送迎。



 結局、教えて大丈夫そうなの秘術があるなら教えて欲しいと願われたエルムは、すでにカツカツなスケジュールを更に詰めることとなった。


 扇法、刃法、霊法の授業を受けつつ、全学年に対して樹法の授業を行い、更に休日は孤児院での活動をしつつ双子に個人レッスンをして、更にはキースの店でもスマシスの販売について多少の仕事がある。


 冷静に考え無くても過密スケジュールであり、十二歳に背負わせて良い仕事量じゃ無い。


「ほらクナ、良い子だから帰ろうなー?」


「やぁなのっ! おにぃちゃといっしょなのぅ!」


 そして新タスクとして、一人で寮に突撃して来たクナウティアの送迎まで加わった。


 食堂の床に座って話し合うと言う意味不明な会合を終えて、エルムがクナウティアを抱っこして帰そうとする。すると「二度と離してやるものか!」とクナウティアが抵抗する。


 ひしっとエルムに抱きつき、死が二人を分かつまで絶対に離さない気概を見せる。そのお口は双子に貰ったスモアのチョコで汚れていた。


「て言うかポチ、タマ、なんでクナと一緒だった? クナが王都に居る理由は分かったけど、お前らと一緒に居る理由が未だに分からんのだが」


 今日、エルムが双子と別行動してたのは特に大きな理由があった訳じゃなく、ペット兼使用人として使う二人に休日をあげただけの事。


 そして一人で外を歩いていたら野生の勇者教に襲われたのだ。


「迷子だた」


「ん。ひろった」


 エルムが買って来たお土産、少し冷めた串焼きをもちゃもちゃと食べながら答える二人。オヤツとして与えたスモアから串焼きと言う食べ合わせは、普通逆じゃねとエルムは思いながらも言葉を受け取る。


「ふむ。どこで迷子だった?」


「がっこう、まえ」


「ん。うろうろ」


 要するに、双子はエルムに貰った休日をどうしようかと悩んだ末、とりあえず外に出ようとしたら迷子でうろうろしてるクナウティアと遭遇したらしい。


 そこでどうしたのかと聞けば、涙目で「おにぃちゃ、いないのぉ……」と言うクナウティアから事情を聞いた双子が、寮の中に連れて来たのだ。


「うん。間違いなく今頃あっちは大慌てだろ」


 引き剥がせないクナウティアを仕方なく抱っこして、エルムは寮から出て街に降りる。


 クナウティアはエアライド家で誰にでも愛された天使の様な存在であり、愛人の子とはいえ公認の存在なので夫人達からの覚えも良い。というか溺愛されてる。


 なんなら生意気に育った自分の息子や娘よりずっと素直に甘えてくるクナウティアは、実の子供よりもずっと可愛かった。そのお陰でアベリアも屋敷で相当過ごしやすい立場にいた。


 そんな存在が王都に来て迷子。絶対に大騒ぎになってると簡単に予想出来た。


「どうするんだい?」


「ああ、悪いけどエアライド邸まで案内頼めるか?」


 後ろを着いてきたノルドに頼むエルム。迫害されてたエルムはエアライドが王都に持ってる屋敷の場所を知らないのだ。


「僕が居なかったらどうするつもりだったんだ……」


「そりゃ、下半身伯爵を護衛して来た冒険者なりがギルドに居るだろうから、そっちから当たるつもりだったよ。娘さんが迷子だよって伝えても動かないほど、ギルドはガッチガチじゃないだろ」


 エアライド家は伯爵位にあるが、騎士団を抱えるほど大きい訳でもない。というか中央集権化がほぼ成功してるこの国では、貴族が独自に戦力を持つことが非常に難しい。


 そんな国だからそこエルムが国王に生意気な態度をとっても、国王本人が許せば許されるのだ。他の追随を許さない権力を国王本人が握っているから、「黙れ」と言われたら周りの貴族は黙るしかない。


 なので、貴族達が旅に使う護衛はもっぱら冒険者である。流石に領地を守る兵士も居るし、国から派遣されてる騎士団もちゃんと居るのだが、騎士団を動かせるのは国であって貴族じゃない。


 国からの呼び出しならば護衛にも使えるが、自分の用事で移動するならば国への申請が必須である。


 兵士だって街でゴロツキを捕まえたりするのがメインなので、旅に同行して賊との本格的な殺し合いは不得手である。そんな存在を頼るなら最初から冒険者に頼った方が早いのだ。


 だからギルドに行って事情を話し、護衛して来たはずの冒険者を捕まえて伝令に走らせれば良いとエルムは思っていた。


「そんな事しなくても、僕が居るんだから最初から声をかけなよ。エルムは何でも自分で完結させる癖があるけど、非効率な部分は直した方が良いと思うよ」


「あー、まぁそうだな。エアライドでの暮らしが長かったから、元家族を頼るって発想がすぐ出て来ないんだわ」


 それを言われると何も言えないノルドだった。そもそもエルムをイジメてた張本人であるし、今も保身からの贖罪を進めてる最中だ。


 自己完結する癖がお前らのせいだと言われれば、マジでごめんなさいとしか言えないのである。


「あ、あー! しゅごぃ、うししゃん!」


「ん?」


 ふと、抱えたクナウティアが叫んだので何かと思えば、抱っこポジジョンを奪われた双子が騎乗用のサーヴァントを出しただけだった。


 エルム達が最近良く使うサーヴァントと言えばジ○オウガそっくりであるスイカズラだが、あれはエルムが生み出してアクセス権を双子に譲っただけのもの。


 なので双子は自分達の独力ではまだスイカズラを作り出せないので、訓練時に一番よく使っていた牛型のサーヴァントを呼び出したのだ。


 タウロスと名付けられたそれは、双子が自分達サイズで生み出したのでポニーくらいの大きさで、中々に愛嬌があった。


 しゅごいしゅごいと言われて双子は地味にドヤ顔である。どやぁぁんと効果音がなりそうな程に胸を張ってタウロスに乗った。


「おねぇちゃ、まほーちゅかえるのっ!?」


「ん」


「つかえぅ」


「しゅごーい!」


 現在三歳のクナウティアから見ると、双子は小さくても立派にだった。


 泣いてたら助けてくれて、魔法も使えて凄くかっこいいである。双子も珍しく自分達より小さな子に対して幼い庇護欲を刺激されており、その関係はとても良好だった。抱っこポジジョンを奪われても怒らない程には、ポチもタマもクナウティアを可愛がってる。


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