六勇者。
謀殺され、性別すら捻じ曲げられた最強の存在、樹法の勇者プリムラ・フラワーロード。
プリムラ亡き後、最強かつ筆頭とされた勇者の代表格、
実はプリムラを除いた場合にブイズよりも強く、間違いなく五勇者では最強だった聖女。
森や林の中に限ってプリムラに匹敵する程の戦闘力を誇った影の立役者、風の勇者ルスリア・ウィングハート。
瞬間火力だけならばプリムラにも匹敵した脳筋の天然美少女、
勇者の中で唯一
そのうち、子供を残したのがたった二人であると教えられたエルムは何とも言えない顔になった。
(そうか。ブイズと添い遂げたのはハムじゃないのか。なら、妹のセルちゃんかな)
記憶を辿り、可能性がありそうな人物をピックアップするエルム。一緒に旅をした仲なので、その家族とも多少なりとも面識があったからこそ、可能性を辿れる。
勇者であると同時に聖女でもあったハムナプリア・リリィエンドだが、一番可能性が高いその人が違うと言うならば、実家に寄った時に顔を赤くしてブイズを見ていた少女が一番ありそうだとエルムは過去の出来事を思い出す。
(それにしても、女子組はなんで誰も結婚してないんだ? 国がほっとかないだろうし、性格も別に破綻してた訳じゃない。全員がアニメのヒロインかよってくらい綺麗だったし、有り得なくね?)
好きだったルスリアが誰とも結婚してないと聞いて仄かに喜んでいる自分のハートを踏み付けて無かった事にするエルムは、しかし余りにも納得出来ない真実に頭を捻る。
ハムナプリア・リリィエンドは絶対にブイズと結婚すると思っていたし、グローレイズ・パパロッツもかなり可愛い女の子だったとエルムは記憶してる。当時は自覚してなかったとは言え、エルムが恋してたルスリアも当然ながら美少女だ。
ちなみに、この場合の美少女とは年齢では無くサイズの話。全員が立派に成人して、魔王を倒す時には二十歳も超えていたので年齢的には美少女と呼ぶのは正しくない。
だが全体的に何故か身長が低かったので、エルムは全員纏めて美少女だと認識していた。年齢を重ねても幼いとすら言える程に若々しかったのも理由の一つだが。
柔牙族であるルスリアは言うまでもなく、エルムが親しげにローラと呼ぶグローレイズも、ハムと呼ぶハムナプリアも、身長的には中学生低学年くらいの大きさだった。
(というかブイズの奴、ハムの事を口説けなかったのかよ。ぷぷ、ざまぁ……!)
自分は口説けなかったどころか裏切られて殺されてるのでブーメランどころの話じゃないが、当時は自覚してなかった恋心ゆえにノーカンだと開き直るエルム。
そんな百面相をしてるエルムをチラッと見たノルドは、当時の事を思い出してるのだろうと考えて触れずにいた。予想は大正解である。
「…………というか、つまりじゃぁ俺とポチ達ってマジの親戚なのか」
「まぁ、親戚と呼ぶには少しばかり血が遠いがな。エアライドに入ったのは確か、勇者ルスリアの従姉妹から続く血統だったはずだ」
(リアの従姉妹って言うと、キャロか? 確かに扇法持ちだったけど、あいつ魔法使えたっけ?)
エアライドに入った血はルスリアの直系では無い事だけ知っていたエルムだが、一応は風の名家と言われるエアライドなのに魔法が全然関係無さそうなち筋だった事にちょっと驚く。
(あぁ、むしろだからこそなのか。ルスリアの血を入れたってーのに、扇法に明るくない血筋だなんて恥ずかしいもんな。だから三百年の間にルスリアの血筋とは関係ないところで扇法を伸ばして、「どうだウチはちゃんと勇者ルスリアの血統だぞ」と言い張りたかったんだな。エアライドが武門でも無いのに扇法に傾倒した血筋なのが謎だったが、そう言う理由なのか)
変な納得をしたエルムは、顔を上げて双子を見る。言われてみればどことなくルスリアの面影がなくも無い、気がしてくる。
(リアの兄って言うと、サンロックさんだよな。良い人なんだけど、何故か俺は結構絡まれた記憶がある)
とある理由で、プリムラはルスリアの兄であるサンロック・ウィングハートに絡まれていた。しかし仲間の兄を煽ってオモチャにする訳にもいかず、当時は扱いに困った記憶が残ってる。
(あの時はマジで困ったもんな。リアの前で煽り倒す訳にも行かねぇし、絡んでは来るけどライン越えはしないし、扱いにくかった……)
裏切られ、忌まわしい記憶のはずなのに懐かしくなるエルムは、知らずのうちに優しい顔になっていた。
「にぃちゃ、どしたのー?」
「ん? なんでもねぇよ。ほらクナ、お花だぞ」
「おはにゃー!」
袖に仕込んだ触媒の種からパッと花を咲かせ、持ちやすいように紙も生成して小さなブーケにしてクナウティアへ渡すエルム。
咲かせたその花は桃色のサクラソウ。つまりプリムラだった。
「きぇい! これ、にゃんておはにゃー?」
「プリムラって名前の花だぞ。正確にはプリムラ・ポリアンサって種類の花だ」
幽霊部員だったとは言え、元は園芸部に居たエルムである。真面目な部員達からのお遣いをするのに、多少の花は覚えてしまってる。
「………………ん〜」
「……タマも」
「ん? ああ、欲しいのか? ほれ、プリムラ・ジュリアンとプリムラ・オブコニカだ」
どれもピンク系の物を選んで生成し、同じようにブーケにして渡したエルム。それを見ていたノルドは雷に打たれた様な顔でエルムを見ていた。
「…………なんだよ」
「え、エルムって、女の子に花を贈るなんて事が出来たんだね……」
「お? 喧嘩なら買うぞ?」
「ふむ、魔女の名を冠した花か。随分と綺麗だな。エルムは花に詳しいのか?」
「これは?」
「風の花と呼ばれるアネモネ。勇者ルスリアが一番好きだった花だよ」
ザックスに渡したアネモネは白だが、勇者ルスリアが好んだのは赤だった。
この世界には無い花のため、ルスリアは度々エルムへこの花を見せろとせがんでいた。そして受け取った花をひとしきり楽しんだ後は、毎回ちゃんとプリムラへ返していた。
──花に言葉を託すなんて、随分と粋な風習があるのね?
花言葉なんて概念を教えた時に、ルスリアがそう言って笑ってた記憶が蘇る。
(はぁ、ダメだな。過去のことを知って色々と感傷的になってやがる。メンタルがボロボロになりそうだ)
気にしてない振りをしてても、自覚するよりずっと裏切られたダメージがあったのかもしれない。エルムがそうやって自分の弱さを自覚して飲み込んでると、胸元から熱烈な視線を感じて顔を向ける。
「…………あぁ、コレか」
「んー!」
クナウティアから無言の催促を受けて、エルムはまた一輪の花を差し出した。
「みてみて、おねぇちゃ! こぇ、くなのおはな! くなうてぃあって、いうのー!」
「………………え、クナの名前と同じ花なんてあるのかい?」
双子に見せびらかすクナウティアに、ノルドは驚いた顔でエルムを見た。
「偶然だけどな。ちなみにアベリアさんのもあるぞ」
クナウティア。アベリア。共にスイカズラ科の花であり、エアライドの屋敷で暮らしてた頃にクナウティアにあげたら喜び過ぎて気絶するんじゃ無いかと不安になるほど喜んだ花である。
「…………名前と同じ花を贈るなんて、そんな高等なっ」
「だから、喧嘩なら買うぞ?」
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