半ば別荘。
「おらガキども、ちゃんと並べ」
「はーい!」
「エルムおにーちゃん、いつもありがとぉ〜!」
全てが一段落した後、エルムは孤児院へやって来た。流れとしてそのままおやつを作る事になったが、課外授業の遠征で量を作る事に慣れていたので手早く終わらせた。
なぜ孤児院に来たかと言えば、ヤキニクとニワトリの世話を頼んでいるからだった。
王都に帰ってすぐ、キースの店のことがあって適当な対応で任せてしまっていたので、改めて仕事として依頼し直すために足を運んだのだ。
「おうヤキニク、調子はどうよ」
孤児達の口におやつを捩じ込んで来たエルムは外に出て、まったりと寛いでる駄竜を見る。二重の意味で駄竜である。
孤児達に体をブラシで磨かれ、暑ければ仰がれ、エルムが設置したヤキニク用の果実生成樹からフルーツを食べる。下手な王族よりも確実に良い暮らしをして野生を失った駄竜であり、同時に本来は荷を引く為の竜なので本当の意味でも駄竜だ。
ついでに孤児院の庭にある穀物生成樹や他の自動生成樹も整備し直し、エルムの用事は終わる。
孤児院とは自動生成樹の維持とヤキニクの尻尾を対価にヤキニクとニワトリの世話を正式に依頼し、孤児院側はそれを受けた。
孤児達も最初に比べたら随分と血色が良く、毎日ちゃんと食べれている事がよく分かる。
「今日はどうされますか?」
「部屋貰ったんだっけか。じゃあせっかくだし泊まっていこうかね」
孤児院にはエルム用の部屋まで用意されていた。何故なら誰よりも金と食料をくれるVIPだから。
もはや別荘である。
もうすぐ学校も再開される予定であり、死亡した生徒二人の問題も学校側が被害者としっかり手打ちを済ませている。
エルムと言えば、森に居た不審者の情報などの報告なんて特にしてない。だが、ノルドがしっかりと報告してたので学校側も大助かりだ。
今頃は学校側、被害者側そろって森に調査隊を出して真偽を見定めている頃だろう。証拠隠滅の隙もなく圧殺したので色々と出てくる筈だ。
「なぁなぁエルムにいちゃん、おれにも魔法おしえてくれよ〜」
「あ? お前、系統は?」
「りんほーだった!」
食堂で寛いでいると、孤児の一人がエルムに絡んで来た。魔法を覚えたいと言う少年の系統は燐法。
火属性である燐法はストレートに攻撃力がある系統であり、なおかつ応用も利く。火は人の生活に欠かせないものであるから、攻撃にも生活にも同じだけ貢献出来る優秀な系統なのだ。
「基礎は教えられるが、燐法の極意は俺でも知らね。まぁ今度暇な時に学校の燐法使いでも連れて来てやるよ」
「ほんとっ!?」
「ああ。…………確か、タマを推してるドルトロイって奴が燐法使いだったはずだ」
新しく生まれてしまったロリコンの筆頭を、エルムはギリギリ覚えていた。
「タマにガチ恋する
「………………エルムにいちゃん、おれ女だよ?」
「……………………………………えっ?」
エルムは二度見した。目の前に居る八歳前後の少年にしか見えない子供は、なんと少女だったらしい。
「えっ!? お前メスなの!?」
「うん。ちんちんついてないよ」
「そうか、ちんちんついてないのか。なら女だな」
子供が「ほら!」と見せようとして来るのをエルムは止めた。相変わらず子供には微妙に優しい男である。
そして同時に懸念が湧いてくる。ドルトロイはメイド服でご奉仕するタマを眺めてニマニマする変態にジョブチェンジを果した紳士である。果たして「ちんちんついてないよ。ほら!」と見せて来ちゃうような子供の傍に置いても良いのだろうか。
エルムはとても悩んだ。いくら自己中心的な考えをするエルムでも、さすがに紹介しといてトラブルが起きた後に知らねぇは通らないと理解してる。
「なぁエルムにいちゃん。ちんちんついてないと、ダメなのか?」
悩むエルムを見たボーイッシュ少女は、何かを勘違いしたのか落ち込んでしまう。
「いや、魔法にちんちんは関係無いから安心しろ。タマだって女の子でちんちん無いけど、魔法使えてるだろ?」
「あっ、そっか! …………でもポチは?」
「ポチは元々が男なんだよ。魔法使いたくて女の子がちんちん付けた訳じゃなくて、メイド服着てるけど最初から男なんだ」
ポチの性別が分からなくなったボーイッシュ少女は首を傾げる。ポチはエルムにお茶を淹れながら「ん」と肯定する。その肯定は何に対してなのか。
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