親戚。
超キモティー事をしたエルムは、会頭が権利を有する土地、物件、その他諸々を全て半額にて買い取る契約をした。
もちろん隠し事など出来ないように、悪魔の契約書を持ち出した。何気にエルムは初めて自腹で購入した。ダンジョンからのレアドロップなので相応の金額だった。
「はぁ、気持ちかった〜」
そうして店を出たエルムは双子を連れて路地に入り、どことなく声を出す。
「で? いつまで隠れてんの?」
「…………流石に、バレていたか」
エルムの声に応え、一人の男がふらっと現れる。
黒い布で顔を隠し、全身も体型が分かりにくい服を着ている。だが背が小さく、目立つ耳に尻尾が見える事から、柔牙族だとすぐに分かる。
「あの場で一人だけ俺に仕掛けず、ずっと俺を監視してたな。何か用か?」
そう、会頭が仕掛けた暗殺者の内、エルムが気配を読んでいた一人はその場を動かなかったのだ。
その男が今、目の前に居る。
「…………用があるのは、そっちの二人だ」
「んぁ? ポチとタマに?」
「……あぁ。姉の、面影がある」
そこまで聞いてエルムは少し事態を把握した。
「そちらの幼い双子に聞きたい。母の名は?」
困ったのはタマとポチだ。何故なら父親から母の名前すら聞いてないのだから。
「悪いなオッサン。この二人は生まれた瞬間から父親に虐待されてて、母親の名前すら知らねぇんだ。聞いた話じゃ、こいつらの母親はこいつらを産んだ時に亡くなったらしいぜ」
ギリッと、音がした。壮絶な感情を我慢して男が拳を握りこんだ音だった。
「…………そいつの名は、分かるか?」
問われ、エルムは必死に頭を回す。
興味の無い奴の名前なんて欠片も覚えないエルムであるが、犯罪奴隷として売り払った時に書類で見た気がするのだ。
「………………………………た、確か、ルボルーヤ?」
そして五分かかって正解を思い出して呟くと、同時に目の前の男から色濃い殺気が漏れ出す。
「……あの男はっ、姉の子を売り払ったのかッ!」
どうやらビンゴらしかったと、エルムはホッとした。復讐心とは正当な物であり、エルムもブイズに対して同じ心を持っている。だから自分の記憶違いで意味もなく復讐心を奪うような事によりならなくて良かったと考えているのだ。
「えーと、じゃぁなに、アンタは双子の叔父って事?」
「そうなる。…………どうだろうか、悪い扱いを受けてる様には見えないが、二人が奴隷だと言うなら買い戻させてはくれないか?」
それは当然の要求だった。頭ごなしにエルムにも怒りを向けるような事をしない時点でかなり人格者と言える。
「気持ちは分かるが、断わる。俺は二人を手放す気が一切ない」
「…………どうしてもか?」
「どうしてもだ。例え国王に言われても答えは変わらん」
事が事だけに戦闘不可避かとエルムが構えれば、「国王に言われても答えは変わらん」とエルムが言った時点で相手は諦めた。
「良いのか?」
言外に、二人が奴隷である事を認めるのかとエルムが問えば、男は自嘲的に考えを口にする。
「二人とも、血色が良い。良く食べてる証拠だろう。なにより、距離が近い。優しくされてると誰でも分かる。…………姉の子を買ったのが、お前で良かった。あれだけの手練なら、二人を暴力からも守れるだろうしな」
そう言って顔を隠す布を取り払った男の顔には、確かに双子と似た面影があった。
「どうか姪を、よろしく頼む」
「………………あ、すまん。ポチは男なんだ。姪と甥な」
「…………は?」
「だから、ポチは男。一回ちょっとふざけて服を用意したら気に入っちゃったみたいで」
目の前に居る姪二人をエルムに託そうと頭を下げれば、何故か片方が男だと言われて固まる。
「……似合ってるだろ?」
「まて、本当に託して良いのか不安になって来たぞ」
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