無駄であると知っているから。むしろ数日も悩んでしまった自分を少し恥じる程である。


「にぃちゃ、あーん……!」


「ん!」


「くなも、くなもやぅのー!」


 教師業もしっかりとこなし、時折ダンジョンへも潜って小遣い稼ぎと魔法の鍛錬を続けるエルムは、当主と夫人が軒並み消え去ったエアライド家にお邪魔していた。


 何故かと言えばノルドとアベリアに呼ばれたからだ。


 ノルドは当主の引き継ぎなどであっぷあっぷしてるので純粋に手伝いを欲して。そしてアベリアは、なにやら大切な話しがあると言う。


 そうしてやってきたエアライド家で、青い顔をしながらエルムに対応するメイド達を鼻で笑ってから応接室で大いに寛ぐ。


 双子のほほをつつきながらノルドやアベリアを待っていると、先に現れたのはクナウティアを伴ったアベリアだった。


「それで、話ってのはなんスか?」


 双子とクナウティアに突き出されたお菓子をむぐむぐと食べながら、ソファに座るナイスバディへと問い掛けるエルム。


「呼び出して悪かったね。今日は個人的なお礼と、あとは軽いネタバレをしようかって思ってね」


「…………ネタバレ?」


 思わせぶりな事を言うアベリアに、エルムは心当たりが無くて首を傾げる。


「なんかバラされるようなネタってあったかな?」


「自覚はしてないだろうね。まぁ、まずは礼から行こうか」


 アベリアは言うだけ言うと、ローテーブルに三指をついて頭を下げる。


「エルム、奴を殺してくれてありがとう」


「……………………なんの事だろう?」


 エルムは本当に心当たりが無かった。


(俺が最近殺したのって、下半身と夫人二匹だけだよな? もしくは、課外授業で殺したアレか? でもアレってアベリアさん関係なくね?)


「……混乱させたみたいで悪いね。率直に言うと、私がこの家に来たのは当主を殺したかったからなのさ」


「おっ?」


 思ってもみなかったカミングアウトに声が出るエルム。下半身伯爵との仲はそう悪く感じてなかっただけに、その言葉は本当に意外だった。


「なんか恨みでもあったんスか?」


 なぜエルムが殺したと知ってるのか、なんて質問をエルムはしない。相手も確信があっての事だろうから無駄だも考えた。その代わり、復讐の理由を問う。


「まぁね。と言っても、あんたと同じ理由さね」


「…………と、言うと?」


「エアライドに殺されたあんたの母。…………実はね、私の妹なのさ」


「………………………………………………え、マジ?」


 エルムはすぐに言葉を飲み込む事が出来なかった。


 アベリアのげんを信じるならば、アベリアとエルムは親戚と言うことになる。もっと言うと、クナウティアが妹に当たるのか従妹いとこに当たるのか分からなくなる。


「ねぇエルム。あんた、別の世界の記憶とか持ってないかい?」


「ッッ!?」


 今もエルムの口に問答無用で菓子を運び続けるお子様達を尻目に、エルムは突然の異世界バレで目を見張る。


 あらゆる「何故?」が頭を過ぎり、すぐには言葉が出て来ない。


「その反応を見るに、あってるみたいだね」


「えっと、なんで…………?」


「少し前、クナに花をあげただろう? この世界に無い花をさ」


 それを聞いて一応は「あー、なるほど」と納得するが、すると次の疑問が湧いてくる。


「えと、じゃぁアベリアさんが地球出身なんスか?」


「いや違うよ。ちなみにハスカップも違う。転生者だったのは私たちの母親さ」


 つい最近も転生だの転移だので悩んだ後なので、ここ最近に情報を詰め込まれて困り果てるエルム。


「もしかして、母さんの名前とアベリアさんの名前も偶然じゃなく……?」


「そう。確かスイカズラって言うんだっけね? 異世界の花が由来さ」


 ハスカップ、アベリア、クナウティア。どれもスイカズラ科の植物である。その名前は偶然ではなく、そうなるべくして名付けられた。


(つまり、なんだ? 地球からの転生者である俺を産んだ母の母が転生者だった? これも転生の術式に何か影響してんのか? なんだもう俺には分からん。なんも分からん)


 エルムは頭がパンクしそうである。


 一つ確かなのは、アベリアがエルムの母を死に追いやったエアライドへの復讐が目的でやって来た事だけである。


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