マスコットキャラクター。
学校が始まり、授業も再開して日常が戻って数日。
エルムはこまめに孤児院へとやってきては色々と作業をする。
傍から見れば、エルムが今やっている事はボランティア精神に溢れる善行に映るだろう。しかし、本人の意識には多少の優遇はあっても
「そんで、鍋で調理すると熱は下からしか伝わらんな? それだと上まで火が通る前に鍋に接してる部分が焦げる。だから料理はある程度焼いたら食材をひっくり返す工程が必要なんだが、そもそも全体から熱を伝えられるならその方がいい場合も多いんだ」
「なるほど、それがオーブンの意義なのですね」
エルムは弟子にすると約束した女子生徒、ハルニース・エンフラクを孤児院に連れて来ていた。
「…………それにしても、お
「だから誰が
孤児院のキッチンで料理の手解きを受けながら、ハルニースは感嘆の声をあげる。
あれだけの悪辣なセリフがつらつらと出てくる人間だと言うのに、いざ王都に帰ればこうやって孤児院への支援を欠かさないような人だとはハルニースも思ってなかった。
「…………慈善活動?」
しかし、そう言われたエルム本人は首を傾げる。何言ってんだコイツと言わんばかりに。
「え、慈善活動ではありませんの?」
「孤児院のガキ達からすりゃ、そりゃまぁ慈善活動だろうよ。でもお前にとっては違うぞ?」
エルムは自分の行動が善行に分類されると理解してる。理解してなお否定する。
「お前、料理の修行を舐めてないか? 作った料理は食べないといけないんだぞ? 気に入らなかったら勝手に消えてくれる訳じゃないんだ」
「そ、それはまぁ……」
エルムも貴族として生まれが、元は日本人である。庶民的な考えが魂にこびり付いてる民族が精神のベースであり、だからこそ「要らないなら捨てる」は最終手段なのだ。
「材料費はお前持ちだけど、練習で作る料理を捨てる事は許さんぞ。食材を無駄にして何も気にしないような奴の料理を、俺はポチに食わせたくない」
練習すれば当然、料理が出来る。練習すればするほど、料理が積み上がっていく。効率良く数をこなして覚えるには、料理を効率良く消費出来る環境が必要なのだ。でなければ消費が追い付かない料理が腐っていく。
そこでエルムは孤児院を選んだ。ここなら腹を空かせたモンスターが沢山居る。作れば作っただけ消費される。
「孤児院からすると確かに慈善活動だ。でも俺がここを選んだのは、お前の為だぞ? なんだ、それとも毎日毎晩が自分の習作で腹いっぱいになってぶくぶく太る方が良かったか?」
「いっ、いえ!? お気遣いまことにありがとうございますぅっ!?」
孤児院で料理の練習をすれば、多少の失敗作でも子供達が美味しく食べ尽くす。真面目に練習してる時に完全に食べれなくなるような失敗なんて普通はしない。だから子供達は安心して失敗作を食べれる。
材料費は先にエルムが言った通り、ハルニース持ち。だから孤児院の子供達はタダ飯が大量に食える。そしてハルニースは、孤児達の胃袋を満たし切るまでは猛特訓が可能になる。
「ま、強いて言うならお前と孤児院の両方にタダで恩を売れる妙手ってところかね。その上で慈善活動のフリで出来るなら儲けもんか」
そう言ってニシシと笑うエルムだが、内情や実情はどうあれ完璧な慈善活動だった。
なるほど、これが
ふと、二人ともキッチンの外に顔を向ける。
「股間の
食堂の方から威勢の良い声が聞こえる。もはや恥らう気持ちが死んでしまった股間の勇者も一緒に来ていた。
現在、食堂で希望者にだけ魔法を教えてる最中で、最初はタマ推しのドルトロイだけ呼んで燐法の少女を頼もうとしたエルムは、うっかりその瞬間をビンズに見られてしまったのだ。
エルムの頼みで孤児に魔法を教える。つまり孤児に優しいお兄さん、魔法が上手なお兄さん、先生みたいにかっこいい人、なんて言うプラスのパラメータを何個も推しに見せられるイベント。
食いつかない訳が無い。
「もうほとんとアイツ…………」
エルムは包丁でニンニクを刻みながら、壁に遮られて見えない食堂の方を呆れた目で見る。もう完全にマスコットキャラクターになってるビンズに多少イラッとしているのだ。
悪魔の自己紹介をノリノリで行うネタキャラ化し、タマに好かれる為なら最早エルムの靴だって喜んで舐めるだろう真性のロリコン。
なんでそんな問題児を追加で連れて来たのかと言えば、ドルトロイとビンズをお互いに牽制させてればロリコンでも安全なのでは、とエルムは考えたからだ。
ドルトロイもビンズもタマ推しであり、推しが被ってる状況で無様な真似はそうそう出来ない。そして、お互いにタマを
これで燐法を学びたいあの少女も安全だと、エルムはまな板に視線を戻す。
ただ一つ懸念があるとすれば、ちんちんの有無を気にしてたのに教師役を女性にしなくて良かったのか、と言うことだ。
「…………アルテにでも頼もうかね」
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