噂が目的。
後日、エルムは王城に呼び出された。
学校の仕事もあって忙しいのに、結構急な話でエルムはそこそこ機嫌が悪かった。
「おお、来たか」
「なぁ陛下ちゃん。俺も暇じゃぁねぇんだけど?」
とっくに人払いされた一室には、国王と宰相が揃っていた。
その場まで案内してきたメイドは国王に対するエルムの発言にギョッとするが、カラカラと笑う国王が良い良いとメイドを下がらせた。
「いや、悪かった。確か教師の仕事もしてるんだったか?」
「ならばコチラから言っておく。流石に一学園の授業一回と、王城で起きた事件を天秤に掛けてもらっては困るでな」
「俺にとっちゃこっちの方が大した事ない要件なんだが」
エルムが呼び出されたのは、ハルニースから親へ、親から国王へと話が回ったからに他ならない。
「して、エルム? 此度の事件は呪いが関係ないと証明出来ると聞いたのだが」
「いや確証はねぇよ? 現場見てねぇもん」
エルムとしては炎色反応を利用したイタズラだも思ってるが、砂粒程度には呪術が行われた可能性はあるのだ。
魔力反応がなかったらしいが、しかし反応を散らす技術や知識だって存在する。
「それより陛下ちゃん、一つ聞いて良いか?」
「ん、事件に関係することか」
「まぁ、多少」
エルムは今回の噂を聞いて、少し頭を捻っていた。
炎色反応を利用したイタズラ。大いに結構である。だが場所が王城なのだ。
仮にイタズラの犯人が判明した場合、その時に問われる罪はいかほどか。
少し城で噂が出回る程度の成果では確実に見合わないリスクだ。
「なぁ陛下ちゃん。この国って戦争の影でもチラついてたりする?」
だからエルムは考えた。噂が立つ程度の成果では見合わないが、逆に「噂を立てる事」が目的だった場合はどうだろか?
「…………穏やかな話じゃないな」
「何か思うところがあるのか? 詳しく聞かせてくれ」
エルムは「あくまで、憶測だ」と前置きしてから喋り出した。
「この件が呪いとは関係がなかったと前提するぜ? 冷静に考えて、王城でボヤ騒ぎなんてイタズラは有り得ないだろ」
リスクとリターンが噛み合ってない。
イタズラなんてものは、そもそもがリターンなど無いものが殆どではあるが、その代わりにリスクも「バレたら叱られる」程度で収まってるから「イタズラ」と呼べるのだ。
「バレたら首が飛ぶイタズラ? クスリでもやってなきゃやらねぇだろ」
「…………ふむ」
「それで? なぜ戦争なんて話に?」
「考えを変えたんだ。噂が立つ程度しか効果が無いイタズラに首を掛けるなんざアホのする事だが、その噂こそが目的だったとしたら?」
エルムの考えはこうだ。
「つまり、城から何かしらの情報を抜いた後、それを簡潔に協力者へと伝える
「…………ッ! なる、ほど。奇妙な色をした火が出たなど、絶対に噂となる」
「その噂を拾えば、協力者と接触せずにやり取りが可能だと……?」
「そゆこと。…………まぁ、イタズラがバレても叱られる程度で済む立場の奴がやった可能性はゼロじゃないけどな?」
例えば、幼い王子が父に構って欲しくて火をつけた、なんて話だった場合は事情が変わる。想像を絶するほど怒られるだろうし、何かしらの罰が課されるだろうが、しかし首が飛ぶことは無いと思われる。
「……………………ふむ。ちょっと息子達に話を聞いてみるべきか」
「陛下、姫達もですぞ」
そう言えば、とエルムは一つ思い出す。
「なぁ陛下ちゃん。第二王女ってどんなヤツ?」
第二王女。エルムの記憶には名前すら無い人物ではあるが、エアライド家に訪れたことがあるはずの王族。
エルムが追い出されたきっかけであり、ザックスによれば何やらエルムにコンタクトを取ろうとしてるらしい。
スマシス関係で王族の何人かとは知己を得たエルムだが、まだその第二王女とは面識が無かった。
「ミューの事か?」
「いや知らんけど。名前知らねぇもん」
「…………エルムよ、流石に住んでる国の王族くらい名前を知っておけ」
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