ご機嫌ドルトロイ。
ドルトロイ・エッケルカインは現在、人生の絶頂だった。
「ドルにぃちゃんすげー!」
「ねぇねぇ、次は? 次は〜?」
「さすがエルムにぃちゃんの連れて来た人だよな! 天才じゃん!」
「おにいちゃんかっこいい〜!」
「お貴族様って怖い人だと思ってたけど、おにいちゃん優しいんだねっ」
ドルトロイ・エッケルカインは現在、人生の絶頂だった。
エルムに連れられ、教師役としてやって来た孤児院の食堂。
自分達が知るエルムとは結構ヤバい奴なはずなのに、孤児院に来れば信じられない程に慕われ、懐かれてる様子にドルトロイは驚き、そしてエルムの紹介と言うだけで尊敬の視線を集めた。
ドルトロイは末っ子であり、こんなにも小さな子達からキラキラした目を向けられる経験など無かった。だから正直なところドルトロイは、その時点でもうかなり気持ち良くなっていた。
一緒に連れてこられたビンズ・ブレイヴフィールは子供達のオモチャにされてるから気にしなくて良い。さっさと子供の尊敬をもっと集め、そしてタマからも尊敬の念を向けられたい。
そう考えたドルトロイは早速仕事を始めた。エルムとハルニース・エンフラク、そしてオモチャのビンズが見守るなかで
ついでに、ドルトロイは孤児院に居る子供で他にも燐法を学びたい者が入れば、系統に関係無く一緒に聞いて良いと口にし、ほぼ全ての子供が志願した。
そうして始まったドルトロイの授業は、エルムの予想を超えてかなり分かり易く、的確で、理にかなっていた。
「いいか、まず蝋燭を見るんだ。そしてその火が、自分の指先から飛び出してるように見える感じに、自分の指を目の前に持ってこい。それから────」
まずは魔力の知覚式から始めるのが魔法の常。エルムでさえも双子に付きっきりで一日掛かった工程を、ドルトロイは痛みも無く数時間で達成してみせた。
もちろん、学んだ全員では無い。燐法に適性があり、なおかつ才能があった数人だけだった。しかし痛覚を刺激する拷問みたいな方法を使ったエルムに対して、ドルトロイは無痛の方式である。どちらが優秀かは聞くまでも無いだろう。
訓練方法はまず、火が灯る蝋燭と顔の間に指を立て、遠近法によって自分の指から火が出てるように見える形にする。
その後、ドルトロイが燐法を使ってロウソクの火を強くしたり弱くしたり、色々な調整をする。
その時にドルトロイは子供達に、「お前たちの才能が凄いから、逆に火が安定しないな。誰か魔力を出し過ぎてないか?」なんてウソを付き、子供達に「自分が火の大きさに影響を与えてる」と思い込ませた。
そんな事をしてる内に、数人の子供は本当に指先からボッと火が出て、「おお、やっぱり魔力出し過ぎたのか。他の子達も気を付けてな」と、全員が同じ事をしてるぞと伝える。
そう、要は
そんな独特の手法で、エルムのような虐待紛いの方法では無く素晴らしい手際で魔力の知覚を成功させた。
「いや、すげぇよお前。うん、マジで凄い」
口を開けば煽り文句しか出て来ないようなエルムが、なんの
そして、あのエルムから手放し褒められたドルトロイは更なる尊敬を子供達から集めた。
(こ、このやり方を教えてくれた師匠ッ、マジでありがとうッッ!)
ドルトロイは内心で天にシャウトした。
貴族が子供を魔法学校に送る場合、基本的にまず家庭教師を雇ってある程度を学ばせておく。そうしないと、授業についていけない場合は家の恥になるから。
そこでドルトロイは棺桶に片足を突っ込んでそうな老人から教わる事になったのだが、その時にドルトロイもこの知覚方法で魔力に覚醒したのだ。
お陰で、ドルトロイは子供達のヒーローである。先生の言う通りにしたら本当に魔法が使えたと、子供達は大喜び。
ちんちんを気にしてた燐法少女はもちろん、エルム式の魔力知覚式を経験したタマも、ドルトロイの画期的な方法を見て尊敬の視線を向ける。
(た、タマちゃんからの尊敬っ、気持ちえぇ〜!)
タマもポチも、エルム式の激痛を乗り越えて魔法を覚えた。大人さえ涙して呻き声をあげる方式をその身で体感してる。
そしてそのエルムさえも手放しで褒めるやり方を実演したドルトロイは、わりと真面目に双子から「超天才のお兄さん」だと認識されつつあった。
「…………そ、そんな方法があったのか」
見守ってたビンズも、あまりにも劇的な効果に度肝を抜かしてる。なぜなら魔力の知覚は魔法を覚える際の最初の難関であり、まずここで挑戦者の五割が落ちると言われてるから。
「まぁ、これ実は子供相手にしか使えない方法なんだよね」
子供達に聞こえない様に、ドルトロイはビンズにこそっと教えた。
この方法が出回れば、魔法はもっと普及するんじゃ無いかとビンズは考えたが、そうもいかない事情がある。
なぜならプラシーボ効果を利用してるので、内容が周知されたら二度と使えない方式でもあるのだ。
才能があるね、逆に魔力が調整出来てないぞ、なんて言葉を素直に信じれる子供に対して、何も知らせない状態で行うから効果があるのだ。
なので訓練の全容を最初から知ってしまうと、ロウソクの火力調整は教師役が全部やってると分かるのでプラシーボ効果が生まれない。勘違いで魔法を発現させる事が出来ないのだ。
「なるほどね、だから僕さえも知らないのか。そもそもが秘匿されたやり方だと」
「そうさ。秘術って言うのは、知られると簡単に真似されるから秘密にするんだ。それと、知られると無意味にもなるから余計に秘する。世の中そんなもんだろ?」
こうして、エルムの心配とは裏腹に、ロリコンによる魔法教室は大成功で終わる。夕方にはほぼ全員の子供が着火の魔法くらいなら使えるようになった。
「いやマジか。流石にここまでとは思ってなかったわ」
夕方、きっちり夕食も全員分作って来たエルムは本当に感嘆の声をあげる。
「ふふ、報酬は忘れないでくれよな」
「分かった。タマの特別衣装と、スマシスの特別衣装版タマモデルのキャラな」
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