推しじゃ無いけど。
エルムによって始まった、唐突な孤児院への支援。
それに横から顔を突っ込むようにして参加したビンズ・ブレイヴフィールは困っていた。
そう、とても困っていた。
「…………ん!」
支援に参加して既に数日が経過した。その日は孤児院の中庭で、ビンズとポチが刃法の訓練をしてる。
ビンズは思う。君じゃない、と。
そう、ビンズの推しはタマである。ポチでは無い。しかしポチは刃法を持ってるので、教えるとしたら自分なのだとビンズも理解してる。
そして当たり前だが、刃法はレアな系統であり、孤児院には一人も居なかった。系統が無くても魔法は使えるが、かなり習得難易度が変わる。
その中でも刃法は系統外として学ぶにはトップクラスに難しい魔法である。ドルトロイのように見事な教導方法を知ってる訳じゃないビンズは、必然的に系統を持ってるポチに教えるしか無い。
(…………困ったなぁ)
そう、ビンズは困ってる。何が困ってるかと言うと、ポチが可愛いからだ。
ポチはビンズの推しじゃない。推しじゃないが、推しと血の繋がった双子の兄である。当然似てるし可愛いのだ。
服も相変わらずお揃いのメイド服で、とても似合ってる。剣術も交えて教えてると、スカートがチラチラとめくれて目に悪い。
推しとそっくりの女の子(男)が、刃法の練習をしながらスカートをひるがえす。とても心臓に悪い。
要は、ポチも可愛いのである。
しかしビンズは高位貴族であり、仮にそうじゃなくても『箱推し』なんて概念は知らなかった。タマを推してるのだから、ポチにときめくのは浮気なのでは無いかと思ってしまう。
(しかも、普通に強いんだよな)
可愛さだけでも戸惑うのに、ビンズは更に困惑する。
タマが普通に剣術も強いのだ。
(これ、間違いなくブレイヴフィールに伝わる剣術なんだけど……?)
ビンズが家で学んだ剣術は、当たり前だが
にも関わらず、ポチは当たり前のように自分と同じ剣術を使う。それも『見様見真似』なんてレベルでは無い。
「ねぇポチちゃん、その剣術は誰に習ったんだい?」
「ん、にぃちゃ」
つまりエルムから。
(アイツは、本当に何者なんだ……?)
ブレイヴフィールじゃないと学べないはずの剣術を、当たり前のようにポチへと教えられるエルム。 ビンズの疑問は深まる。
だがエルムからすると当たり前なのだ。なぜならエルムが使える剣術はまさに、剣の勇者ブイズから直接教わった物なのだから。
なんなら三百年も継承を続けて所々が変質した伝統の剣術よりも、ビンズ直伝を教えられたエルムの方が純度が高いのは当たり前。
ビンズはチラっと中庭から食堂の方を見た。そこにはエルムが居らず、代わりに子供達から絶大な信頼と尊敬を勝ち取ってる
(くそぅッ! あんなにキラキラした目で僕の天使様から見られやがって!)
ドルトロイとビンズのバトルレースは、そもそもがドルトロイ有利で始まってる。なぜならドルトロイはタマを庇って親と戦った実績がある。
比べてビンズと言えば、最初にエルムへと喧嘩を売った敵でしか無く、今でも恥ずかしい自己紹介を大声でするオモチャでしかない。
そもそもが勝負にすらなってなかった。
実際、ドルトロイは凄い事をしてる。本当に凄いのは彼に魔法を教えた老人なのだが、今その知識を振るっているのはドルトロイなのである。
「おいドルトロイ、出来たぞ」
「え、もうっ!?」
キッチンから出て来たエルムが、食堂にて教師をしてるドルトロイに声を掛けた。料理の試作でも出来たのかとビンズが視線を送れば、この手には何やら大きな布がある。
「タマ、ポチ、ちょっとこっち来い。新しい服作ったから着替えろ」
ビンズは戦慄した。「新しい、服?」と。
声が聞こえたポチは風よりも早く地面を蹴って中庭から食堂に戻り、速攻で手を洗ってエルムの傍に。食堂内に居たタマも同じく、燐法の授業を切り上げて新衣装を手に取った。
その後、二人が一度下がって着替えて来ると、孤児院の中はお祭り騒ぎに。
「「「「かわいいッ!」」」」
女の子達は二人の服を見てキラキラの視線を送り、男の子達も何やら素直になれずモジモジする。
(((カハッ……!?)))
「いやハルニースてめぇ料理はどうした」
そして愛くるしくなった双子の姿に、二人のロリコンと一人のショタコンが血を吐いた。だがショタコンはエルムがすぐに捕まえてキッチンに押し込む。「火から離れるなバカが。料理人の基本だぞ」と怒るエルム。
「ん!」
ひとしきり新衣装を披露したポチは、得意気な顔で中庭に戻りビンズにドヤ顔で胸を張る。どうだ可愛いだろとでも言うように。
(……………………くそぅ、可愛いっ)
ビンズの性癖がどこまで歪むのか、それはこの先の双子の行動に委ねられてる。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます