驚きの情報。



「あ、そうだポチ、タマ。ちょっと『おじさーん』って呼んでくれね?」


「……ん? おじ、さーん?」


「おじしゃん」


「どうしたポチ、タマ。呼んだか?」


「誰ッ!?」


 クナウティアをエアライド邸まで送る道すがら、ザックスに用事があったエルムは双子に呼ばせる事で強制召喚する。


 当然、突然現れて知り合いの様に振る舞う不審な柔牙族にノルドは驚いて飛び退った。現れ方が一般人のそれでは無かったので当然の反応だ。


「ノルド、紹介しとく。俺が雇った専属の裏方、ザックスだ。双子の叔父に当たるらしい」


「…………えっ、ってことはの血縁!?」


「いや、その認識は甚だ名誉を毀損するのでやめて欲しい。俺はポチとタマから見ると母方の叔父なので、恐らく君が言う『アレ』とは完全に他人だ」


 ザックスとしてはルボルーヤの血筋だなんて不名誉はその場で自死を選ぶ程の物である。秒で否定しないと拒否反応で本当に死にかねない。


「アレは本当に外様から来た柔牙族だっから、本当に欠片すら血の繋がりが無い。頼むから止めて欲しい」


「あ、えと、ごめんなさい……」


 凄く真剣に頼まれ、ノルドも何か悪い事をした気分になった。


「というより、どちらかと言うと俺は君達との方が血が近いぞ? ノルドラン・エアライド」


「……ん? 待てザックス、それどう言う事だ?」


 今からエアライド邸に行くので、丁度いいからザックスを呼んだだけのエルム。しかし聞き捨てならない事を聞いて立ち止まった。


「ん? なんだ知らないのか? エアライドはウィングハートの血が少し入ってるだろう?」


「まぁ、そうですね。相当薄いですけど」


 戸惑いながら肯首するノルドの横で、エルムはクナウティアを抱っこしながら手持ちの情報を繋ぎ合わせ、一瞬で一つの仮説に行き当たった。


 ルボルーヤが襲って来た村は、双子が産まれた村の近くである。


 そして記憶が正しければ風の勇者ルスリアが産まれた場所も、あの辺だったはずで、双子とザックスはルスリアと同じ柔牙族。


「…………ざ、ザックス。一つ教えてくれ。お前、姓は?」


 もう気にしてない。どうでもいい。そう思ってたはずのエルムだが、しかし現実を目の前にして口の中が乾いていく。


 そんなエルムの心情をおもんぱかる事なく、ザックスは軽々に口を開いた。


「教えて無かったか? 俺の名前はザックス・ウィングハート。風の勇者ルスリアの血族さ」


「ッッ…………!」


 思わず、抱えたクナウティアを落としそうになるエルム。


 その抱いた気持ちはなんなのか、エルムにも分からない。


 自分を裏切った想い人に対する恨みなのか、それとも想い人が誰かと子を為した事に対する動揺か。他にもいくつも可能性が頭を過ぎるが、どれも正解では無いように感じた。


「直系、ですか……?」


「いや、勇者ルスリアは誰とも添い遂げなかったらしいから、微妙に直系とは言えないな。俺達は勇者ルスリアの兄が祖になる」


 ノルドの問いに答えたザックス。それを聞いたエルムは、知らずのうちに強ばっていた力が抜ける。どうやら想い人が誰かと子を為した訳じゃないと知って、安心したのだと自覚する。


(…………チッ! 思春期のガキかよっ)


「そも、勇者だった女性は誰も子を残さなかったらしいからな。直系と言えるのはブレイヴフィールとオフトゥンくらいじゃないか?」


 オフトゥン。スヤァしそうな家名だが、冗談でもなんでもなく勇者の名である。


 六人居た勇者の中で唯一燐法、型法、仌法の三系統持ちトリプルだった男、回帰の勇者と呼ばれたアトゥン・オフトゥン。


 六勇者は男女比が丁度半分だったので、謀殺されたプリムラを除けばブレイヴフィールとオフトゥンの二人しか子孫を残さなかったらしい。


「ん? ちょっと待てザックス。リリィエンドはどうした? 文献ではブレイヴフィールと結ばれたってあったが」


 勇者の血縁に関する文献は、憶測混じりの物や見栄を優先した欺瞞も多くて正確に追い切る事が難しい。


 しかも勇者全員が最後は消息不明になっていて、いつどこで何歳頃に亡くなったのかも分からない始末だ。


 しかし、そんな中でも刃法の勇者ブイズ・ブレイヴフィールとひじりの勇者ハムナプリア・リリィエンドは結ばれたと文献に書いてあったのを見た記憶があった。


「いや、あれはどうやら嘘らしいぞ。ブレイヴフィールに入ったリリィエンドの血は、ハムナプリア様の妹だったか従兄弟だったか、とにかく本人じゃないそうだ」


「…………マジかよ」


 過去の知り合いがどうなったのか、殆ど分からない状態だったのに、数少ない既知の情報すら間違ってたと知ったエルムは複雑だった。


「まぁブレイヴフィールにもメンツがあるだろうから、これも結構な機密だがな」


「んな事まで知ってるのは、流石と言うかなんというか……」


 改めてザックスの腕を知るエルム。だがやはり内心は複雑だった。


(ハムの奴、ブイズと結婚しなかったのか? ブイズはどう見てもハムにぞっこんだったし、ハムも満更でもない感じだったが)


「じゃぁ、今も勇者様達の直系を名乗ってる家って…………」


「あぁ、ほぼ嘘だぞ。勇者の兄弟を獲得した家はまぁ直系と言えなくもないが、真に直系と言えるかは微妙だろう。もしそれで良いなら、俺だって勇者ルスリアの直系だし、ポチとタマもそうだ」


「えぇ……、隣国のパパロッツも、聖王国のリリィエンドも嘘なんだ…………」


 知りたくも無かった真実を知ってげんなりするノルドだが、エルムは内心でその数倍は萎れてる。


(リアもハムもローラも、子孫を残さなかった…………?)


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